1 平野町
高校生になって最初の夏休み。
近くの木々から、ジジジジジジジーと蝉の鳴き声が聞こえてくる中、私は電車を待っている。
ここは平野町。
その名の通り、だだっ広い平野に、位置している町である。
今の季節は、トマトを育てる農家が多い。
駅で待つ私の目に、美味しそうなトマトが真っ赤になっているのが見えた。
それを見ていると、ふと喉の渇きを感じる。
家を出るときにお茶を飲んだはずなんだけど、この季節は特に水分が欲しくなる。
そういえば、平野町駅のホームには、一台の自販機が設置されていたはずだ。
私は記憶の中では、幼い頃自販機でジュースを買った思い出がよみがえり、色々な種類があったなぁと振り返りつつ自販機がある方に向かった。
私の記憶は正しく、自販機はあった。
ただ長年そこにあるのだろう、あちこちで汚れが目立つようになっていて、本当に動いているのか不安になる。
それでも最近出た飲み物もあり、自販機が動いている音もちゃんと聞こえるから、問題ないだろう。
様々な種類の飲み物があるため、どれを選ぼうか悩ませる。お茶、コーラ、サイダー、スポーツドリンクなどがあった。
どれも価格は一緒で150円と記されていた。
結局私は悩んだ末、お茶を選んだ。
他のは口の中がべたつくから、喉の渇きを抑えるのはお茶が良いだろうと判断したからだ。
財布から百円玉を一枚、五十円玉を一枚入れると、大きくお茶と記された容器の下にあるボタンを押す。
自販機からはチャリンチャリンとお金が落ちる音を響かせ、それと同時にペットボトルのお茶が取り出し口に落ちてきた。
私はお茶のペットボトルを取り出し、首にあてる。
首がひんやりとして気持ちいい。
ふと地面を見ると、私の影よりも大きな影がうつっていた。
その影のある方を見ると男の人がいる。
物音をたてずに突然現れたので、驚きのあまり声が裏返ってしまった。
「どうぞっ……」
彼は小さく頷くと黒い革製の財布を取り出し、自販機にお金を入れる。
彼はすぐにスポーツドリンクのボタンを押した。
私が悩んでいる間に決めていたのかもしれない。
よく確認すると、私と大して変わらない年齢のように思える。
私は自販機の近くにあるベンチに座ると、ペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。冷えたお茶はとても美味しい。一気に半分ほど飲んでしまった。
しばらくすると、女性の声で構内アナウンスが流れる。
「港町行きの普通電車が到着します」
電車がやってきた。
ゴトゴトと音をあげ、ホームに電車が止まった。
二両編成の電車で車内にいた人が続々と降りてきた。続々といっても10人程だ。
車内から降りる人がいなくなると、私はその電車に乗った。激しいモーター音と備え付けられた扇風機はこの電車の古さを感じさせる。
「御乗車ありがとうございます。この電車は港町行きです。発車までしばらくお待ち下さい」
運転士のアナウンスが車内に流れた。今は私を含めて3人しかいない。発車までは時刻表通りだとあと3分ほどである。たぶん今は港町方面からの電車が駅に来るのを待っている状況だ。
「おっはー、梨里」
突然私の右わき腹をこつき座ってくる女の子がいた。
私が彼女の方を向くと、そこには真っ白な歯を見せ、にっこりと笑っている友達がいた。
名前は戸村柚季。
小柄な私からすると、彼女は背が高く、スタイルも良くて大人びて見える。
髪はストレートで、くせ毛な私からすると、彼女の髪を羨ましく思う。
私と柚季は、小中高とずっと同じ学校に通っている。
「おはよう。柚季はこれからどこに行くの」
「港町まで行ってぶらぶらとお店を見ようかなと思ってる」
「梨里も港町へ……」
「そうだよ。中学の時、同じクラスだった子に会いに行くの」
港町方面からガタガタと音をたてて電車が来た。
平野町駅のホームにとまると、数人が電車から降り、改札口に向かって歩いていった。
「まもなく、港町行き発車します」
運転士が駅のホームにいる人に向かって言った。
その人は、汗でシャツがびしょびしょになりながら、私達と同じ車両に乗った。