Linking~カイコウ~
朝の穏やかな陽気を浴び、落ち着いていたあの時間は一瞬にして崩れ去った。
(何でアイツと・・・。)
ゲームメーカーの突然の誘い。もちろん、私たちの意見なんてお構いなし。
(死んでも嫌なんですけど・・・。)
だが、横目でチラッと白を見る。可愛い寝息を立てながら寝ている白を見ると、死ぬ気力はおろか
全てがどうでもよくなってくる。
(とりあえず起こそう・・・。)
私は白を優しく撫でて起こし、事の状況を話す。
寝ぼけ眼で聞いていた白も少しずつ理解し始め、
そして・・・そして・・・喜んだ。
私がこんなにも苦しんでいるのに白は久しぶりのお出かけに大喜びで、部屋着をそこかしこに脱ぎ始める。
「まだ早い!白、早すぎるから!」
私は服を脱ぎ散らかす白を急いで静止させ、脱いだ服を再び着させる。
(気は進まないけど・・・)
アイツが誘ってきたのは気に入らない。
だけど、正直、久しぶりの外出は嬉しいものがある。
朝食を済ませて部屋に戻ってきた後、私はクローゼットから服を取り出す。
アイツの金で買ったものだけど、とりあえず所有してしまえば私のモノだよね・・・?
取り出したのは上下一体の黒のワンピース、紫のリボンに白いフリルレースのジャボ、袖は白いフリル。白のフリルスカートに黒色のプラットフォーム・シューズ、白のタイツ。白と黒を基調に赤い花のアクセサリーて装飾したヘッドドレス。
いわゆる「ゴスロリ」という服である。
可愛くて、それでいて上品で・・・気が付いたらコレに決めていた。
学校の帰り道、近くの本屋で見たことはある。
自分は絶対に着る機会はないと思ってた服を私は着てる。着崩れ1つせず着こなし、鏡の前に立つ。
(わぁ・・・)
サイズもちょうど合っており、締め付けが一切感じない。思わず鏡の前でクルクル回り始めてしまう。
(今回だけはゲームメーカーに感謝しなきゃ。)
「あっ、黒可愛い~!!」
着替えを済ませた白が私の姿を見るなり、こちらに向かって走ってくる。
「あれ、白・・・?」
白の服はいつもと変わらずの白のワンピース姿だった。
胸元にレースが付いてる以外はいつも来ていたワンピースと大差がない。
「どうしてそれにしたの?」
私は思わず白に尋ねる。
「ん~?コレの方がやっぱり落ち着くな~と思って。」
白はそう言うと、クルクル回り始める。
白がワンピースにこだわるのは別の理由があるからだと私は感じている。
私たちがまだ小さかった時、お母さんが仕事で稼いだお金を貯めて服を買いに行ったことがある。
私たちは反対したけどお母さんの、
「オシャレをしないのは女の子の恥」という言葉に根負けして買わされた記憶が残っている。
私は無難にTシャツとズボンを選んだけど、白はワンピースを選んで買ってた。
白の考えとしては上下が1つになったワンピースの方が上下別で買うより安いと考えたんだろうけど、実際の所はワンピースの方が高かった気がする。
「よし、出発!」
白はそう言うと、バタバタと走りながらドアを開けて部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっと待って!まだ準備が!」
だけど、白はお構いなしに走っていく。仕方なく、私も、もうっ!と言いながら部屋を後にする。
外ではゲームメーカーが黒いセダン車を用意して
携帯を触っていた。
「お待たせ!」
ゲームメーカーを見つけ、白は突っ込んでいく。
「おう・・・って変わり映えしない服だな、他にも服あったろ?」
「これがいいの!」
「腕出てるから、冬とか寒くねぇか?」
「2枚着にするから平気!」
「何を2枚着にするんだ?」
「コレ!」
「腕出てることには変わりねぇだろぉ。」
私が到着する頃には、2人の問答合戦が繰り広げられていた。
「もう1人も到着って・・・こっちはこっちで様変わりしすぎだろ。お前ら、本当に姉妹か?」
「何か文句ある?」
