救世主とはなんぞや
山の頂上を目指して逃げ惑う人間、真人間の群れに上空から降りたったポチョムキン。着地時に放った一撃で、周囲の人間、真人間は吹き飛ばされる。
白の魔王を初め他の魔族達も初めて見た人外な力と姿に最早隠れることすら忘れて見とれていた。
「ば、化け──」
「誰が、化け物よ‼️」
白の魔王の隣にいた側近が、ポチョムキンの出固品によって吹き飛ばされていく。
その場にいた者達は、思わず同じように思っていた言葉を飲み込んだ。
「あなたが白の魔王かしら?」
ニヤリと真っ赤なルージュを歪ませるポチョムキンの笑顔に指名が入った白の魔王の表情は凝り固まる。
「あら、元気ないわねー。大丈夫よ、これで元気になるわ。ポチョムキン四十八手の必殺技の一つ“愛のくちびるから魔法”」
ブチュ、と音がしそうなポチョムキンからの投げキッス。
周囲の魔族達は、思わず口から何か出そうになり両手で押さえつけるが、それは見えていなかった。
白の魔王だけには奇妙なモノが見えていた。ゆらゆらとこちらへゆっくり向かってくるキスマーク。
避けよう、そう白の魔王が思った瞬間に、それは急激なスピードで向かってきたのだ。
「ふん!」
命懸けになれば、何でもできる。白の魔王も向かってくるキスマークのスピードに負けない位、腰を後ろへ折り曲げて躱す。
「おや、よく躱せたわね」
愛のくちびるから魔法を食らった者は、愛の虜になるか死が待っている。ある意味どちらも死は免れないようなものだけれども。
「魔王様、大変です‼️ 麓から人間と真人間の軍勢が‼️」
「あら、どうやら散り散りになったのを、まとめあげて来たようね」
ポチョムキンは踵を返すと、背中で目を回していたタローを下ろすと、近くにいた魔族に介抱を頼む。
そして一人、人間、真人間に立ち向かって行くのであった。
「魔王様、もしや、もしやアノ人が救世主なのですか!?」
白の魔王も分からないと首を振る。ただ、たった一人で己の肉体一つを武器に人間、真人間に対して圧倒的に見せるポチョムキンに、白の魔王も救世主ではないのかと思い始めてきた。
そんなポチョムキンに対して真人間も本領を発揮する。一人の真人間が、ポチョムキンの前に立ちはだかり「舐めるなよ!」と豪語すると、上半身の服が破れてポチョムキンに負けないほどの筋肉を見せつける。
だが、それで終わらない。その男はみるみるガタイが大きくなり、ポチョムキンの三倍以上の大きさに。
「フハハハハハハハ、どうだ、ビビったか!」
大男となり、ポチョムキンに対してポチョムキンを覆うほどの拳を振り抜く。
白の魔王がいる場所まで響く揺れ。
しかし、大男がポチョムキンを次に見たのは自分の眼前であった。
──正拳出固品・人!
ポチョムキンは大男の額に向け、人差し指でデコピンを飛ばす。“人”は“薬”より一段階上の威力。
大男は、ぐるりと白目を向いて後ろへと倒れてしまう。
再び人間、真人間達は大男の下敷きになり、散り散りになってしまった。
ポチョムキンは、大男の上に一人立ち拳を強く握りしめ見せつける。
「さぁ、まだやるのかしら?」
雰囲気だけではなく表情の不気味さに逃げていく人間と真人間。
その知らせを見張りから聞いた白の魔王は、ホッと一息を吐いた。
白の魔王は怪我人の治療を指示していると、そこにポチョムキンが戻ってくる。
ポチョムキンは恐らく人間だ。もしかしたら、真人間かもしれない。
しかし、自分達を助けてくれたのは事実で、白の魔王は礼を述べる。
「何言っているのかしら。まだまだこれからでしょ? 黒の女王を倒すんじゃなくて? 力、貸すわよ」
「な、何故、人間(?)である貴方が私達魔族に力を? 貴方は救世主なのですか?」
「救世主? そうね、そうとも言えるかもね。アタシはね、美しい男を守りたいのよ。例えば、貴方みたいにね」
白の魔王に向けられたウインクが、頬を掠り後ろにいた大怪我をして瀕死だった魔族へと当たると、ビクンビクンと痙攣を起こしたあと意識を取り戻した。
打倒、黒の女王に僅かな希望を見出だせた魔族達は準備をしながらも、湧き踊る。
そんな中、一人白の魔王は空を見上げて呟いた。
「私個人への救世主は現れてくれないのだろうか?」
ポチョムキンから身の危険を感じとり、白の魔王は黄昏るしかなかった。




