ポチョムキン対エリートな真人間
「よし。ポチョムキン殿がドラゴンを倒した。あとは、橋の向こうの連中だけですね、魔王様」
「そ、そうだな。しかし、これどうやって渡ればよいのだ?」
橋を境に人間、真人間と対峙するポチョムキンに援護に向かいたい魔族と白の魔王。
しかし、ポチョムキンとの間にはドラゴンが吐き散らした炎がまるで草原のように燃え拡がっている。
多少は落ち着いてきてはいるが、炎の勢いはまだ強く、とても渡れそうにない。
「お、大回りするしかないようです」
ポチョムキンがドラゴンに勝ち浮かれ始めていた魔族達も冷静になっていく。
「こうしていても仕方がない。二手に分かれてポチョムキン殿の元に向かうぞ!」
白の魔王は、一部隊を側近に与えて残りは自分が率いて炎の草原を避けて進軍を急ぐ。
一方、ポチョムキンは魔族達を待たずして、一歩橋へと踏み入れる。
ポチョムキンが進む度に人間どもは怖じ気づいて、一歩、また一歩と後退る。
「何をしている! たかだか一人に怯えてどうする?」
真人間どもは人間が逃げ出さないように取り囲み、進むことを促す。
人間にとっては、前門のポチョムキンに後門の真人間。
どちらにも進めずにいると、既にポチョムキンは橋の半ばまで来ていた。
こうなると人間どもは、パニックを起こす。真人間に睨まれ耐えきれずポチョムキンに向かっていく者、得体の知れないビキニ姿の筋肉に恐れ真人間へと向かい逃げ出そうとする者。
真人間どもは、獣のような姿に変わり鋭い爪や牙で対抗したり、羽を生やして空から弓矢で人間を射殺す。
中には全身の関節が外れ体を巻き付かせて縛りあげたり、炎を纏い相手に抱きついたりと、逃げ出す人間に襲いかかり始めて、人間の数はみるみる減っていく。
ポチョムキンも容赦なく自分に立ち向かってくる人間を橋から叩き落とす。
かなり大回りをしてきた魔族達がポチョムキンに追い付いた頃、立っている人間の姿は居なかった。
残すは、真人間のみ。しかし、以前魔族達と戦っていた真人間とは明らかに一線を画していた。
ポチョムキンを見ても逃げ出すことなく、平然とした表情のままで、中には自信満々な表情の者までいる。
彼らは真人間の中でもエリートであった。
「白の魔王、下がってちょうだい」
「わ、我々も戦う!」
「大丈夫。地の利はアタシにあるわ」
サッと身を翻した白の魔王の鼻先を、ポチョムキンがウインクで飛ばしたハートが掠めた──気がした。
油断大敵。いつでも何処でもポチョムキンはポチョムキンなのである。
白の魔王は、ポチョムキンから離れる。己の身の危険を感じて。
「死ねぇぇえええっっ‼️」
炎を纏った真人間が先頭切ってポチョムキンに、向かって走り出す。
魔族達は、向かってくるその速度に驚く。
だが、ポチョムキンは大きく息を吸い込むと、肺にある空気を一気にフーッと吐き出す。
向かってくる速度はあっという間に勢いが止まり、炎は一瞬で消し飛ぶと、真人間は橋の上をまるで枯れ葉のようにヒラヒラと舞い、真人間の群れにまで飛ばされていく。
魔族達は、そんなポチョムキンを見て思ったであろう。
息で炎を消せるなら、ドラゴンの炎も余裕で消せたんじゃね?──と。
「うおおおおぉぉぉぉ‼️」
一斉に橋の上は真人間の群れで通れなくなるほど埋め尽くされて、ポチョムキン一人に向かっていく。
ポチョムキンも通さないと言わんばかりに両腕を広げると、橋の石畳に足跡がつくほどの蹴り足で、真人間の群れへと走り出す。
ポチョムキンが拳をギリッと音がするほど強く握ると、腕の筋肉が一回り大きくなったように見える。
そのまま真人間の一人に拳を繰り出すポチョムキン。
「わははははは! 無駄だ、俺の全身は鉄で出来──ヘブッ‼️」
全身鉄製の真人間がポチョムキンの拳により吹き飛び橋の上を転がっていく。鉄製の真人間は、まるでボーリングの玉のように他の真人間をボーリングのピンの如く吹き飛ばして橋の向こう側まで転がっていった。
「くくくっ、油断したな! このまま絞め殺してやる!」
ポチョムキンの体に、関節を外して蛇のように絡み付く真人間。ところが、関節が少し伸びる程度では、ポチョムキンの巨体全体に絡み付けない。
しかし、片手で絡み付く男の首をポチョムキンが掴んでも余裕の笑みを見せる。
「くくくっ、無駄無駄。首の骨を折ろうってか? 残念ながら俺は首の関節も外せるのだよ。くくくっ」
ギロリと目を剥いて男を睨み付けるとポチョムキンは、そのまま折る訳ではなく、まるでマジックテープを剥がすように、男をペリペリと簡単に剥がしてしまう。
「う、嘘、やめて、お願い」
ポチョムキンは男の両腕同士、両足同士を容易に結びつけると、先ほどから空に浮いて弓矢を飛ばしてくる真人間どもに向けて放り投げると、余りの力に、くの字に曲がって飛んでいく。
これだけでもこの関節男には悪夢だろう。
しかし、悪夢は続く。
空に浮く真人間を撃ち落とした後、くるくると円を描きながらポチョムキンの手元へと戻ってくる。
ポチョムキン専用真人間ブーメランの完成の瞬間であった。
「そーれ、また飛んでいきなさい」
再び、真人間の群れに向かってブーメランは飛んでいくのであった。




