羽化~ウカ~
揚羽蝶第2話です。
後半は胸糞展開Maxの内容になっています。
そのため、胸糞展開が苦手な方はゲームメーカーがある人物と通話する所で2話を終わらせることをオススメします。
(第3話で後半部分を読んでない方のために、話の流れが分かるようにします)
「今、何て言った!?」
煌びやかな装飾を施した部屋に男の怒号が響いた。
私の・・・揚羽 黒と私の姉、揚羽 白の父の怒号だ。
「だから言ってんだろ?そのガキに金は払えねぇって。」
指を耳に突っ込み少し捏ねくった後、指についた付着物を父に向かって飛ばす。
「俺はお前なら人間だろうがドラッグだろうが
高値で買い取ってくれると聞いて、ここまでやって来たんだ!それを売れねぇだと!!」
父の怒りは収まらない。私達は父にとってただの商売道具でしかない。改めて、そう痛感させる。
それに反して、ゲームメーカーと言われる男はまるで他人事のようにグラスに入った酒を口に含む。
肩ぐらいまでに伸びたストレートの金髪、サングラスで目を覆い、細身の黒いジャケットをはだけて着ている。年齢は40代くらいだろうか。見た目だけで言えば、どこかのヤクザと大差ない。
「確かに何でも買い取ってやるよ。だが、それは俺が気に入ればの話だ。そんなガキ、予備で何十人も確保してるし、予備に似たようなガキはいるからな~。はっきり言って要らねぇんだわ。」
「てめぇ・・・!」
父は今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「何だ、そんなに買ってほしいのか?じゃあ、処分価格で100円で買い取ってやるよ。あっ、2人で100円な。」
「ふざけんなぁ!!」
怒りが頂点に達した父はゲームメーカーに向かって跳びこんだ。
「はぁ・・・Wait(待て)」
ゲームメーカーは静かに・・・しかし、はっきり聞こえるように父に呼びかける。
父はそれを聞いた瞬間、足を止める。
(震えてる・・・?)
微かにだが、父の足が震えていた。そして、父の顔から汗が滴り落ちる。
「喧嘩するのはテメェの勝手だ。んで、覚悟は出来てるのか?」
「覚悟・・・?」
「おうよ。俺と殺りあって惨めな死に様を晒す覚悟があるのかって聞いてるんだよ。」
言葉は鋭い刃となって父の胸を突き刺す。
汗は止まるどころか増していき、その汗は床へと滴り落ちていく。こんな父を見るのは産まれて初めてだった。私はゲームメーカーの顔を見る。
顔には余裕すら浮かび、絶対の自信を覗かせる。
まるで最初から父のことすら眼中にないようだ。
(何なの、この人・・・。)
「で、どうする?殺るのか?殺らないのか?」
父に対して更なる追い討ちをかける。
「・・・・・・・・・・・・ぐっ。」
父は何も言えない。何も言い返すことが出来ない。それを見て、ゲームメーカーの両隣の女達はクスクスと笑い始める。
「・・・・・・・・・クソっ!!」
父は私と白の手を掴み、部屋を飛び出す。
部屋に静けさが戻っていく。
「残念。せっかくアナタの本気が見れると思ったのに~。」
左隣の女がゲームメーカーの頬にキスをする。
「男の方はそこら辺のウジ虫男と変わらなかったけど、あの娘達は勿体なかったんじゃない?いい線いってたわよ?」
右隣の女がゲームメーカーに抱きつき、耳元で囁く。
「足りねぇんだよ。」
「えっ?」
「まだ俺の基準に満たしてねぇんだよ。まぁ、お前の言うとおりあのガキ共は化けるかもな。」
ゲームメーカーはグラスを静かに見つめる。
「だったら尚更キープしておかないと。あのゴミ虫、あの2人を使い物にならないくらいメチャクチャにするかも?
「そうなったら、俺の基準に満たなかった哀れな犠牲者ということだ。」
「ふ~ん?」
ゲームメーカー達がやり取りをしている中、携帯の着信音が鳴る。
ゲームメーカーは着信相手の名を確認すると、
「招集だ。俺行くわ。」
女達を退かし部屋を立ち去ろうとする。
「え~、もう行っちゃうの?」
「まだ、私達と遊んでないじゃない?」
ゲームメーカーの腕を引っ張り、進路を妨害する。
「アイツの頼みは断れねぇからな。他の男と遊んでろ。」
「ヤダ~。他の男なんてブサイクばかり。猿と遊ぶつもりはないわ。」
女達は泣きながら懇願する。ゲームメーカーはやれやれとばかりに女達と口付けを交わす。
「俺が惚れた女がそこら辺の安い男と付き合うとは思えねぇけどなぁ。」
女達は少しずつ顔を紅潮させていく。
「・・・待ってるから必ず来てね。」
「ああ。」
「今度は私達を離さないで。」
「もちろんだ。お前らはもう俺の駒だ。」
ゲームメーカーはそう言い残し、部屋を去る。
外は少し肌寒かった。携帯を手にし、着信相手と連絡を取る。
「今からそっちに行くぜ・・・・・・ジョーカー。」
「ああ、待ってるよ。」
月明かりが照らす中、ゲームメーカーは車を走らせる。
(さて、生き残るかな・・・あのガキ共は?)
