魔物最強のドラゴンVS人(?)代表ポチョムキン
白の魔王は詳しく調べるように命令を出して、偵察を放つ。
その間に、魔族達は軍備を整えて整列して命を待つ。
「偵察はまだ戻って来ないか?」
「恐らく、もうすぐだと……はっ、戻って来たようですぞ」
白の魔王の眼前に整列している魔族達に割り込むように若い魔族が白の魔王の前で跪く。
「報告します! その、ドーハ橋を塞ぐように人間、真人間どもと共に……ど、ドラゴンが!」
ドラゴンと聞き魔族に動揺が走りざわつき出す。魔物の中でも最強とされるドラゴン。
そんなドラゴンをどうやって手懐けたのかは、分からないが今はそれどころではない。
ドーハ橋は深い谷を繋ぐ唯一橋で、ここを渡らなければ黒の女王の居城に辿り着けない。
魔族を見下ろし舐めてきた人間、真人間が、このドーハ橋を封鎖するという策としては至極当然のことをしてきた。
「人間、真人間どもも本気になったと言うことですか」
白の魔王はチラリとドラゴンに対抗出来そうなポチョムキンの姿を探す。
しかし、何処にも見当たらないではない。
「私が何とかしてあ・げ・る」
いつの間にか背後に立ち耳元で囁かれ、背筋に悪寒が走り体のあちこちに鳥肌と蕁麻疹が出来始める。
白の魔王が恐る恐る横に視線を移すと自分の顔のすぐそばにポチョムキンのデカイ顔が。
舌で真っ赤なルージュが引かれた唇を舐めると、微かに舌が頬に触れた気がした。
白の魔王の頭の中には最大限に警報が鳴り響く。白の魔王は勘違いを思い知らされる。ポチョムキンはいざとなれば、容易く自分を連れ去って行く事が出来るのだ。
ただ、夜中にやって来たのはそういうシチュエーションが好きなだけ。
自分はもう逃げられない──そう自覚させられた。
逃げられないなら徹底的に利用しようと白の魔王は吹っ切れた。
「ポチョムキンさん、お願いします。ドラゴンを、人間、真人間を何とかしてください!」
「任せて、うふっ」
自分のすぐ側でウインクを見せられて表情が固まってしまう。
ポチョムキンと白の魔王のやり取りを目の前で見せつけられた魔族達は、感動の涙を流して止まらなかった。
白の魔王はその身を犠牲にしてまで、我らが魔族の為に、と。
夜が明けてから白の魔王とポチョムキンを先頭にドーハ橋へと向かう。まだ、肌寒いがドーハ橋に近づいて行くに従って体感温度は上がっていった。
「皆、止まれ!」
白の魔王は進軍を止めると、まだだいぶ距離があるにも関わらず、その巨体が見えていた。
橋の入口を完全に塞ぐように立つ巨体。
しっかりと四肢で大地を踏みしめ、赤黒い鱗に覆われており十数人を一度に飲み込めそうな口からは時折炎が漏れだしている。
長い首の先にある鋭い眼光のドラゴンの眼は、ふてぶてしくポチョムキン達を蟻でも見るようであった。
「あれが、本物のドラゴン……」
ドラゴンの横には真人間と思わしき数人の人が。更に橋の向こうには人間、真人間の大軍が待ち構えていた。
「いつでも、逃げれる用意をしておいてちょうだい」
一歩前に出たポチョムキンは、白の魔王にそう伝えると背中のタローを降ろす。
そして、一歩、また一歩とドラゴンへと近づいていく。
近づいていくにつれ、気温がどんどんと高くなる。
元々体温が異常に高いドラゴンは、己の体温のせいで周囲の空気が揺らぎ陽炎を作り出していた。
矮小な身でありながらドラゴンの自分に臆さずに一人で向かってくる男に、ニヤリとその鋭い歯を見せつけて笑みを浮かべると、体内から首を通り口に向かって赤い光が通っていく。
「皆、もっと退け! ブレスが来るぞ!」
白の魔王の合図に一斉に退いていく魔族達。白の魔王もいつでも逃げ出せるように後ろに重心をかける。
「ポチョムキ~ン、バリアー‼️」
ポチョムキンが叫ぶと同時にゴオォォォォッ! と、炎が吐かれてポチョムキンを一気に包み込む。
「ぽ、ポチョムキンさ~ん‼️」
さすがに白の魔王もこれには焦りを隠せずにいた。
まさか、ポチョムキンが逃げずにいるなんて思いもしなかったのだ。
やがてブレスが止まりドラゴンの眼下は火の海と化していた。
「……ぉぉぉぉぉおおおおおっ‼️」
一歩も退がること無く、その場で蹴りや突きをシャドーボクシングのように繰り返すポチョムキン。
その体には火傷一つ無い。
シャドーを繰り返すことで拳圧によりなにものも寄せ付けない、それがポチョムキンバリアーであった。




