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自称異世界転移者

 よろしくお願いいたします。

 ちなみに物語の舞台であるベノレギーと、地球に実際に存在するベルギーとは、架空の国名を付けるために参考にしたこと以外何の関りもございません。

 ※不定期連載で、エタる可能性が高いです。

※最近改稿した時期は、2021年4月20日。

 「こことは、別の世界・・・・・・『チキュウ』って所から来たって、言ったのかいあんた」


 谷川沿いの林道を駆けている二輪タイプの辻馬車【馬車のタクシー版みたいなもの】にて、馬の手綱を取っている御者のおじさんが、客席にいる俺に向かって、信じられないと言わんばかりに問い返す。

 

 御者のおじさんは、少し戸惑っているのを俺は感じる・・・・・・むふふ、注目を浴びることがこんなに喜ばしいことだなんて・・・・・・。次はたくさんの女の子に囲まれてキャーキャー言われたい。


 「ああ、数日前にな。この国とは比べ物にならない位に科学技術・医療技術が発達していて、城や神殿よりもはるかに高い鉄筋コンクリート製の建物がずらりと並んである世界だ。

 もちろん乗り物の類もこんな畜生臭いただ馬が、車を引っ張る単純なものじゃなくて、雷や油を燃料にしていて特定のペダルを踏むだけで鷹よりも速く移動できる鉄のカラクリ車が、大量にあるのさ」


 おじさんは、俺の不遜【自覚はしている】な言い回しに、不機嫌になったのか鼻を鳴らして、次に早口にまくし立てる。

 「確かににあんたの言う通りかもしれんが、馬車にだって良いところがあるぞ。

 例えばほら、今懸命に車を引っ張って走っているこの馬っ!

 昔、知り合いの首無し騎士デュラハンから譲り受けたんだが、なかなかに艶やかな毛並み、鍛えられた筋肉、猛獣や賊を退けさせれるほどの魔力を備え、おまけにに生物学上希少な種類に属しているのだこの馬は! わしの家族同然の立派な娘だ」


 はいはいマウント乙。

 希少な種類・・・・・・? 今俺の目の前にいる頭無コシュタバワーの事か。

 確かに馬の中で比率的に考えてみれば、珍しい種類だが、わざわざ自慢するような程じゃない・・・・・・もっと俺の演説に耳を傾いてくれよぉ?

 

 ため息をついたおじさんは、何か思い出したのか、俺に尋ねる。

 「車か・・・・・・そういえば『チキュウ』には、馬や合成獣キマイラではなく、人が引っ張って動く二輪の車があるという噂を聞いたことがあるな・・・・・・」


 はぁ? 原動力が、人力の乗り物だぁ・・・・・・? これだから『チキュウ』にわかは・・・・・・そんな原始的なものが、鉄塊の鳥が天空を往来し、氷点下の寒さすらも防ぎきるハイパーテクノロジーハウスが存在する世界に今更あるわけないでしょう?


 「いや俺は、知らないね~そんな不便そうな乗り物」


 俺の当然な答えに、首を傾げているおじさん。

 「おかしいなぁ・・・・・・? たしか異世界には、古風を売りにしている観光地で、一人の人間が二人位乗せた車を軽々と引っ張って街中を駆け抜ける疲れ知らずの御者(?)が存在するって話・・・・・・デマなのかな?」


 「デマデマ・・・・・・魔法自体存在しないのに、人間の力だけで重い車と他人を牽引したまま?

 長距離を移動? なんてことさぁ~非効率であり、非科学的すぎるよ。

 もしそんなオーク並みに匹敵する膂力と持久力を兼ね備えた人がいたら、この国ではB級以上のクラスも狙える冒険者になれるぜ」


 「ところで話変わるが、あんたの名は?」


 「急だな。俺の名前を聞きたい? ふふん。いいだろう、この高度文明を持つチキュウの貴族であった俺の名前を心にとどめて後世まで伝承してくれよ」


 「伝承はせんぞ。ただ単に気になっただけだ」


 あっそ、つれないな。

 俺は自分の胸に指さし、高らかと名乗った!

 「俺はゼクスr・・・・・・じゃねえや、 すけ兵衛べえだ。

 あっちの世界では助は『何かを手助けする』意味を持つ。あと兵衛は男の人の名の後ろによく付け加えられる単語だ」

 ふふん・・・・・・なかなか悪くない名だろ?