バカにされた気がして声に怒気が籠る。
「いいえ、メッソウモゴザイマセン。」
若干、棒読み口調でゲームメーカーが平謝りする。
「それでどこに連れていく気なの?・・・・・・まさか!?」
「違ぇよ。お前らにとってイイところだよ。ほれ乗れ。」
そう言って、ゲームメーカーは後部座席ドアを開けて私たちを促す。
渋々、私たちは後部座席に乗り込み、ゲームメーカーは運転座席に座る。
「よし、行くか。」
意気揚々とゲームメーカーは車を発進させる。
(不安しかないんですけど・・・。)
一抹の不安が頭をよぎる。
車から見える景色は、ここに来た時とは全く違っていた。あのときは景色なんて見てる余裕はなかったけど・・・。
佇むビル群、行き交う人々、車が往来する大橋
全てが新鮮に映る。
「黒見て!船がいるよ!」
「ホントだ・・・。」
大橋の横を船が横切る。船上では何人かの人がはしゃいでいるように見える。
「はしゃぐのも良いが、目的地まで1時間くらいかかるからのんびりしとけよ。」
「1時間!?」
そんなにかかるのかと思い、何だか急に気が抜ける。
「まっ、適当にくつろいどけよ。」
「じゃあ、ゲームメーカー。しりとりしよう!」
「死んでもやらねぇ。」
白の提案をゲームメーカーは一蹴する。
私は白とゲームメーカーのやり取りを聞きながら
車窓からの景色を眺める。
雲一つない青空。こうやって生きてるのが不思議なぐらいの事が起きていたのに・・・。
あのときのことを思い出す。私たちの家で起きた・・・あの凄惨な出来事を・・・。
得られたものより失ったものの方が大きかった。
もし、ジョーカーやゲームメーカーが拾ってくれなかったら私たちはどうなっていたんだろう?
少しずつ眠気が来はじめて、私は静かに目を閉じる。白とゲームメーカーが言い合いをしてるけど、今のところは大丈夫だろう。
白に変なことしたら、ゲームメーカーの男の尊厳を引き抜いたらいい・・・。そして、私は少しだけ落ちていく・・・。
・
・
・
夢を見ている・・・。私は真っ直ぐ、何もない空間を前へと進んでいく・・・。
「・・・・・・て!」
?
「・・・・・・けて!!」
声が聞こえる。誰の声かは分からない。
何かを叫んでる?
「助けて!!」
助けを求めてる?
それにこの声、どこかで聞いたことがある・・・?
「・・・を・・・すけて!!」
この声・・・。
「・・・を助けて!!」
私?どうして?
少しずつ前から光が差し込む。
だけど、そこにいたのは・・・、
「白を・・・助けて!!」
私がいた。白の名前を必死に叫びながら・・・。
私の前に誰かが立っている。
男の人?だけど、ジョーカーでもゲームメーカーでもない。
(あの人は・・・誰?)
顔がよく見えない。その人は、私の前に座り込む。
「白・・・白・・・、お願い・・・白を・・・助けて・・・!!」
人目もはばからず、泣き続ける私。
目の前の人は私の頭を優しく撫でる。
そして、静かに立ち上がり・・・、
「待ってろ・・・必ず・・・救ける!!」
そこで私は目を覚ました。
(何、今の・・・?)
夢なのに、妙なリアル感を感じて気持ちが悪い。
手には汗をびっしょりとかいている。
「おっ、起きたか。」
前方からゲームメーカーの声が聞こえる。
隣では白が笑顔で私が起きるのを待っていたみたいだ。
「もう着くぜ。」
そう言って、ゲームメーカーは車が停められそうな場所を探している。
私は車窓から辺りを見回すと、1軒の花屋が目に留まった。
「えっ、着いたって?」
私はゲームメーカーに尋ねると、彼は花屋を指差しながら・・・、
「だから、ここ。」
私と白は顔を見合わせた。
花屋に入ると色とりどりの花が並び、見たことないような花も陳列されている。
白は興味津々といった感じであちこちの花を見回っている。はっきりいってゲームメーカーに全く似合わない。
「いらっしゃいませ。」
店の奥から若い女性店員がやって来る。
