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反応は規格外のようです。


 扉破壊犯三人衆は下卑た笑みを顔に張り付けて酒場の中を彷徨(うろつ)き始めた。


 三人組のうちの一人が店主らしき人に詰め寄る。


「おい、今月の金はいつ払えるんだぁ?」

「すっ、すみません。一週間以内にはなんとか……」

「困るんだよねぇ~そういうの」


 酒場に居た客は全員が見てみぬフリだ。

 空気的にここはそうするべきなのだろう。



「おい、君たち!君たちは一体その扉に何の恨みがあるんだ!こんな無惨な姿にするなんて!」



 空気を読めなかったのがここに一人。



 その少女は今にも壊れそうな机の上で仁王立ちをしている。


「デザイン性のかけらもなくて安っぽい木を使ってて、その扉を作った職人は気が狂ったんじゃないかっていうくらいの物だけど、こんなクソぼろっちくなるまでこの酒場を支えてきた扉を!」


「イブは一体何をディスってんの?もしかして酔っぱらってる?」


 ソルはイブの言葉に冷静に対応しつつも両手はしっかりとイブのスカートの中身が見えないように押さえている。


「酔ってないよ!私はただこのテンプレートで何の個性も見当たらない扉破壊犯達に物の大切さを訴えようと……!」

「物の大切さを訴えようとしてる奴が乗ってるせいで今机が一つ壊れようとしてるぞ」

「脆いな!」

「お前が地団駄踏むせいな」


 酒場にいる全員が二人に注目していた。



「おっ、可愛い女の子いるじゃん」

「うわっ、何てテンプレートな反応」


 男達の一人が発した言葉でイブの目が死んだ。


「『顔は中の下、下っ腹は出てて身長は標準くらいです。発言はテンプレートに忠実で特技は脅しです』って言って劇団に応募してきなよ。救いようのないゴミ屑でも少しは人気が出るかもよ?」

「俺だったら雇うな。特訓してただのゴミ屑をリサイクル商品くらいまでは昇華させる」


 あまりの言い草に男達は一瞬唖然とする。

 だが、直ぐに顔を真っ赤に染めて怒りだす。


「バカにしてんじゃねぇ!!」


 男達は拳に神力を纏ってイブとソルに向かって殴り掛かって来る。


 酒場に居た人々は少女達が殴られるのを見ないように堅く目を瞑った。



「イブに触るな」



 底冷えするような低い声が空間を支配すると同時に、ソルが消えた。


 否、人の目には捉えられない程速く動いたのだ。


 一番前に居た男の脇腹に回し蹴りを叩き込み、倒れ込む男を踏み台にしてその斜め後ろに居た二人目の男の鳩尾に膝蹴り。そして三人目の男の顎には掌底を打ち込む。

 床に倒れた男達を見るソルの目は恐ろしいほど鋭かった。


 ソルの一連の動作はまるで練習したかのように流麗な動きだった。


 何より驚くべきは、ソルが全く神力を使っていないということだ。



 この世界の人間は大なり小なり神より与えられた力--神力を持っている。

 神力は大きければ大きいほどあらゆることを可能にする力だ。

 小さければ少し物を動す程度。標準の神力だと植物の成長を早めたり、物に少しだけ干渉できるようになる。

 一般的に、男性よりも女性の方が神力は大きい傾向にある。

 元々神力は、自然災害や竜などの危険生物からか弱い人間を生き延びさせるために神より与えられたと考えられている。そのため、男性よりも力の弱い女性が大きい神力を持っているというのが通説だ。


 そして、『聖女』と呼ばれる職業に就けるレベルとなると、その神力は奇跡をも起こすことが出来ると言われている。


 つまり、それなりの神力が備わっていれば身体強化も出来るのだ。


 男達は拳の破壊力が大きくなるように神力を使った。標準よりも大きな神力を持っているのだろう。


 しかしソルは神力を全く使わなかった。

 それでいて大の大人を三人もあっさりとのしてしまったのだ。


 闘いの勝敗は神力の強さで決まると思っていた者達にとっては目から鱗だろう。

 神力の強さで決まるというのも、あながち間違いではないのだが……。



 ソルは手加減をしたので男達は気絶はせず、逃げ帰って行った。


「大丈夫かイブ。怖くなかったか?」

「ありがとうソル。私そこまでか弱くないよ?」

「心配くらいはさせろ」

 そう言ってイブの頭を撫でるソルの表情は先程までの冷たさは既になく、普段通りの表情が薄いものだった。

 それでもその瞳は心配の色を帯びており、本気で案じていることが伝わってくる。

 もっとも、イブがそう簡単に害されることなどないのだが。その心遣いが嬉しくてつい頬が弛んでしまう。


「過保護だね?」

「ほっとけ」


 照れて少しからかう口調になってしまったのは反省だ。


 一段落つくと、どこか怯えと期待を孕んだ目をしている村の男達に視線を移す。



「さて、何かお困りのようだね。聖女に事情を話すといいよ」












「なるほど、一年前からちょっと神力が強いからて調子にのっちゃてる系の野郎共がこの村の近くに住み着いていて村人を殺さない代わりに定期的に金を払えと言われたと」

「はい……、作物を売って育てようにもこの辺りは土壌があまりよくなく、この村は困窮していく一方で……」

「随分楽な商売してるな~あいつら。まぁ、都市近くだとそんなことできないもんね~警備兵がいるから」


 先程と同じ酒場で、イブとソルが座る机の前には村長と村の大人達が集まって事情を話し終えた。

 イブは思案する素振りを見せると隣に座るソルに話し掛けた。


「ふむ……、ねぇソル、私達にもできそうじゃない?」

「余裕だな」

「「「「「「!?」」」」」」

「やだな冗談だよ。……半分は」

「若干本気だろ」

「まぁ、ここでやる気はないよ」

「金が必要なら俺が用立ててやる」

「甘やかすねぇ」


 先程ソルの強さを見せつけられた者達にとっては冗談としても恐ろしかった。

 イブはそんな反応に満足したのかにぱっと笑って話を戻した。


「じゃああなた達は私達にこの困窮した状態を何とかして欲しいって認識でOK?」

「はい、聖女様方にお願いしたく」


「了解した」


「ほっ本当ですか!?」

「勿論」


 そう言うとイブは正に聖女のような微笑を浮かべた。


 そして懐から紙の束を取り出し村長に見せる。




「それではこれが料金表になります」

 



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