 「助兵衛か・・・・・・やはりここら辺じゃ聞き慣れない名前だな」

 

 名前・・・・・・そうだ。

 「サインいるか? いるだろ! しょうがねぇーなー特別に無料でくれてやるぜ。

 とりあえずこっち向いてくれないか」


 「いや別にいらんし、それに・・・・・・今運転中だが?」


 おじさんは諦めたかのようにこちらの方に、軽く振り返る。

 そんな彼に対して、俺は、羊皮紙と、とっておきのアイテムを自前の布袋から取り出し、見せつけた。


 とっておきのアイテムの正体というと、木製の六角柱形の筆・・・・・・鉛筆というモノだ!


 「なんだそれは・・・・・・?」


 ふっふっふっ喰いついている喰いついている。羽ペンしか筆記用具を知らない人にはさぞ珍しく感じるだろう・・・・・・。


 「『チキュウ』に存在する鉛筆というものだ。インク無しで紙に文字がかける。インクが零れることもなくパンで消して書き直すこともできる魔法の筆さ・・・・・・どうだ? 珍しいだろう」


 そしてサインを書き終えた俺は、紙をおじさんに渡す。

 どこか不服そうなおじさんは、顔の向きを前方の道に戻し、質問。

 「鉛筆は今までで知らなかったが・・・・・・たしか『チキュウ』には『ボールペン』なんてものも存在すると聞いたが・・・・・・」


 「ボールペン・・・・・・なんだそれは・・・・・・?」

 ボール・・・・・・球体の筆なんて胡乱なものが、この世に存在するのか?


 「わしも詳しくはないが、インクが入っているガラスみたいな筆のことだ」


 俺は軽く吹き出した。笑いをこらえながら否定する。

 「古い古い、インクなんて時代遅れのものなんて最先端な『チキュウ』にあるわけないだろ?

 ちぃ~っと考えればわかりそうな物なのに・・・・・・」

 

 バカにされて怒っているおじさんは、ぶっきらぼうに呟いた。

 「もうすぐ目的地のベレンベレン街に着くぞ」


 すぐに俺達を乗せた馬車は、石造外壁の塔の元までたどり着く。

 もちろんその石造外壁にそびえられている楼門は、閉じたままだ。


 とりあえず門前でおじさんは、手綱を引っ張り馬を停める。

 次に石造外壁の楼門の左端に仁王立ちしている番兵に、俺とおじさんは、身分証になる紙を渡す。

 まあこの国では、盗賊なんて類を伝説上の生き物扱いに分類する程治安が良く平和ボケしているのだから、すぐに審査は通るはずだ。


 「はいどちらも問題ありませんでした。どうぞお通り下さい」

 番兵が、鎧のベルトに留めてある旗を持ち、遠くからでもわかるよう振った。

 少し時間が経った後、門が開く。


 馬車が門を潜る前のタイミング。


 「あのぉ助兵衛さん・・・・・・でしたよね?」

 例の番兵が尋ねてきたのだ。


 やばい、何か身分証におかしいとことかあったのか!? 慎重に作成して、念入りに何度も推敲したのに!!


 「こちらの街は、異世界転移者を歓迎しています。街の中心にある酒場に立ち寄って、是非いろんな話をみんなにしてやってください。

 興味を持って聞いてくれますよ?」


 へ? 冷や汗かかせやがって・・・・・・ああそうだ、たしかここら辺を取り仕切っているしょこうは重度の異世界オタクで、『チキュウ』からやってきた者を迎え入れて特別扱いしているって話は、この国で有名だ・・・・・・だから俺もこの街に来たってことさ。

 よかった怪しまれなくて・・・・・・。


 楼門を潜った先は、まず視界に映るのは一面に広がるベノレギー芋の畑と点在する茅葺屋根の木造軒だ。

 農村地帯だな。

 緑の楕円型の穀物であるベノレギー芋はもちろんこの街の名産だ。渓流蟹・河ウツボも含め是非味わいたい。

 

