6 スーパーボール
抱きしめられると心が少し楽になる。それは子どもが不安を感じている時に抱きしめられる感覚と似ているのかもしれない。
そう言えば、こんな経験を昔したような気がする。
あれも暑い夏の出来事だった。私が小学生の低学年ぐらいの時だ。久しぶりに家族4人で神社で毎年行われている祭りに行った。
「わぁー、すごい。お母さん、お父さん、あれしたい」
私は赤色、青色、黄色など様々な色のスーパーボールが浮かんでいる場所を指差した。
「梨里ちゃんはスーパーボールすくいがしたいの?」
「うん。私ね、たくさんスーパーボールの取り方をお兄ちゃんに教えてもらったんだ」
「お兄ちゃんはスーパーボール取る天才だからな」
お兄ちゃんは顔を赤くして、「それくらい誰でもできる。簡単だからな」とカッコつけて言った。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。」
お店の人が笑顔を見せる。私も同じように笑顔になった。
私はお兄ちゃんに教えてもらった通り、ポイをなるべく濡らさないように気を付けながら、スーパーボールをすくっていく。
1個、2個と次々と取れていく。7個目を取ろうとしたところで、紙は破れてしまった。
もっと取れると思っていた私は悔しくて顔を歪ませた。
地面にポツポツと黒い点が付いていく。
私はうつむく。
お店の人はすごいよと褒めてくれる。
横に誰かが座り、そして抱きしめてくれる。
この時間はすべてのことがゆっくりと動いているように感じた。
「梨里、よく頑張ったな」
兄の直接感じる体温、耳元で囁く声は私を落ち着かせてくれた。
「梨里、私もいるから大丈夫だよ。一緒にこの世界から出よう」
柚季の存在も兄と同じように感じられた。