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冬童話2019・2020・2021・2022・2023・2024提出作品

名前の長い王様と短い王子様

作者: 黒イ卵

冬の童話祭2019投稿作品です。

https://marchen2019.hinaproject.com/

逆さ虹の森の設定をお借りしました。

 おばあちゃん、おばあちゃん。

 何かお話ししてー。

 おはなししてー。


 おやおや、どうしたんだい、二人とも。

 もうすぐ夕飯の時間じゃないかい。


 もうすこしかかるから、待っててね、だって。でも、何もすることないから、退屈なの!

 たいくつー!


 わかった、わかった。それじゃあ何かお話しよう。ダイモンの話は?


 それ知ってるー知らないお話がいい!

 しらないおはなしー。


 わかった、わかった。

 じゃあこのお話は知ってるかな?

 名前の長い王様がいたんだよ。


 知らない!

 しらないー!


 逆さ虹の森に行って、逆さ虹を見たんだ。

 逆さの虹は魔法の虹。

 世界が逆さに変わる虹。



 価値観が逆さに変わる虹。



 むかしむかしおおむかし。

 おおきなおおきな戦があった。

 知ってるかい?


 はい!第六次世界大戦壊滅(かいめつ)編!

 かいめつへんー!


 その通り。国同士の小さな争いが大きな憎しみを生み出し、やがてそれぞれの信じる神様の名を賭けて、無差別に国を(おそ)う集団ができた。


 そしてーーー。


 ある日、同じ日の同じ時間、世界各地で主要都市が一斉に停電になり、混乱の(すき)に別ルートの電源からーーー大切なボタンが押された。


 世界は一瞬(いっしゅん)で白く(かがや)き、とてもとても熱くなってしまった。


 おひさまの怒った日だね!

 ぷんぷんぷん!


 その通り。


 おひさまの(いか)りは(すさ)まじく、陸も海も干上がり、人も森も動物も、みーんないなくなってしまった。


 それでも、ほんのわずかばかりに残った人たちはこう思った。


 なんて(おろ)かなことをしてしまったのだろう。争いはもうたくさんだ。

 そうだ、このことを教訓にしよう。

 新しく生まれる子供には、今まであった、全ての国の名前を付けよう。

 そうして、二度と愚かな(あやま)ちをしないようにしよう、と。


 そうして子供が生まれ、その子にはこれまであった二百以上の国の名前が長々とくっ付いた名前が付けられたのさ。


 いつしか長い長い名前の子供は、王様として祭り上げられた。

 教訓と(いまし)めの象徴(しょうちょう)として。


 きょうくんー。

 いましめー。


 わずかばかりの人たちは、他にも残っていたわずかばかりの人たちと合流し、少しずつ国は大きくなった。

 その頃には、長い長い名前は平和の(あかし)として、王族だけに代々引き継がれる名前として、素晴らしいものと(たた)えられるようになった。


 王様の名前を読み上げる名誉職(めいよしょく)は、当時の一番人気。最もかまずに、美しい発音で、行事ごとに適切な長さで読み上げることのできる者が選ばれたんだ。


 そんな仕事があったのー。

 あったのー。


 そう、全国民参加型のトーナメント制で、勝ち抜いた選ばれし者のみが辿り着ける栄光。それが名乗り読み職。


 その名乗り読み職に関するお話しもたっくさんあるんだよ。陰謀(いんぼう)、裏切り、友情と勝利とダイモン。


 ダイモンのお話があるの?

 あるのー?


 まあ、それは置いといて、王様のお話さ。


 そんな名誉職が何代も栄光を極めてきたある日。

 その頃には、名前の長い王様の国だけでなく、いくつかの小さな国も出来始めていた。

 名前の長い王様は、ある小さな国のお姫様と結婚することになったのさ。


 ある日、小さな国のお姫様は王様に言った。

 「私の国には、逆さ虹の見える森があります。一度ぜひ見に来てください」ってね。



 王様は小さな国のことを知りたいと考えて、護衛騎士たちと共に、お姫様の国へ行ったのさ。


 そして、逆さ虹の森へ行った。


 森へ入った王様は、逆さになった虹を見て、こう思った。


 あれ?自分の名前長すぎじゃね?と。


 急にため口ー。

 ためぐちー。


 逆さの虹は魔法の虹。

 世界が逆さに変わる虹。

 価値観が逆さに変わる虹。


 どうも、価値観が逆さになったせいか、言葉遣いも変わったらしい。


 かちかんってなあにー?

 なあにー?


 春の花と秋の花、どっちが偉いと思うかい?

 わかんない!

