黒の女王が黒を好み魔族を嫌う理由(ワケ)
「なんですって!? 魔族に負けた!?」
ポチョムキンが現在いる北の山脈からずっと南の先に真人間が中心の街があり、そこには黒光りする漆黒の城が建てられていた。
城の最上階には、壁や天井の黒が映えるように、細かな刺繍が施された真っ赤な絨毯で敷き詰められており、唯一鎮座する椅子に座っていた黒の女王は報告を受けて思わず立ち上がる。
北の山脈に白の魔王を追い詰めたと聞いていた黒の女王は、人間と真人間の混合軍が全滅に近い敗北を喫したと聞き、白い肌の顔を真っ赤に染めて怒りを手に持っていたグラスへとぶつけた。
黒の女王の横にパンツ一枚で背筋良く立っていた男は、すぐに割れたグラスを一片も残さず片付ける為に、四つん這いになると、その顔は黒の女王の黒いハイヒールのかかとで踏みつけられる。
「一体、何があったのです‼️ 説明なさい‼️」
女王に報告に来た者は、北の山脈から逃げ出してきた者から途中で伝言を受けただけでその場にいた訳ではなく、逃げ出してきた者の言葉をそのまま伝えた。
白の魔王は化け物を操り、人間、真人間を蹂躙したのだと。
「化け物? くそっ、忌々しい白の魔王め! ならば、こちらも化け物であたれば良い! 西地区でドラゴンを捕獲したと言っていたな。わらわは忙しくてまだ見ておらぬが、ドラゴンならばその化け物とやらも、歯が立たぬであろう」
「はっ! すぐに手配して参ります」と、頭を下げて部屋を出ていくと、パンイチの男を引き連れて、奥の後宮へと向かう。
(忌々しい、白の魔王め……)
親指の爪を噛みながら苦虫を噛み潰したよう表情の黒の女王。
そんな表情をさせて後宮へと入るものだから、そこに整列するパンイチの美少年、美青年らは何か自分が失態でも犯したかと緊張する。
黒の女王の眼前に並ぶ美少年、美青年を眺めつつ、椅子に座り長い脚を組む。
何を言われるのだろうかと緊張が走る後宮を他所に黒の女王が考えていたのは白の魔王のことばかりであった。
白の魔王の顔を思い浮かべる度に嫌な記憶が甦る。
それは黒の女王が、まだ黒くなかった頃の記憶──
◇◇◇
黒の女王は最初黒が嫌いだった。闇を思わせるほど黒い髪に、人から深淵を覗くような瞳と言われ続けた黒い瞳。白い肌が却ってその黒さを引き立てていた。
女王就任当時、周囲から後宮を持つように言われ、集めたのは美少年や美青年と言われている男たち。美少年の噂を聞けば己から見に行き見定める。
気に入れば有無を言わさずに連れ帰っていた。
そんなある日、またもや美少年の噂を聞きつけた女王は、己の目で確かめるべく、訪れた。
そしてそこで出会ったのは、髪まで白く銀色の瞳の少年。
まるで降り積もったばかりの雪のように真っ白で、自分の嫌いな真っ黒な髪さえも包み消してくれるような。
しかし、皮肉にもその少年は魔族であった。
周囲は反対するものの、当時から絶大な権力と力を持っていた女王は、有無を言わさず後宮に迎え入れる事を決めたのだった。
女王は初めて見たばかりの少年に惚れてしまっていたのだ。
すぐに少年の家族に後宮に厚待遇で迎えたいと話すと、少年の母親が「汚い格好で差し上げることは出来ません。身支度を整えた後、この子を女王陛下の元にやります」と言われる。
なるほどと納得して珍しく許可したのは、無理矢理少年を後宮に迎えたくないという気持ちがあったのかもしれない。
翌日、今か今かと待ちわびる女王の元に一報が。
「少年と母親が夜の内に逃げ出したようです‼️」
怒り狂った女王はすぐに追っ手を差し向けたが、少年も母親も見つからなかった。
それからの女王は白が嫌いになった。城を黒く染め上げ、黒で自分の白い肌を隠すようになった。
それからの女王は魔族が嫌いになった。魔族から商品としての価値すらも奪った。
それから二十年の時が経ち四十を越えた女王は人々から、いつしか“黒の女王”と呼ばれるようになり、少年は白の魔王と呼ばれるようになっていた。




