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コールドゲーム  作者: 大和ヌレガミ
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1話

「あれ? 健ちゃん、いまそんなにラーメン食べたいの? 先に居酒屋に行ってからのほうが良くない?」


「あ、そっか。孝美は昼飯食ってきたんだよなぁ……いや、オレと先輩はまだなんにも食べてないからさぁ……」


 健ちゃんと、その先輩の野田さんは先導するかのようにそのラーメン屋に入っていった。


 普通、ラーメンっていったら居酒屋の後にものたりないとき食べるものなんじゃないの? と思いつつ、私も醤油ラーメンを注文した。


 たぶん健ちゃんたら、よほどラーメンを食べたかったんだ。ま、そういうマイペースなとこを私は好きになったんだけど……。


 カウンター席の一番右から私、健ちゃん、そして野田さんが座った。


「しかし健もあれやな〜、二年経つだけで関西弁ぬけたな〜、孝美ちゃんの前では標準語でしゃべってるんやろ?」


「い、いやぁ、んなこたないねんけどね、ところどころ混ざりますよ、やっぱ」

 健ちゃんが笑った。


 健ちゃんとは同じ大学で知り合ったのだ。

 今日は二年ぶりに高校時代の先輩に会うというので私を連れてきた。きっと私を自慢したいんだろうね。彼にはそういうところがあるんだ。


 でも彼の友達に会うのは別にイヤとか照れくさいわけじゃなくて、健ちゃんの友達というフィルターを通して、ふだん彼が見せない面とかが見れたりするじゃん。その結果、健ちゃんのことをもっと知れたらラッキーでしょ? とりあえず今日は健ちゃんの関西弁が聞けたからもうけた気分。


「あれ? 野田さん、どっちでしたっけ?」


「いや、多分この通りを先にぬけるんやったと思うで!」


 二人して段取りが悪いけど、なんなのその居酒屋って? なぜそこにこだわるの?

「ねえ、その店って一度も行ったことがないの?」


「うん、前に雑誌で紹介されてて行こうと思っててんけどな」と健ちゃん。


「きっと孝美ちゃんも気に入ると思うで! お洒落でイケてる店やからな!」


 そういうと二人は顔を見合わせ、イタズラっぽく笑った。


 いったいなんなの? どんなとこなのか気になる! もしかして……。


 明後日、6月9日の私の21才の誕生日を盛大に祝ってくれるんじゃ? 

 だとすれば今日のこのワンピースは着てきて正解! 五日前に自分のためにバイト代をはたいて買ったんだ。


 でも誕生日を祝うといってもどんなだろう? 昔、中目黒の『モラリストチョップ』というレストランで『今日は村田孝美さんの19才のバースディです。皆さん拍手をお願いします』とナレーションを流され、店員七名ほどに、ハッピバースディ〜ディア〜たか〜みぃ〜と歌われ、恥ずかしくて顔を真っ赤にしたことがあるんだ。まぁその後に結局泣いちゃったんだけどね。


 気がつくと、健ちゃんと野田さんは私よりずいぶんと先を歩いてる。ときどき振り返るなりして気にかけてくれればいいのに、ミュールを履いてんだからさ! 


 それにしてもどんどんと駅前から離れてる気がする……看板が傾き、閉じたシャッターに落書きをされた商店街、その名も『あけぼの商店街』だってさ! 古っ! こんなとこにトレンド居酒屋はあるの? 間違ってんじゃないかな? 


 クリーニングの松尾……ビニールの雨除けが日焼けして茶色だったのか赤だったのか緑だったのか元の色がわからなくなってるし! 純和風喫茶、梨狸庵リリアン……和風なのは漢字だけじゃん! もういや、こんなとこ! 私たち以外にひと気がないし、電信柱も傾いてる気がするし、異様な磁場が発生してるみたいだ。まるで昭和にタイムスリップした気分。でも現実に生活してる人がいるんだ。そう思うとなんだか悲しくなっちゃうなぁ。なんでだろ?


 健ちゃんたちはまだもたもたと迷ってる。早く座れるところを見つけて……じゃないと嫌いになっちゃいそう。


 こんなとこにお洒落なイケてる居酒屋はあるの? もう足が疲れてきた。十五分以上も歩いている。どこでもいいから早く座りたいよ。普通のチェーン系居酒屋でも良かったのにさ……。


「あ、あった! あれやあれ!」と野田さんが声を張り上げた。


 その階段を降りると地下街に出た。日は差し込まないのに蛍光灯が切れかかってて点滅なんかしてるから暗いんだ。ピータイルの床にはあちこちにガムの跡がホクロのようにあるし、地面には黒っぽいシミみたいなのが……たぶん浮浪者が座り込んだからできたんじゃないかな、なんかこのへん酸っぱい匂いが充満してるし……。


「孝美! ここ、ここ!」

 と健ちゃんと野田さんはその居酒屋に入っていった。外から見れば何の変哲もない普通の居酒屋だったから私も入ったよ、そりゃ。



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