 わかんないー。


 どっちが偉いのか、どっちが好きか、どっちが大切か。そういうのを考える、もとになるものだよ。王様は長い長い名前が平和のあかしで、大切で守るべきものだって考えが、逆さ虹を見て、ひっくり返ってしまったんだ。


 王様は思った。


 これから結婚して子供が生まれて、その子にこんなキラキラネーム真っ青の、ピカソよりも寿限無(じゅげむ)よりも長ったらしい名前なんてつけられない!と。


 ぴかそってなにー?

 じゅげむってなにー?


 むかーしむかしの長〜い名前の人たちさ。


 王様も、王様の護衛騎士も、逆さの虹を見た王様の国の者達は皆、名前が長いなんておかしい、と思ってしまった。


 小さな国のお姫様たちはきょとんとしていた。

 だってお姫様の国の人たちは、みんな生まれた時にこの逆さ虹の下で名前を付ける。


 そして、逆さ虹の魔法の効き目は、その人の人生で一回だけ。


 お姫様の国の人達には、なあんにも影響がないからわからなかった。


 王様は国に戻り、結婚式と同時に、自分の名前を改名したくなった。


 かいめいってなあにー?

 なあにー?


 名前を変えることさ。


 ところが、国には逆さ虹を見ていない、宰相(さいしょう)や大臣達が残っていた。

 宰相たちは名前を変えるとは何事か、と反発した。王様たちが口が悪くなってしまったのもあって、小さな国のお姫様たちにそそのかされたのか、と今にもケンカになりそうになってしまった。


 小さな国のお姫様が一生懸命とりなして、予定通り結婚式だけ挙げることになった。

 もともと、二つの国の仲良しの()()()として、結婚することになったからね。


 しかし、王様は諦めない。

 結婚式が終わってからも、名前を変えたい、変えたいと言い続けた。


 その度に小さな国のお姫様ーーーその時はお妃様になってるね、が一生懸命にとりなした。


 「あなたが名前を変えると反発されましょう。あなたと私の子供が生まれたら、その子から名前を短く変えましょう」


 ついにはそう王様を説得した。


 しばらくして、王様とお妃様に子供が生まれた。男の子、王子様の誕生さ。

 国中がお祭り騒ぎになり、王様万歳、お妃様万歳、王子様万歳、の大合唱。

 お城では大宴会が開かれ、名乗り読み職が王様の名前を適切な長さで素晴らしい発音で読み上げたその時。


 王様が叫んだ。その名前を呼ぶのは止めろ、と。

 大広間は凍りついた。

 宰相たちは怒り出し、この時から国を二つに分けるような争いになっていった。


 ある日、王子様を連れて、お妃様は逃げた。

 お妃様の祖国、小さくて逆さ虹の森がある国へ。


 ところが、王様の国の宰相たちは、お妃様の国が王様をそそのかしたんだ、とお妃様の国へ矛先を向けた。


 小さな国は王様の国から攻め込まれてしまった。

 王子様とお妃様は、逆さ虹の森へ逃げた。


 ついに追い付かれたその時、王様の国の宰相たちは逆さの虹を見た。


 逆さの虹は魔法の虹。

 世界が逆さに変わる虹。

 価値観が逆さに変わる虹。


 争いも名前が長い王様がいることも、ばかばかしくなった宰相たちは、二度と争いなど起こさないと誓った。


 そうして、王様の国とお妃様の国はくっ付いて、新しい国を作ったんだ。

 その国は争いを嫌い、あらゆる生き物を受け入れて、皆で良い国を作ろうと決めた。


 その象徴として、王子様に名前を付けた。


 王子様の名前は、「希望」といった。


 おばあちゃん、それってパパの名前?

 パパー?


 そうだよ、お兄ちゃんはもう少ししたら学校で習うね。

 王様制度がどうして無くなったのか、合わせて勉強するはずさ。


 そら、いい匂いがしてきた。今日はシチューかね。ママの美味しいご飯が待ってるよ、さあ、一緒に行こう。


 食べ終わったら、森の動物たちに美味しいシチューのお礼を言いに行こうね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文学ですね (*´▽`*) 私もこんな立派なのを書いてみたいです☆彡 [気になる点] 感想欄がハイレベルで、魚類は場違いだとビビりました (;'∀')
[良い点] おばあさんの優しい語り口から、もしかして、もしかして……と思いながら読み進め、最後にやっぱり!でした! 私は心温まるお話として楽しみました。 他の方の感想欄を見ると、自分の読みは浅いのかな…
[一言] ネタバレありの感想です。 未読の方はご注意ください。 「教訓と戒めの象徴」であった長い長い名前が、「平和の証」となり、やがて「王族だけに代々引き継がれる(中略)素晴らしいもの」となったこと…
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