閑話 ある王子の思い出
次から水の王国編始まります!
昔から、兄さんは忙しい人だった。
『にいさんあそぼう』
幼い俺は小さい両手で自分の顔程もあるボールを持ち年の離れた兄を誘う。
『ごめんな、兄さんはこれから勉強しないといけないんだ』
兄は困ったように眉を下げて俺の頭を撫でてくる。
『……わかった』
幼い俺はしぶしぶ諦める。
第二王子の俺とは違って兄さんは王になるためにたくさん勉強をしないといけないらしい。
この国の王は長子がなる慣習だ。何故なら初めに生まれる子の方が水竜の血が色濃く出る傾向があるからだ。
そして俺達王族は水竜の血を引いているためちょっとやそっとのことじゃ死んだりしない。
寿命も普通の人間の何倍もある。
それ故に第二王子である俺が王になるための教育を施されることはないのだ。
その日も俺は広い王宮の中、一人で遊んだ。
『兄さん遊ぼう』
俺は少し成長した。だが兄に言う言葉は幼い頃と何の変わりもなかった。
『……ごめんな』
何度も繰り返したやり取りだ。
今日も兄は俺にはかまってくれない。申し訳なさそうに謝るだけだ。
兄が去って行って、俺は独り廊下に立ちすくむ。
また数年が過ぎる。
『兄さん遊ぼう』
相も変わらず俺の言うことは変わらない。
『ごめんな、今から視察なんだ』
兄が言う言葉も変わらない。
『兄さん遊ぼう』
『ごめんな』
『兄さん………』
俺は毎回兄の背中を独り見送る。
結局、兄が俺の為にまともな時間を取ってくれたのは数える程だった。
『王位なんて継がなきゃいいのに………』
俺は確かにそう思った。