ゲームメーカーは店員を見るなりポケットから1万円札を取り出す。
「これで適当に花包んでくれ。」
「えっ?・・・・・・はぁ。」
店員は困惑気味で万札を掴もうか掴まないかで悩んでいる。
「急に花なんて頭でも打ったの?」
私はやや強めにゲームメーカーをディスってみる。
「打ってねぇよ。必要だから買うんだよ。」
「部屋に飾るの?」
「俺が部屋に飾るのは女体と酒だけと決めてる。」
「ゲスい。」
「何飾ろうが俺の勝手だろ・・・ってお前、意外と口悪いのな。」
ゲームメーカーは若干、唖然としている。
意外というより、元からこんな感じなんだけど・・・。
学校ではイジメてくる男子に対抗するため、とにかく口だけは達者にしようと思って、とりあえず使えそうな悪口は全て頭に叩き込んだ。
ハゲ・デブ・チビ・ゴミ虫・ブス・貧乳・デカおっぱい・・・あと、何か覚えた記憶が・・・。
(あっ、タマナシだ・・・。)
「あの、本当によろしいんでしょうか?」
店員は恐る恐るゲームメーカーに尋ねる。
「おお、釣りはいらねぇから適当にやっといてくれ。」
ゲームメーカーはそう言うと、外へ出ようとする。
「どこ行くの?」
私はゲームメーカーを引き止める。
「煙草吸ってくるから、お前ら花でも見てろ。」
そう言ってゲームメーカーは店から出ていった。
(勝手な人・・・。)
「ねぇねぇ黒。この花、なに?」
「えっ?ちょっと待って。」
結局、私と白は店内の花を見て回ることにした。
程なくして店員が花束を包み終え、ゲームメーカーも戻ってくる。
「あっ、お釣りが・・・。」
店員が釣り銭をゲームメーカーに返そうとする。
「いらないって言っただろ。チップだ。何だったらもう1万円、懐にしまっとくか?」
「いいえ!それは出来ません!」
ゲームメーカーの提案に店員は大きく首を横に振る。
「だったら釣りはもらっとけ。・・・うし、行くぞ。」
「まだどこかへ行くの?」
店を出ようとするゲームメーカーを引き留める。
「これからが本番だぞ。」
「そろそろ教えてくれてもいいと思うんだけど?」
私はゲームメーカーのジャケットの裾を掴みながら睨む。
「・・・ったく、お前らの母親の墓に決まってんだろ?」
車で数十分・・・、
小さな墓園の前で停車する。
「入って1つ目の角を左、5番目の墓がそうだ。」
「ゲームメーカーは一緒に来ないの?」
白はゲームメーカーに尋ねる。
「俺には行く資格がないからな。」
ゲームメーカーはそう言うと、助手席に置いてある荷物を私たちに手渡す。
「適当に果物と酒を用意しておいたから行ってこい。ここで待っててやるから。」
いつもと雰囲気が違っていて変に気持ちが悪かったけど、私と白は車から降りて墓園に入っていく。
「ったく、アイツも面倒事押し付けてきやがる・・・。」
墓園には何人かの人が墓参りに訪れていた。
私たちはゲームメーカーに言われたとおり、1つ目の角を左に曲がり、5番目の墓を探す。
「あった・・・。」
そこには確かに「揚羽家」と刻まれた小さな墓があった。
私たちは花を供え、ゲームメーカーから渡された果物などを丁寧に置いていく。
(来てよかったのかな・・・?)
あのときの出来事を思い出す。お母さんにトドメを刺したのは、アイツではなく私たちだ。
そして、白はその時の記憶は残っていない。
その方が幸せなのかもしれない。白にとってあまりにも耐え難い真実なのだから・・・。
唯一、覚えているのは私だけ・・・。
私は一生、この事実を背負って生きていく。
昔の私だったらきっと、耐えきれず押し潰されていただろう。
だけど、今の私には生きる目的が出来た。
お母さんには負けるけど、白を護るという目的が・・・。
だから、許してほしいだなんて言わない。私が全部背負うから、白だけは幸せにしてみせる。
(それが私の覚悟・・・。)
チラッと白の方を見る。目を閉じて静かに合掌している。
(何を思ってるんだろう?)