しばらくの間、ゲームメーカーの頭から姉妹のことが離れることはなかった。
帰り道、父は一言も話さなかった。
車を乱暴に駐車場に停めると、どこかに行ってしまった。やっと父から解放され、感情が一気に爆発した。互いに泣きじゃくり互いを慰めあった。
・・・・・・ウソだ。幸せなんてあるはずがない。
他の人みたいな幸せは一生こない。一生、このまま。冷たい現実が私達に重くのしかかる。
いっその事、死んだ方がまだマシだった。
泣きながら家に帰り、母は私達を強く抱きしめた。
「・・・ごめんね、ごめんね。」
母の言葉が身体に染みた。嗚咽が止まらず、母親のボロボロの服を涙でグシャグシャになるほどに・・・。
泣き疲れ、やっと身体を休めた。白は私の隣で寝息を立てている。その眼には涙がうっすら垣間見えた。私も寝よう、そう思ったとき・・・母が私達の近くまでやってきた。
寝ていると思ったのだろう。母は私達を静かに見つめ、
「ごめんね。白、黒。・・・だけど、もう・・・り・・・る・・・ら。」
最後の言葉を聞き取れないまま、私は意識を失った。母が何を言おうとしたのか分からないまま・・・。
翌朝、父は深夜に帰ってきたあとすぐに外出したらしい。
父が不在の朝食は、この家が狂気で満ちてることを忘れさせてくれた。
「美味しい?」
母が作ってくれた味噌汁は身体に染みた。白は笑みが無いながらも縦に頷いた。
「ご飯、おかわり有るからね。」
私は母の顔を見る。腫れは少し引いたが、それでも昔の面影には程遠かった。外に出ることすら嫌なはずなのに・・・。
「今日は学校どうする?」
母は私達を案じてか、学校を無理強いしなかった。
「・・・行かない。」
「黒が行かないなら、私も行かない。」
行く気力なんて無かった。行った所で父親のことはクラスのみんなに知られている。もちろん、母のことも。心ない言葉の暴力は私と白に容赦なく降り注ぐ。
どこにも、私達の居場所なんて無かった。少しでも母と一緒に居たかった。この穏やかな時間がずっと続けばいい。そう願うほどに・・・。
夜、父は帰ってきた。酒とつまみを買って。
晩酌を済ませてすぐに眠りに就いた。何もしてこなかったのはかえって恐ろしかったが、静かな夜を迎えられる。そう思っていた。
白と共に眠りに就く。ふと、足音が聞こえた。
父か?と思ったがどうも違う。恐る恐る廊下を見ると母が父が眠る寝室に足を運ぼうとしていた。
その手に握られているものを見たとき、私は言葉を失った。
静かに母は父の寝室に入る。寝息を立て、起きる様子はない。母は父の胸にある物を構える。
長年、母が愛用していた料理包丁。白を起こし、その様子を見守る。止めようと思えば止めれた。
だけど、身体はそれをしなかった。父がいなくなる・・・それだけでも母の行動を認めてしまう自分がいた。
息を整え、包丁を構える母。手は震えていた。しかし、躊躇うことなく父の胸に向けて包丁を振り下ろす。
しかし、異変を感じた父は間一髪の所で避け、包丁は布団に突き刺さる。
「何しやがんだ、このクソ尼!!」
父は母の顔面を蹴り飛ばし、母はその勢いで壁に身体を叩きつける。
「ナメたことしてくれんじゃねぇか、ええ?
誰のおかげで(バシッ!)今までマトモな生活が出来たと(ドゴッ!)思ってんだ!!(グシャ!)最近、手を出してないからって(バンッ!)調子に乗りやがって!!(ダンッ!)」
部屋中に鈍い音が響き、床・机に母の血が付着する。そして、私の前に衝撃で母の歯が飛んでくる。父は殴り足らず、息絶えだえの母の腹を何度も蹴り上げる。見るのも辛かった。あの優しかった母が、いつも私達を気にかけてくれた母がボロ雑巾のようにグシャグシャになり肌が血で染まっていくのを・・・声すら出ない声で私は叫び続けた。
「クソが!!」
何度も蹴り上げ、母はついに動かなくなる。
そして、父はドアの隙間から覗く私達を睨みつける。その眼はもう、人間の目とはいえなかった。
父はドアをこじ開け、私の腕を引っ張り上げる。
「最低だよなお前の母親。ここまで面倒見てやった恩を忘れて俺を殺そうとするんだから。はっ!もう知らねぇ。コイツもお前らもいらねえ。その代わりにお前らの身体を味わってからにするわ。」
(・・・・・・・・・!!)
父は私の服を無理矢理引き剥がそうとする。
抵抗した。抵抗し続けた。身体が引きちぎれてもいい。この男の餌になるくらいなら・・・!
「逃げて!白!!」
白はドアの所で座り込んでいた。その眼に生気は無かった。目の前の状況が理解出来ない、そんな顔をしてた。
「待ってろよ、白!コイツが終わったら次はお前の番だからな!!」
「逃げてぇ!!!」
声が枯れるまで叫び、抵抗した。
白だけは・・・白だけには逃げてほしかった。
犠牲になるのは私だけでいい。
(白・・・逃げて・・・)
叫び続ける中、白と目が合った。
「逃げて・・・白お姉ちゃん。」
「黒が・・・死んじゃう・・・黒が・・・シンジャウ」
生暖かい何かが私の顔に降り注ぐ。ベタベタした何か。嗅いだことのない異臭。眼を開ける。
父の顔は真っ赤に染まっていた。私は父から離れ、辺りを見回す。窓から顔を覗かせる月に照らされ白が立っていた。
「・・・白?」
私は白の異変に気付いた。手には母が持っていた料理包丁、そしてそれに付着する血液、返り血で染まった服。理解するのに時間はかからなかった。
「マクロヲ、キズツケナイデ」
彼女の瞳に私は映っていなかった。
次回3話は5月下旬頃を目処に制作していきます。
お忙しい中での読了、誠にありがとうございますm(_ _)m