突然の最終決戦とエピローグ
醜い、余りにも醜い姿に誰もが言葉を失う。最早、化け物としか言い様のない黒の女王の姿に。
それは、ご多分に漏れずポチョムキンでも奇っ怪な物でも見るような目を黒の女王に見せていた。
本来の姿を見せたくなかった黒の女王は、怒りに身体を震わしていた。
「醜いわね」
ポチョムキンのその一言がきっかけになり、黒の女王はポチョムキンに向かって一瞬で距離を詰めると、そこから太い四本の腕で殴りかかった。
「退いてなさい」
近くにいた白の魔王を手で押して自分から引き離すと、両腕を顔の前でクロスさせて防戦一方のポチョムキン。
只でさえ一発、一発が重そうなパンチが四本の腕により絶え間なく襲ってくる。
流石のポチョムキンも黒の女王には勝てないのか。
白の魔王は、ポチョムキンにより拓かれた希望の道が崩れていくのが見えた。
「…………わね」
「グハハハハッ、なんだぁ聞こえんぞぉ! ほらほら、なんか言ってみよ‼️」
「みっともないって、言ってるのよぉー!」
突然、黒の女王の四本の腕が後方へ弾かれる。ガードも出来ないほど体を大きく開きボディ前面ががら空きとなってしまう。
しかし、ポチョムキンは追撃を行わず、黒の女王を指差して睨み付けながら怒鳴る。
「みっともないから、その胸を仕舞いなさい!」
「「……はっ?」」
思わず黒の女王だけでなく、白の魔王までもが呆気に取られる。突然何か言ったと思ったら胸を仕舞えとは。
確かに大きくブルンと震える黒の女王の胸。
真っ黒な硬い皮膚に覆われているが、裸と言えそうだが裸の自覚は黒の女王にも白の魔王にもない。
「せめて、アタシみたいにビキニを着けなさい! それが乙女の嗜みよ!」
自分の着ているハート型のビキニを指差して胸を張るポチョムキン。
黒の女王は思う。この男は何を言っているのだと。そもそも、お前は男で乙女ではないだろうと。
しかし、真面目な顔をしているポチョムキンを見て、何も言えない空気が漂う。
「す、すまない。次から気をつける」
咄嗟に謝ってしまう黒の女王に、一人白の魔王は、これは一体何の時間なのだろうと、口を開きっぱなしになっていた。
改めて距離を取ったポチョムキンと黒の女王。急に緊張感が漂い、ついていけない白の魔王は、唾を飲み込むと、それを合図に二人の距離が一気に縮まり拳と拳がぶつかる。
再び四本の腕で殴りかかる黒の女王に対して、二本の腕で見事に捌くポチョムキン。
無尽蔵の体力で畳み掛ける黒の女王。
捌くのがやっとなのか、ハラハラと心配する白の魔王だったが、何か違和感を感じとる。
その違和感の正体は視線。先程からチラチラとポチョムキンが自分の方を見ているのに気づいた白の魔王。
まるで何かを訴えているようであった。
何をすればよいのか戸惑う白の魔王に対して、今度は何度か貧血のようにふらつきながら「力が足りないわぁ」とか、「愛の力が不足しているわ」とか大きな声を出す。
応援が欲しいのかと、白の魔王は小声で「頑張れ~」と言うが、ポチョムキンは違うと首を横に振る。
そして、終いには、HEYカモンとばかりに手招きで催促してくる。
「頑張れ、ポチョムキンさーん! タローはポチョムキンさんを愛してますよー‼️」
瓦礫のを乗り越えいつの間にか白の魔王の隣にいたタローは、そう叫ぶと次は貴方の番ですと言わんばかりに白の魔王へバトンを渡す。
戸惑う白の魔王へ再び催促の手招きをするポチョムキン。
もうヤケだと白の魔王は、それでも消え入りそうな小声で「あいしてますよ、頑張ってください」と呟く。
「言質もらったわアアァァァッ‼️」
急に張り切り出したポチョムキンは、アッサリと黒の女王の四本の腕を捌くなり、空いたボディを下から突き上げる。
黒の女王の体躯はくの字に折れ曲がり、足が地面から浮き上がった。
「ば、バカ……な……」
足が浮き上がり何も出来なくなった黒の女王に対して、ポチョムキンはトドメへと入る。
「必殺! 二人の愛の監獄‼️」
白の魔王は気づくとポチョムキンの側におり腕をしっかりと掴まれていた。
まるで二人の共同作業と言わんばかりに。
ポチョムキンが両腕を上げるダブルバイセップスのポーズを取ると、白の魔王は浮き上がると同じくして、くの字に曲がり顎が落ちたところを突き上げた。
特に白の魔王は何の作用もしていないが、黒の女王の顎は割れ足が震える。
そして、ポチョムキンは白の魔王を掴んだ方の手で黒の女王を殴り付け、土手っ腹に風穴を開けた。
生まれて初めて、目と鼻の先で生物に風穴が開くのを見た白の魔王は、不覚にも気を失ってしまったのだった。
◇◇◇エピローグ◇◇◇
黒の女王が倒れてから一週間が過ぎようとしていた。
白の魔王は、魔族の解放が目的であり、黒の女王に取って変わるつもりはないと、一度は断るが、一時の間という期間限定でリーダーとして君臨する事になる。
初めに掲げたのは、魔族だろうと、人間だろうと、同じ“人”として扱うことを宣言した。
そして、真人間達は、その奇妙な能力や姿から、いつしか“真者”と呼ばれることとなった。
人を襲った真者は、討伐すると決めた為に、命が惜しくなった真者達は、人里離れた場所へと移り住んだ。
ポチョムキンは、その姿は、もうなかった。黒の女王を倒して三日後にタローと共に旅へと出ていった。
全てが終われば、自分も襲われると思っていた白の魔王は、引き留めるか悩んだが、旅に出ると報告を受けた翌日には、その姿はなくなっていた。
白の魔王は、時折ポチョムキンの最後に残した言葉を考える。
それは、ご馳走さまの一言。
白の魔王は何の事だかわかっていないが、白の魔王に仕える魔族達は目撃していた。
最後の最後で気を失った白の魔王を襲った悲劇を。
しかし、この事は白の魔王が生涯知ることなく、魔族達の団結により、見ざる聞かざる言わざるを通し、歴史の闇へと埋もれていくのであった。
そして──
ポチョムキンは今、リアカーを引きながら街道を進んでいた。
リアカーの荷台には縄で縛られた多数のいい男達が積み重ねられている。
更にその上には、タローが足をぷらぷらとさせながら、遠くの景色を眺めていた。
この縛られた男達は、黒の女王の後宮に居た者達である。城と共に無くなったと思われた後宮は、実は城の地下道を通って別の屋敷と繋がっており無事であった。
彼らを見つけたポチョムキンは、捕獲して縄で縛りリアカーに積み重ねておいた。
もしもの話であるが、彼らが城の崩壊の巻き添えを食らっていたら、白の魔王は無事ではなかったであろう。
ポチョムキンの愛は、一人より多数へ向けられたのである。
「これから何処へ向かうのですか、ポチョムキンさん?」
「そうねぇ。海を渡った先にあるという島国に行ってみようかしら」
「いいですね。噂で聞いたのですが、その島国にはジャウニーズジムショとか言うのがあって、老若男女に好かれるいい男が集まっているそうですよ」
「それは、是非行かないとね!」
張り切り出したポチョムキンは、リアカーを引く速度を速めて街道の彼方へと消えていった。