突然、両親がいなくなって・・・そして、お母さんが亡くなっていたという事実
普通だったらパニックになってもおかしくない。
だけど、白は冷静だった。少し不思議に思うぐらいに・・・。
「ん?どーしたの、黒?」
合掌を終えて白が私に気付く。
「ううん、何でもない。行く?」
「うん・・・。」
少し名残惜しそうな白の左手を握り、私たちは墓園を後にする。車に戻る途中で私は後ろを振り返る。
(じゃあね・・・お母さん。)
柔らかい風が私たちに吹いてくる。
まるで、私たちを後押ししてくれてるかのように・・・。
「おう、もういいのか?」
車に戻ってきた私たちをゲームメーカーが出迎える。
「うん・・・・・・ありがとう。」
「ん?何が?」
「お母さんの墓、建ててくれて。」
「言い出したのはジョーカーだ。礼ならアイツに言え。」
「でも、ここまで連れてきてくれたから・・・。」
「コレもアイツの頼まれ事だ。」
そう言うと、ゲームメーカーは車を発進させる。
車内は静寂に包まれていた。いつもは騒がしい白も気が抜けたように静かに座っている。
走り続けて数分・・・、ゲームメーカーは話を切り出す。
「明日から爺さん、色々教えてやるってよ。」
「・・・・・・そう。」
「何だ、嬉しくない感じか?安心しろ。あの爺さんに教えてもらえば、お前らはもっと強くなれる。お前らのように虐げられてきた人間を今度はお前らが護れるようになる。」
「・・・私たちに出来ると思う?」
「出来ないことを強要したりしない。出来ると思ってるから才能を伸ばすんだよ。出来ないより出来ることの多い方が人生楽しいぜ。」
ゲームメーカーはバックミラー越しに私たちに笑いかける。
「たまには良いこと言うのね。」
素直に礼を言うのが恥ずかしくて、皮肉混じりに礼を言う。
「たまにはじゃなくて、いつもなんだがな~。」
ゲームメーカーはやや失笑しながら前方に集中する。
「これから帰るの?」
「いや、ちょっと寄ってく所あるから、お前ら息抜きがてら街ブラでもしてくか?」
「する~!」
白が前のめりに返答をする。
「決まりだな。」
数分後、やや人通りの多い場所に車を停める。
「16時ぐらいになったらココに帰って来い。あと、ほれ小遣い。」
ゲームメーカーは私に1万円札を手渡す。
「そんぐらいあったら、そこら辺のもんは何でも買えるだろ。無駄遣いするなよ?全部使ってもいいが。」
「は~い!」
「じゃあ、解散。」
そう言うと、ゲームメーカーは人通りの中に姿を消していった。
(迷いそう・・・。)
私は少し不安になったが、アイツなら手段問わず私たちを見つけそうと思ってしまった。
「白、どこ行く?」
「ん~とね~、ソフトクリーム食べたい!」
「じゃあ、行こう。」
私は白と手を繋ぎ、どこにあるかも分からないソフトクリームを売ってる店へ歩き出した。
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「すぐ見つかったね~。」
歩いて数分、喉が渇いたから近くのコンビニに入るとソフトクリームを売ってたからそれを購入。
白がソフトクリームにかぶりつく。
「白、口に付いてる。」
念のために持ってきていたハンカチで白の口を拭う。
「ありがとう黒!」
そう言って再びソフトクリームにかぶりつく。
見ていて何だか自然と笑顔が出てくる。
「次はどこ行く?」
私は白に行きたい場所を尋ねる。
「う~ん、あっち!」
そう言って白は、大通りの方を指差す。
「分かった、行こう!」
私と白は指を差した方向へと駆け出す。
見たことないものばかり・・・私たちは時間が経つのを忘れて色々な店を見て回る。
白はあまりに興奮しすぎて、迷子になりそうなのが心配だったけど。
(本当に困ったお姉ちゃん・・・。)
「黒!早くはやく~!」
「待って、白。」
今にも突っ走りそうな白を引き止め、私たちは街ブラを続けていく。
すれ違う人の視線をたまに感じる、主に私の服を見てだけど・・・。確かにこういう服を着てる人はあまり見ない。
(そんなに珍しいかな?)
ふと私は自分の服を確認する。
(可愛い・・・。)
思わず惚れ惚れする。
しかし、白はお構いなしに私から離れていき、急いであとを追いかける。それの繰り返し・・・、だけど、楽しい・・・。
そして、その楽しい時間はあっという間に経ち・・・、
私たちは公園でひと休みをする。
「楽しかったね~黒。」
ブランコを漕ぎながら白は満足げに私に伝える。
「うん、本当に。」
ほぼ、白に付き合わされた感じだけど私も満足だった。白が笑ってくれるだけで私は幸せだし・・・。
「そろそろ戻らなきゃ・・・。」
「・・・うん。」
白は頷くと、静かにブランコから降りる。
「ねぇ、黒。」
「うん?何?」
白は私の方に振り返る。
「黒は今、幸せ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
幸せだった。白が傍にいてくれる。それだけで。
だけど、楽しい時間が終わってしまう時ほど寂しいことはない。
今度はいつ、こんな時間が訪れるだろう?
