黒の女王の愚かなる決断
橋の上で対峙する真人間とポチョムキン。一歩ポチョムキンが足を出せば、怯えた表情で一歩退いてしまう真人間達。
ポチョムキンの後ろで、歓声を上げてポチョムキンを讃える魔族を見ると腹が立つが、魔族の前で立ち塞がるポチョムキンを恐れて言葉一つ反論することが出来ずに悔しそうな表情を浮かべる。
辛うじて、ポチョムキンからはほとんど仕掛けて来ない為に真人間達は、今こうしていられたのであったが、真人間の一人が余計な事をしてしまう。
「くっ……こ、この化──ぶへっ!」
「誰が、化け物よーっ‼️」
一瞬で間合いを詰めたポチョムキンの出固品・薬が、余計な言葉を発した真人間を吹き飛ばす。
ポチョムキンに急に近寄られ、その力に恐れたか、その顔に恐れたかは分からないが真人間達は、とうとう蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまう。
真人間達が、たった一人に敗北した──この報せは街や村々に届き、当然黒の女王の元にも届く。
「なんと! ドラゴン共々負けたのか!? 信じられん……魔族共に一体何がついておるのだ……情報は無いのか?」
「申し訳ありません……陛下。逃げ出した者が言うには一様に“化け物”だとしか……未だにその正体は不明です」
「化け物……くっ忌々しい魔族どもめ‼️」
爪を噛み顔を歪める黒の女王の迫力に、報せをもたらした部下の男は体の震えが止まらない。
少し策を練る、その場で待てと言われて、部下の男は黒の女王の得も言えぬ迫力に晒され続けた。
「よし、まずその化け物の素性を調べよ。そして好物などあれば、それを餌に味方にするのだ。そしてもう一つ。全部の街や村に命令を届けよ! 今いる魔族どもを張り付けにして処刑して晒すのだ‼️ くくく……魔族どもめ、白の魔王よ! 絶望に震えるが良い‼️ 目的を失ってもなお、わらわに歯向かえるかな」
部下の男は「はっ!」と返事をして、命令を伝えに戻っていく。
本来ならば諌めてもおかしくないのだが、黒の女王の迫力に晒され続けた部下の男は、一刻も早くこの場を立ち去りたく思考が停止していた。
すぐに伝令が各地の街や村へと届けられる。
真人間達は女王の命令ならばと、自分が保有していた魔族を差し出すが、ここで予想外の出来事が。
人間達も馬鹿ばかりではない。ここで魔族を差し出してしまえば、魔族の数は激減する。
今まで自分等の下に魔族がいたから、ある程度良い思いをしてきたが、魔族が居なくなれば次の真人間の支配下に置かれるのは自分達ではないかと考え出す者が、少なくない人数で拡がりを見せる。
それに付随して、ポチョムキンが真人間達を潰走させた報せが入っていた。
さらに真人間達が人間を駒のように扱ったことも。
そして遂にポチョムキンと白の魔王達が攻め込んだ人間中心の村で、人間が真人間に抵抗して、ポチョムキン達を受け入れたのだ。
人間達によって身綺麗にされた魔族が解放されたのだが、魔族達の怒りは収まらない。
しかし、白の魔王は高らかに宣言する。
「人間どもへの怒りは全てが終われば私が一身に引き受けよう。だから今は収めよ」と。
そして白の魔王は、降伏してきた人間に外にいる知り合いの元へ行き魔族を解放させよと各地へと送り出す。
白の魔王の采配に怪訝な表情を浮かべる魔族もいたが、白の魔王の肩を抱いたポチョムキンが耳元で、囁く。
「大丈夫。あなたにはアタシ以外に指一本触れさせないわ」と。
白の魔王は顔を引きつかせながら、出来れば貴方にも触れて欲しくないなぁと心の内だけで思うのであった。
◇◇◇
白の魔王の采配は、かなりの戦果を挙げる。真人間の多い街や村では、中々上手くいかなかったが、人間の方が数は多い。
人間中心の街や村では、次々と降伏の報せが黒の女王の居城へと向かうポチョムキンや白の魔王達の元へ届く。
中には、ガリガリに痩せ細り解放された魔族の一部が合流する。
戦力にはなりそうもないが、中には久しぶりに再会する者も現れ、魔族達の士気は高まっていく一方であった。
更に白の魔王達に追い風が。真人間の一部が抵抗した人間を魔族共々皆殺しにしたのだ。
これには黒の女王も報告を受けて驚く。
あくまでも、対象は魔族のみであったはずが人間を有無を言わさず殺したことに。
勿論、この事件のことは各地へと拡がりを見せて、益々人間の抵抗が激化していったのであった。