魔物最強のドラゴンVS人(?)代表ポチョムキン 決着編
ドラゴンの表情が苦虫を噛み潰したように、歯軋りをしながらあからさまに悔しそうに変わる。
ドラゴンと言えば炎、炎といえばドラゴン。
そう矜持にしていたドラゴンの悔しさは計り知れなかった。
その矜持を、矮小な人がふざけた方法で破られたのだ。しかしながら、ドラゴンは、怒りに任せることなく冷静に眼下のポチョムキンを睨み付ける。
炎はポチョムキンに効かない、しかし、それはポチョムキンにだけである。
ポチョムキンを遠くで見守る魔族達に目をやるとドラゴンはニヤリと口角を上げて笑う。
ドラゴンの体内を再び赤い光が口へと向かって上がって行く。その速度は先ほどに比べて遅く、まるでタメを作って威力を上げているかのよう。
赤い光が口元に到着して、いざ炎を吐こうと口を開けたその瞬間、下からの突き上げでドラゴンの口が閉じられる。
「そうそう、撃たせないわよ。これ以上撃たれたらアタシのビキニとブーメランパンツがもたないじゃない」
吐く瞬間、ドラゴンの下顎をジャンプ一番で蹴りあげたポチョムキン。まさか矮小な人が自分の顎位置までジャンプしてくるとは予想しておらず、一度口元まで来た赤い光を飲み込んでしまう。
ドラゴン、初めての感覚。
それは、人で言えば一度出かけた吐瀉物を再び飲み込んでしまう、あの感覚。
危うくドラゴンは生まれて初めて逆流性食道炎になりかけた。炎だけに……。
しかもそれだけではなく、蹴りの衝撃で上顎の歯が一本、地面へと突き刺さる。
喉に感じる気持ち悪さで、むせるドラゴン。その空いた一本分の歯の隙間から足元へと火の粉が舞い落ちる。
ドラゴンの側なら安全と高を括っていた真人間達は、頭上から降ってくる火の粉でパニックに陥る。
喉が辛く少し涙目のドラゴンは、歯を剥き出しにしてポチョムキンを睨み付けるが、一本空いた隙間から口内に冷たい空気が入ってきて、頭に上った血を降ろす。
思わぬ強敵にドラゴンは、頭を使って速度重視で細かい炎を吐き続ける。
もちろん、その度に真人間の頭上からは炎が降り注ぐ。
「キリが無いわね! アタシも飛び道具で応戦させてもらうわ!」
目付きが鋭くなるポチョムキン。だが、誰もが不思議に思う。その両手には何も持たず、ビキニにブーメランパンツという姿に武器を隠す場所などない。
息は荒れることなく、炎を避け続けるポチョムキンだが、周囲の炎による熱気で身体には無数の汗が。
心配しながら見守る白の魔王。
無尽蔵とも思えるドラゴンの炎に対して、いずれ体力が尽きるのではないかと。
ポチョムキンは一度大きく後退すると、リラックスしたポーズのまま動かないと、思えば急にドラゴンに背を向けて両腕に力こぶを作り、背筋を見せつけるバック・ダブル・バイセップスのポーズを決める。
力をギリギリと軋む音がしそうなほどに込めると、身体の汗の量が更に増えた。
ドラゴンはふざけるなと言わんばかりに炎を投げつけるように吐き出す。ポチョムキンは、それを華麗に横っ飛びで後ろを見ることなく躱す。
すると今度は己の手首を取り、横向きに大胸筋を盛り上げるサイド・チェストのポーズに変わる。
再び力を込めると止めどなく流れる汗。
「いくわよ!」
そのままポチョムキンは、頭の後ろで手を組み腹筋と下半身の筋肉を強調するアブドミナル・アンド・サイのポーズを取り弓の弦のようにタメを作り解き放つ。
「愛と泪と汗の結晶は美しい‼️」
周囲に飛び散る汗、汗、汗。ドラゴンはふざけるなと再び炎を吐き出す。
汗のような水分など蒸発させてやるわ、と。
ところが、非常識の塊であるポチョムキンの汗に常識など通じるはずもなく、一度は炎に包まれても、炎を突き抜ける。
そして汗は、ドラゴンの鼻と目に命中した。
「グゥエエエッッッッ‼️(くせぇ~! しみるぅ~!)」
ドラゴンの雄叫びは遥か遠くまで響く。ジタバタと四肢を踏みしめながら暴れるドラゴン。
その周囲にいた真人間もポチョムキンの汗とドラゴンの足に翻弄されていた。
飛んだ汗は前方だけではない。もちろん、背後にいた白の魔王率いる魔族達にも。
「魔王様、危ない!」
以前山で見張りをしていた若い魔族は、汗から魔王を身を呈して守る。
大丈夫か、と近寄りたいが汗臭くてたまらない。
ただ一人、タローだけが汗まみれでも平然と立っていた。
暴れるドラゴンは、やがて足を踏み外して谷の底へと落ちていく。
ドラコンの周囲にいた真人間で無事だった者も一人もいない。
あとは、橋の向こうで、舐めきっている人間と真人間を残すのみとなっていた。