ひょっとしたら、もう来ないのかもしれない・・・。
それを考えるだけで、切なく・・・苦しくなってくる・・・。
「楽しいよ。白が一緒だったら私はどこでも。」
「そっか・・・じゃあ、私も黒が一緒だから幸せ!」
白は満面の笑みで私の両手を手に取る。
私は泣きそうになるのを必死に我慢し、
「ずっと一緒だよ、白・・・。」
たった一言、白への思いを告げる。
「うん!」
白は大きく頷き、私の手を強く握る。
「行こう、黒!」
そう言うと、白は駆け出す。・・・・・・が、
「わっ!!」
派手に転んだ。頭から地面にダイブした。
「白!?」
私は白に向かって駆け寄るがそれよりも先に・・・、
「大丈夫!?」
白に駆け寄る人影があった。
「どこもケガしてない?」
「うん、大丈夫!」
白を介抱するその人は、茶髪のロングヘアーにどこかの学校の制服を着ている女の子だった。背は私たちより少し高いくらい?顔にはまだ、子供っぽさが残っている。
「良かった・・・。」
女の子は白に笑顔を向ける。
すると、少し遠くの方から・・・、
「おーいラティア。早くしないと捨ててくぞ。」
若い男の人の声が聞こえた。
「あっ、うん!」
女の子はそれに返事をすると、
「じゃあね。」
そう言って、声のする方に駆け出した。
「大丈夫、白?」
「うん、へーきへーき!」
白は服についた砂を手で払いのけると、私の手を握る。
「じゃあ、行こう。黒!」
私を引っ張って走り出す。
私は笑顔で白と共に走り出す。
何があっても・・・どんな時でも・・・私たちはずっと一緒。
白・・・、あなたは私の道を照らしてくれる光だから・・・。
『たとえこの先・・・、どんな辛いことがあっても・・・私は・・・その手を離さない・・・。』
Crime&Penalty karmamemory~揚羽蝶~
〜完〜
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・
・
・
・
どこからか声が聞こえる・・・。
「白・・・白・・・、お願い・・・白を・・・助けて・・・!!」
「待ってろ・・・必ず・・・救ける!!」
━━暴走する狂気
「俺達はバケモノと殺り合ってるのか?」
「アナタモ、ワタシタチヲ・・・クルシメルノ?」
━━永久の誓い
「ずっと一緒だよ、黒。」
「うん。だから、私たちは・・・理想郷を離れる。」
「裏切りの代償は高くつくぜ?・・・揚羽蝶。」
「来い・・・儂が教えた全てを以て、儂を殺してみろ!!」
━━目覚める本能
「私はゼアス兄さんさえいてくれれば、何も要らない・・・。さぁ、兄さん。全てを壊して・・・!」
「グアアアァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!アアアアァア"ア"ア"ア"!!!」
━━衝突する狂気と凶気
「死ね・・・白!」
「死なナいヨ・・・、ダって・・・黒ニ、ほんとうノことヲ、つたエテないカら・・・!」
「あと弾は1発・・・白は・・・私が護る!!」
「全ては・・・神の意思により運命づけられる・・・。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
穏やかな風が流れる。
その世界に「夜」はない。
永遠に「昼」が続く世界。
その世界に1人の女性が本を手に外を眺める。
「あら・・・?」
女性はこちらを向いた。
「こんな所に人だなんて、珍しい。
ということは、あの娘達のkarmamemory(業の記憶)を最後まで見届けたのですね。」
女性は手に持つ本を優しく擦る。
「見届ける覚悟がありますか?あの娘達の・・・たとえそれがあなたの望む結果にならなかったとしても・・・。」
「ふふっ、分かりました。では、開きましょう。新たな世界を・・・。大丈夫。あなたならきっと、真実にたどり着けます。だから・・・見届けてあげて下さいね?」
女性の持つ本が静かに開かれ、その本から現れた光が世界全体を包み込む。
そして、光は徐々にその輝きを失っていく・・・。
「さぁ、行きましょう・・・。」
『罪と、罰の・・・その先へ・・・。』
バタンッ・・・
本は静かに閉じられた・・・。