2 宿題
電車は時々バコッやポコッなどと音をあげ、次の駅へ移動している。
「ねぇ、梨里は宿題どれくらい終わった?」
唐突に彼女は宿題のことを聞いてきた。おそらくだが私の宿題の答えを丸写しするつもりだろう。私達が通っている高校は問題集の解答本を渡さないようになっている。過去に解答を丸写しで提出した人が多かったときがあったらしく、それからは解答本を渡してくれなくなったようだ。
「まだ、どの教科も終わっていないよ」
「そんなこと言って絶対嘘ついているでしょ。テストの時だって、勉強していないって言っていっつも高得点取っているの知っているんだよ。今日は私騙されないよ」
本当に宿題はまだひとつも終わっていない。それと彼女から見れば、高得点を取っている=勉強をしているという意味になるのだろう。でも、実際は出された課題をコツコツと取り組んでいるだけで覚えてしまうだけだ。すでに宿題を見せてもらえると思っているのか、キラキラと目を輝かせて私を柚季は見てくる。
「柚季、私本当にまだ宿題していないの」
彼女のためにも私は少し嘘をつくことにした。
「うそだぁ。宿題見せてよ」
彼女は、泣きそうな顔になった。
「だめ。自分でしないといけないよ」
「わかったよ。これからはそうします」
あれ?こんなあっさりと柚季は諦めるような子だったかな。いつもであれば、何度も言ってきて最終的に私が彼女に宿題を見せてしまっている流れが想像できる。これは彼女も心のどこかでは宿題をやるべきだという思いに従おうとしはじめたことだろう。
そんなことはなかった。
彼女は、私の鞄からはみ出している問題集をサッと引き抜くと素早い動きで私が解答したページをスマホで撮っていった。
「ふふん。梨里もあまいねぇ、私が簡単に諦めると思っていたのかな」
ニヤニヤと笑いながら、彼女は私の鞄に問題集を戻した。
電車はまっすぐ次の駅に向かって、トンネルへと入っていく。
「まもなく、山中町です」
車内に運転士のアナウンスが響いた。