3 異世界行き
電車は減速をしはじめ、トンネルの中で電車はとまった。
「電車とまっちゃったね」
柚季は左右をチラチラと見まわし、やがて私の方を向いて言う。
「故障かな」
「うーん、そうかな」
「おーい、はやくしてくれないか?」
私達がいる場所より後ろの方、2両目の車両から声が聞こえてきた。平野町駅で発車ギリギリの時間に乗り込んできた人だ。
「お客様にお知らせします。当電車はこれより異世界行きとして運転を再開いたします」
アナウンスが終わると、車内から突然ドンドンと大きな音がする。
「異世界行き?ちょっと待ってください。どういうことですか?」
運転席に近い場所に座っていた1人のおばさんが運転士に向かって、抗議をしているようだ。それを合図と捉えたのか、他の乗客も運転席に向かっていった。この状況に私と柚季は顔を見合わせ、どうすればいいのだろうと話し合うことしかできなかった。
電車は数メートルを進むと突如真下に向けて落ちていった。乗客が1ヶ所に集まり身体に私が経験したことのない重さが襲いかかった。それぞれが呻き声をあげる。
頭の中で今までの思い出が浮かび、家族で撮った写真が目の前から離れていく想像が私の記憶している最後のことだった。