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有能四天王

最近改稿した時期は2020年8月9日です。

 「はぁ・・・・・・っ」

 ガタイがいい男が、バロック様式の大広間の最奥にある椅子に着いたまま、深いため息をついていた。

 ドラゴンの頭蓋をかたどった兜をかぶり、黒色の上等な毛皮のマントと紫色の鎧を身に着けていた彼の正体は・・・・・・平和の国を侵略する計画を練ることに躍起になっている魔王であった。



 「どうかなさいましたか? 我が主よ・・・・・・」

 席に着いている魔王の傍に仁王立ちしているハダカデバネズミの獣人・・・・・・魔王の側近が、心配そうに尋ねたのだ。


 「ガジガジ(ハダカデバネズミ)よ・・・・・・我は常々悩んでいることがある。

 我が直属の配下である四天王についてだ・・・・・・」


 「ああ、彼らですね・・・・・・それが何か?

 彼らが我が主に何か粗相でもしでかしたのでございますか・・・・・・?」


 魔王は、数秒程言いよどんだ後、ガジガジの名を持つ側近に重々しく返答。

 「我が魔王軍の要でもある四天王全員・・・・・・人選を間違えては無いか?」


 実はこの魔王軍の方針として、大幹部である四天王を配下達から選抜することは、魔王ではなく側近が担当している。


 「まずはナカタ トキサダだ」

 


 「おや私の事でございましょうか? 魔王社長・・・・・・」

 魔王が四天王の一人の名を唱えた瞬間に、五十代の人間の男性が、大広間の柱の影からすっと表れた。

 彼の特徴は、スーツを着こなし、髪型はバーコード禿げで、角ばった眼鏡をかけていた。


 魔王の元までナカタは歩み寄り、片膝を赤絨毯に付けて頭を下げる。


 ナカタと呼ばれた男を庇うように、側近が説明する。

 「進言します我が主よ・・・・・・『事務作業デスクワークロード』の異名を持つナカタ殿はこの軍において必要不可欠な存在であります。

 なぜ、彼を四天王にふさわしくないとおっしゃるのでございますか・・・・・・?」


 (なんだその力が抜けるようなふざけた通り名は・・・・・・っ!!)


 「まあ我の言葉に耳を傾けよガジガジよ・・・・・・。

 ナカタ・・・・・・貴様の所持しているスキルを申してみよ・・・・・・」

 

 瞬間、この広間の外から窓越しに雷光が滲み、数瞬程、大広間の空間を白に染めた。

 時間差で雷鳴が轟いた後に彼は口を開く。

 「バエノス商簿記二級に、文章作成検定二級、他にも事務的検定を多数所持しております・・・・・・」


 「戦闘に関するスキルは・・・・・・?」


 「はい。学園の体育の選択授業で、レスリングをある程度修練致しております」


 「他には・・・・・・?」


 魔王からの連なる詰問に、ナカタは面を上げます。

 「は・・・・・・? 特にありませんが・・・・・・」



 呆れのため息を吐く魔王。

 「説教は後で行うとして、ガジガジよ・・・・・・。

 他の四天王のメンバーを申してみよ。」


 「はい、次は『調理クッキングエンペラー』のシスイ殿ですな」


 「お呼びでございましょうか、我が陛下・・・・・・」

 ガジガジが一人の名前を唱えた瞬間に、白く細長い帽子を被っている調理服を着た口髭のニンゲンの男が、ナカタがいた場所と違う柱の陰から姿を周囲に晒す。


 帽子を外して胸元に添え、魔王の元まで歩み寄るシスイを他所に、ガジガジは他の四天王メンバーについての情報を並べる。


 「三人目は『鍛錬トレーニングマスター』のマイヤリー殿ですね」


 「ただ今はせ参じたぜ、マイボスよ・・・・・・っ!」

 ガジガジが言い終えた瞬間、やはり絶妙のタイミングで、魔王が座っていた席の陰から迷彩柄のタンクトップを着こなしている筋肉隆々の(ニンゲン種族にしては)背が高い小麦肌の男が登場した。


 「四人目は『掃除クリーン王女クイーン』のミタラシ殿・・・・・・この城に隠遁する埃という埃を文字通り塵一つ残さず駆逐し、あらゆる汚れを洗練された手腕で殲滅する伝説の清掃員ですよ」

 そうガジガジが四人目を説明した・・・・・・。


 『・・・・・・・・・・・・』


 十数秒後。

 「ガジガジよ・・・・・・四人目だけ他のうつけと違い、噂をしても我の前に姿を現さないのだが」


 調理クッキングエンペラーが、地面に片膝着いたまま挙手をする。

 「ミタラシさんなら、定時パートタイム過ぎたから、帰宅していますよ」


 「誰がパートタイマーから選別せよと申したかこのたわけがぁあああああああぁああああっ!!」


 憤った魔王の全身から瘴気ともとれる禍々しいオーラが発され、建物全体が軽く揺れ、ただでさえ悪かった外の天気が桁違いに荒れ始めたのだ。


 彼の怒号に、側近は慌てふためいて早口に言葉を発する。

 「いったい何が至らなかったのですか・・・・・・?」


 「全部だ! 本来魔王配下の四天王は古今東西強者・・・・・・それも常軌を逸するような猛者にしか務まらない大幹部の名称のはずだがっ!?

