01. 工藤 葉根一(クドウ ハネイチ)
誰かが言った
世界の半分が刈り取られた
誰かが呟いた
それが世界の為なのだ
誰かが叫んだ
世界は1つで無ければならない
誰かが笑った
結局は――
僕の勝ちだ
――――――――――――――――――――――――――
まずは自己紹介から始めたいと思う。
と、目の前の黒い球からそう響いた。
その声で、日曜日の安眠に耽っていた俺は目を覚ます。
……えっーと、、状況を整理しよう。
ベッドの横に置いていたスマホを見る。
時刻は14時。
常識的にはバリバリの稼働時間だが、俺基準では(日曜日は)まだまだ睡眠時間である。
昨日はゲームを明け方までして寝た。
ただ、それだけだ。
こんな黒い球は断じて無かった。
――聞こえてるか?
また黒い球から声。
取り敢えず無視しよう。
――変だな?聞こえてない?まぁ、いい。緊急事態じゃから要件だけな。あぁ、その前に自己紹介しとくか。ワシの名前はバレアガシ.ワシオウ、ワシオウと呼んでくれな!
……黒い球から、ナイスミドルな声が響く。
えっ?本格的にわけわからんよ?
朝、黒い球に起こされて、その黒いのから自己紹介?
……ある意味、とてもシュールだ!!
――聞こえてると判断してワシ会話続行しちゃうけど、いいよね?いいかな?まぁ、大丈夫じゃろ。で、緊急事態なんじゃけど、君、ワシのそっちの世界での弟子に任命したから!サチヒト君と、イルガ君から推薦もらってさ!その2人はワシのいる世界に1ヶ月前に転移して来てさ。そっちだと時間経過ズレとるかも知れんが、その2人が君なら大丈夫と太鼓判でさ。あぁ、ワシだけ話して申し訳ないが、とにかく、そういう流れだから。あっ、ステータス見れる様になってないか?
ステータス?推薦?転移?
どうしよう?頭ん中絶賛パニック中なんだけど!
これ、あれか?遂にファンタジー小説でありがちな展開が俺に訪れたのか?
うわぁ、、実際、意味不明な展開に置かれると全く有り難みを感じないっすね!!!
と、その最中、轟音。
そして振動。
俺は咄嗟に音の方向に目を向ける。
視線の先には乱暴に壊されたドア。
その上に一匹の、、
一匹の――獣が居た。
色は黒く、犬の様なシルエット。違うのは目が3つ。そして大き過ぎた。172センチの俺より大きい体躯。
獰猛な息遣い。
瞬間。
黒い獣が、俺に向かって跳ねる。
口を広げ、牙をむき出しにして。
刹那で理解する。
俺を喰うつもりだ
ベッドから半身をよじって何とか回避する。
牙が脇腹を掠る。
激痛。
回転しながらベッドから落ちる。
床に背中から叩きつけられる。
視界には追従してきたであろう獣の大きな口と鋭い牙。
喰われる!!
生存本能が理性より先に働き無意識に首をひねる。
肩に激痛。
牙が食い込む音が体内から聞こえる。
同時に耳元から荒い息遣いも。
肩が熱い。牙は更に深く、俺の中に侵入してくる。
死ぬ!!
ガチで死ぬ!!!!
嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない。
俺はこんなとこで死ねないんだ!!
生への渇望が、その感情が、循環し、爆発する。
生きたい。ただその衝動が、俺を行動させる。
その本能に従って、
俺は獣を抱きしめた
正確には獣の首を絞める様に、
獣に噛み付かれたまま、
全身の力を総動員して、抱き締める。
獣の牙が更に更に深く突き刺さる。
だが、それで良い。
抜かれて、再度、噛み付かれたらアウトだ。
このまま絞め殺ろす。
絞め殺してやる。
絞め殺す。生きたいと渇望した俺が本能で選んだ行動だったが、俺はその選択を信じる。自分の生きる力を信じる。というか、ただ死ぬのも嫌だ。
足掻いてやる。
足掻いて足掻いて、最悪道連れにしてやる。
俺の意図に気付いたのか、獣が牙を抜こうとしてくる。
そんな事はさせない。
俺は力を緩ませない。
激痛。
締め上げる。
激痛。
絞め殺す。
激痛。
締め続ける。
……そして、どれぐらいの時間が経過したのかは不明だが、獣の動きが鈍くなった気がした。
一瞬の静寂。
その後、唐突に脳内に声。
「50ポイントの経験値を獲得しました」
無機質な女性の声はそう告げた。