 少し陽が傾いた時に、目的地であるベレンベレン街の中心へとたどり着いた。

 運賃を俺は彼に払った。

 ここら辺まで来れば建物の種類は、石造やレンガ製のものの比率が高くなり、密集地になっている。


 本来、馬車のおじさんとはここで別れるはずだが、彼も俺と同じで酒場に向かうつもりらしい。

 俺の挑発的発言で不貞腐れているおじさんだが、俺の話自体には興味を持っていたっぽいな。


 おじさんは馬車を通路脇に駐車し、二人で酒場に入店。

 次に席に着く前に店主や他の客に向かって、俺は自分の事を異世界転移者だと演説する。


 「その通りだみんな! この男はどうやら『チキュウ』という異世界から来たらしい。聞きたい奴はこっちに寄れ」

 彼の言葉を機に、ぽつぽついる客全員だけではなく、店外にいる人達まで集まってきた!


 一斉にこちらに向かって質問が矢継ぎ早に飛んでくる。

 そうまくし立てるなって・・・・・・一つ一つ丁寧に答えてやるからよ。


 「たしか雷の力で何時でも音楽が聴けるカラクリがあるって聞いたことあるんだよ」


 「蓄音機のことか? 四角い木製箱の上に黒い円盤を載せてハンドルを回し、針を当てればラッパみたいなとこから音が出るあれのことかな?」

 ん? あれ、ハンドルで動かすということは、雷ではなく手動だよな?


 「う~ん、違うと思う。水晶をはめ込んだ四角い薄い板のことだよ。片手で持てるほどの大きさなんだ。音楽を聴くだけではなく、遠く離れた人と板越しに話せたり、時間を計ったり、ゲームが出来たりするものなんだけど」


 「ははは、面白い冗談だ。薄い板だけでそんな万能な事できるわけないよ、魔法じゃあるまいし」

 確かチキュウには、魔法文化が存在しないって、文献で書かれてたはずだし。


 いや~(客である)可愛い女性の人と自然に会話できるなんて、異世界転移様様だな~。


 談笑している俺の席近くの卓上に、皿やコップが並べられた。


 皿を置いた店主が言う。

 「サービスだよ。異世界人さん、是非この街の名物を楽しんでくれよ」


 「それは有難い。では遠慮なくいったっだっきま~す!」

 俺はサービス料理の一品であるタレかけパイを両手に持ち噛り付いた・・・・・・。

 まずパリパリとした温かい生地の感触を味わえ、次にソースの風味が口全体に広がり、そしてぶよぶよした弾力の強い何かが・・・・・・??


 「ぶほっ! なんだこりゃっ・・・・・・!」


 「蛸パイだよ。小麦粉の生地の中に蛸を入れてソースをかける料理を存在することは、自分でも知っているんだよ。

 試しに作ってみたんだ」

 

 たこ焼きのことかっくそ~、よりにもよってパイ内にぎちぎちと入れやがって・・・・・・俺も蛸を食すのは初めてなんだよ! パイとの相性最悪!

 口内のまずさを飲み物で流すため、俺は卓上のミルクティー入りコップに手に取り、急いで飲んだ。

 そして吐いた。


 「ぶほっっ! げほっげほっ!!」

 なんかミルクティーの中に、生臭くてモチモチした豆ほどの大きさを持つ粒々があるのですけど!?


 ああ大丈夫ですか と、むせている俺に心配して背中をさする客の一人。


 「な・・・・・・げほっ、何を入れた・・・・・・??」


 店主が、いけしゃあしゃあと答える。

 「ベノレギー芋だよ。確かチキュウのニホンってとこでは、紅茶にタピオカというものを入れたものが流行っているそうだね。

 でもタピオカの原材料であるキャッサバってこの国には無いから、ベノレギー芋で代用したんだけど、どうやら相性悪かったみたいかな」


 そりゃそうだベノレギー芋は酒の材料にするか、輪切りにしたものを酢漬けにするのが一般的だ。

 ミルクティーとなぜ合うと思ったんだ・・・・・・。


 「なぜそんな滅茶k・・・・・・目新しい料理をサービスするんだ?」


 俺の質問に店長はきょとんとした。

 「いや異世界出身なら、今までいた場所の食べ物が恋しいだろうと思って試しに再現してみたんだけど・・・・・・ダメだったみたいかな?」

 そして残念そうに肩を落とした。

  