 それが? うちのとこは、事務管理責任者・トレーナー・料理長・挙句の果てには時給銅貨十枚のパートタイマー!!

 うつけ者に幹部選抜を任せた我が愚かだった・・・・・・全員非戦闘員ではないか・・・・・・っ!」


 「マイボスよ・・・・・・オレはこいつらとは違うぜ?

 オレは武闘派モンスター共相手に、効率的な体の鍛え方についての教鞭をとっている・・・・・・つまりはマイボスの軍事強化を間接的に手助けしたことには変わりはねぇ。役に立っている!」

 魔王の座っている椅子の背もたれ上面に、肩肘をのせてアピールする『鍛錬トレーニングマスター


 「そういうことを言っているのでは無いっ!!

 それに貴様よりも筋力を誇る化生の配下など山のようににおるぞ!!

 もう四天王のメンバーを変更する! 今度こそ我が直々に武力又は魔力を携えた強者のみを選抜する!

 異論は認めん!

 というか、全員人間ではないかっ! 我の軍の四天王っ!!」


 「え~ですが我が主よ。彼らも武力とは別の方向で非常に有能で、この軍には無くてはならない位役に立っているのですよ?」


 「それじゃあ非戦闘員用の幹部枠を・・・・・・ガジガジ、貴様が勝手に考案しろ。

 もう今は誰の顔も見たくない! さっさと下がれ!」


 「仰せのままに・・・・・皆さん行きますよ」

 ぶちまけるような魔王の叫びに、ガジガジが四天王・・・・・・改め元四天王の三人を引き連れて大広間から退室した。


 大広間の扉の向こう側から、聴覚が非常に優れた魔王の耳まで、微かな音量の会話が届く。


 『それでは、貴方たちのクラスネームを考えないといけませんね・・・・・・』


 『こういうのは、どうですか・・・・・・『新魔王裏四天王改』・・・・・・!』


 『おおっ・・・・・・それは素晴らしい名ですね・・・・・・』


 『ふむ・・・・・・? みんな、なんか見知らぬ四人組がオレ達の元に向かって駆け抜けているぞ?』


 (見知らぬ四人組・・・・・・?)


 『わぁ本当ですか大変!? 皆様すぐに私にしがみ付いて下さいな! テレポート魔法で退避します!』


 そして数秒後・・・・・・。


 「魔王! 貴様の命運もここまでだっ! この聖剣の錆にしてやる・・・・・・!」

 諸刃の剣を装備しているイノシシ人間が、大広間の扉を蹴り破って侵入してきた。

 彼は邪な魔物からニンゲン側の国の平和を護る、種族オークの勇者なのだ。


 「待って下さい勇者様・・・・・・攻撃を仕掛けるときは、四人そろわないといけませんよ・・・・・・」

 彼に続いて大広間に入ってきたのは、ウール製の修道服を身に着けて魔法の杖を装備している女性の僧侶。

 背中からコウモリの翼が生え、頭の両サイドからヤギの角が生えてある・・・・・・どうやら彼女の種族はサキュバスのようだ。


 「サテ マオウヨ・・・・・・セキネンノウラミ ハラサセテクレルワ」

 三人目に突入してきたのは、盾と斧を装備している武闘家。(ファイター)

 どう見ても彼(?)は、土塊つちくれ人形ゴーレムの姿をしていた。

 

 「カカカカカッ・・・・・・人間達の平和のための礎にしてやろうぞ、魔王とやらよっ・・・・・・!」

 最後に大広間にたどり着いたのは、筆程の大きさを持つ杖を構え、ぼろぼろのローブを身に着けている骸骨スケルトンだ。

 どうやら彼の種族は亡霊タイプのモンスターの中でも高い実力を持つリッチらしい。 

 

 「勇者とその取り巻きか・・・・・・」

 敵襲に遭った魔王は特に取り乱すことも無く頬杖をかいてのんきにくつろいでいる。


 「どれどれ・・・・・・」

 魔王は目を凝らした。

 相手の力量を把握する魔法を使用したのだ。

 四人とも常軌を逸する程の実力を持つ戦闘員だと、魔王は察知する・・・・・・。


 「ほう・・・・・・」


 「どうした魔王・・・・・・! 勇者である俺達に怖気ついたか・・・・・・?」

 

 「いや・・・・・・?」

 魔王は口元を軽く曲げ、席から立ち上がり、彼らに向けて片の掌を差し伸べて、こう提案してきた。

 

 「どうだ? 我らの配下に下らぬか・・・・・・?

 貴様らほどの実力者なら、大幹部である四天王の席をくれてやってもよいのだぞ・・・・・・?」 

 

ご覧下さりありがとうございました。

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