薔薇の四天王 その二
いつの間にか、各階で待ち受ける薔薇の四天王の二番手までを華麗にスルーしたポチョムキンと白の魔王。
白の魔王など、見た目で分かりそうなものだが、話しに聞いた真人間を屠って来た強き化け物にしか興味のない脳筋の薔薇の四天王。
白の魔王なんぞに目が行くわけがない。
「ふふふ……やはり二階まで上がってこれぬか。ふふふ……」
一階で戦っているであろう、四天王の中でも最弱の一番手は、城門の門扉に下敷きになり未だに発見されずにいた。
そんな事とは露知らず、自分の背後を通ったポチョムキンに会釈するのも仕方ない。
何故なら二番手の中では、ポチョムキンは一階で戦っているはずなのだから……。
相も変わらず、ポチョムキンは部屋の扉を壊して壁や柱を、破壊していく。
「ちっ! なんだ、さっきから……騒々しいな」
四天王の二番手の男は、自分の背後から悲鳴や何かが壊れる音に漸く気づく。
「やかましいぞ!」
階段前から廊下に移動した男が見たものは、廊下に散らばる扉の数々と、壁や柱を壊した時に出た土煙、部屋の中は散乱する家具に隅で怯える城使いの者達。
しかし、そこには既にポチョムキンと白の魔王の姿はない。
ただ事ではない、と流石に思った四天王の二番手は、再び階段に行くと三階に向けて叫ぶ。
「大変だ! ちょっと来てくれ!」
三階の階段前で両腕を組み待ち構えていた四天王の三番手は、何事かと二階へ降りて行く。
そして、三階の半分を既に壊したポチョムキンは、階段を挟んで反対側へ三番手の背後を通り抜けていく。
四天王の三番手と合流した二番手の男は、二階の現状を見せる。
「一体何があったのだ……」
「わからん……」
「何を言っているのだ、お前は! 使用人どもが目撃しているはずだろ! 聞いたのか!?」
四天王の三番手に怒鳴り付けられて、漸く何があったのか使用人に尋ねると、使用人の一人が廊下の天井を指差す。
釣られて目を向けると廊下の天井にはポッカリと穴が開いていた。
「ま、まさか……」
薔薇の四天王の三番手が走り出すと、二番手も後を追う。階段を駆け上がり、三階の廊下を見ると二階と同じような状況に顔を青ざめる。
戦わずして通したとあっては、四天王の名折れと、三番手は踵を返して四階に居るはずである四天王最後の一人に呼び掛ける。
ところが返事が帰って来ない。嫌な予感がして、二番手と共に四階に上がるが、三階と四階の間の踊り場まで来て目を見開く。
四階の階段前に居るはずの四天王の最後の一人が居ないのだ。
嫌な予感が強まり、三番手が階段に足を踏み入れると、急に城が地響きを立てて大きく揺れたのだった。
◇◇◇
数分前、四天王最後の一人は、自分の背後での騒ぎにすぐに気づく。
何事かと廊下に出ると散乱した扉や家具が目に入る。
廊下で震える使用人が一つの部屋を指差すので、その部屋へ駆けつけると、そこには壁を壊すポチョムキンが。
「貴様! 何をして……! し、白の魔王‼️」
見つかったポチョムキンは、すぐに四天王最後の一人に詰め寄ると、水平チョップを繰り出す。
「くっ……‼️」
咄嗟にしゃがみこみ、ポチョムキンのチョップは躱されて、そのまま柱を一本叩き折る。
「なかなかやるようだが、俺に勝てると思うなよ」
四天王最後の一人は、不敵な笑みを見せつけるが、肝心のポチョムキンは、折れた柱を見て頬に手をあてながら、困った表情をしていた。
「ど、どうしたのですか? ポチョムキンさん」
「ふぅ~……折角計算して壊していたのに、避けちゃうから……」
ポチョムキンは、白の魔王を脇に抱えると背中を見せる。そして、そのまま窓を蹴破り、窓枠に登った。
「逃がすか!」
「貴方も逃げた方がいいわよ。この城、壊れるから」
そう言い残して、ポチョムキンは四階から飛び降りる。地面に到着するとポチョムキンはすぐに城から離れて裏庭のギリギリまで退避した。
その直後である。城が地響きを立てて揺れ出したのは。
五階の重みに耐えられず四階が崩壊すると、そのまま下の階、下の階へ潰れていく。
あっという間に、恐らく誰も逃げることが出来ずに城は瓦礫の山と化す。
黒の女王のシンボルとも言うべき漆黒の城が崩れ、城外で見ていた魔族達は歓喜の声を高らかに上げる。
白の魔王も、これは黒の女王も助からないだろうと安堵の表情に変わった。
だが、しかし、ポチョムキンは白の魔王の前に盾になるように立ちはだかると、瓦礫の山の頂上から瓦礫が飛び散ると下から何かが飛び出てきた。
それは、異形。ポチョムキンの倍はある真っ黒な皮膚をした体躯。
目も腕も四つあり、腹筋は鍛えあげられ、大胸筋らしきものがブルンと震える。
真っ赤な長い舌が、白の魔王を丸のみ出来そうなほど大きな口から覗いていた。
「ま、まさか、これが黒の女王……」
「ぐぐぐ……貴様ぁ‼️ 思わず、驚いていきなり最終形態になってしもうたわぁああああ‼️」
仲間にする云々の駆け引きなど吹っ飛ばして、いきなり最終決戦が始まろうとしていた。