 ああもう、落ち込まないでよ。


 「いや~ただあまりにもあなたの料理がおいしそうだったから、焦って食べてむせてしまったんですよ~。

 まずいだなんてとんでもない・・・・・・」

 と、俺は嘘をついて店主を励ます。


 「そ・・・・・・そうかい? それじゃあとっておきの物をお出しするからね」

 元気になった店主は、不吉そうな言葉を残し、調理場と思しき部屋に向かった。


 よし、

 逃げよう・・・・・・ここにいたら何を口に入れられるか分かったものじゃない・・・・・・。

 

 そう踵を返した俺だが、視線の先・・・・・・店の出入り口には異世界転移者という珍しいもの見たさの野次馬が詰められるように集まっていた。

 やばい、これじゃあここから離れるのにも一苦労だ・・・・・・。


 そんな俺の遁走目論みも、背後からかけられた声によって粉々に砕かれた。

 「運んできたよ。どうぞ」

 店主が持ってきた皿の上にあった料理は、俺にとって見覚えのない物だった・・・・・・。


 なんか白色の長方形上の薄いものが複数並んである。

 他には、ソイソースを満たした受け皿も用意されていた。


 「これは・・・・・・?」


 「刺身だよ。河ウツボの刺身」


 さ・・・・・・し、み・・・・・・?

 生魚を捌いて細切れにし、そのまま調理せずに皿に盛りつけるあれかっ!?

 

 俺は料理を指して尋ねる。

 「あのぉ・・・・・・この街いる方は刺身はよく食べられるのですか・・・・・・?」


 「いいや? そもそもこの国では生魚を食べる文化自体無いんだ。

 初めて刺身用で捌いたけど、是非異世界人である貴方に召し上がってもらいたくて・・・・・・」


 ・・・・・・そりゃあ俺だってねえよ。


 河ウツボ・・・・・・よりにもよって寄生虫が多く蠢く川に生息する魚だ。

 なぜ寄生虫の生息が少ない海水の魚を選択しないんだちくしょぉおおっ!

 

 とりあえず・・・・・・。


 「おじさん。まずおじさんから食べてよ」

 御者に毒見をさせて、食べても大丈夫なのか調べよう・・・・・・!


 「え、わし!?」

 いつの間にかエールを飲んで顔を赤らめていた辻馬車のおじさんは、いきなり俺からの名差しで、戸惑っている。

 「い・・・・・・いや~実はわしは刺身アレルギーでな。

 生魚は食せれんのだ、すまん」


 うんおじさん? 生魚食べる文化が無い国に住んでいるおじさんが、どうやって自分が刺身アレルギーだなんてわかったんだ!?

 渋るのは分かる・・・・・・殺菌消毒してない生ものを食うなんて普通正気の沙汰じゃないからなっ!


 俺は刺身を代わりに食してくれる人がいないか、周囲を見渡す。

 しかし、周りにいた客や従業員や野次馬全員は、俺に対し、好奇の視線を向けている。

 いくら俺が注目を浴びるのが好きだからと言って、今はその数々の視線に対し、純粋に喜べない・・・・・・。

 どいつもこいつも自分は生魚怖くて食べれないけど、他の人が食すこと事体は珍しいから見守っているんだな・・・・・・。


 ・・・・・・逃げ場無しか・・・・・・。

 

 俺は覚悟を決めてフォークで刺身の一つを掬い、醤油に着けて目を瞑ったまま口に入れた。


 おおっ! という歓声がどこからか聞こえる。


 ・・・・・・なんという、まさか初めての感覚だ・・・・・・。


 「お味は如何? 生魚の味なんて想像もつかないけど」

 店長の質問に、夢心地に浸っている俺は答える。


 「身の引き締まった魚がこんなにもおいしいだなんて・・・・・・醤油とよく絡んでいるし、最高だ・・・・・・焼き魚や煮魚では表現できないだろう上品で美しい味・・・・・・」


 俺の感想を聞いた客や野次馬は次に・・・・・・。


 「店長! 私にも刺身を一丁!」


 「ボクも食べてみたいんだよ!」


 「わしにも是非!」


 店長の元まで駆け寄って刺身料理を注文した。




 ・・・・・・ちなみに刺身を食した俺達全員が、食中毒で数日程度寝込んだことは別の話・・・・・・。

 ご覧下さりありがとうございました。

 

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