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第七章.オルテミス

「イグニスは俺が守る」


 そう言ってオルテはウヴァーリ族の少女の前に躍り出て庇うように両手を広げる。


 速いな、やはり。


「イグニスだけじゃない。この孤児院は俺が守るんだ!」


「守れないよ」

 ふうとジェードはため息をつく。


「なんだと?」


子供(ガキ)一人の力じゃ守れない」


「うるさい! だまれぇええええええ」

 とオルテはジェードに向かって殴りかかってくる。


 速い……。レベル47。いや、それだけじゃない。職業もち。それも、確実に上位職だ。


 とはいえ、遅い……。目をつぶっていてもよけられるだろう。


「っ!」

 が、ジェードはよけなかった。その小さな拳を、頬で受ける。


「あんた、わざと!」


「そう。このくらいの攻撃じゃ痛みも感じない。どうしてかわかるか?」

「……レベル」


「そうだ。君は圧倒的にレベルが足りない。だから俺にはダメージを与えられない」


 だけど素質はある。


「守りたいなら強くなるしかないんだよっ!」


 そう言ってジェードはオルテの腕をつかむ。


 少し力を入れるとオルテは顔を苦痛にゆがめた。


「く、くぅ」


「や、やめてくださいっ!」


 と、セレスの言葉でジェードは手を放す。


「ふう。それより、もう隠すのはやめにしませんかね、セレスさん」

「っ……」


「あんたは俺たちに何をやらせるつもりだ」


「それは……」

 ジェードが問い詰めると、ばつが悪そうにセレスは視線を切る。


「言えないなら当てようか? おそらくこの獣人はどこかの盗賊団や富豪に目をつけられていて、渡すように脅されているんじゃないか? そいつらを撃退してくれっていうのが以来の本当だろう。とはいえ、おれたちは今回臨時職員としての代金、12万ゴールドしかいただいていない。正式に依頼を出せば、それ以上になることは確実だもんな」


 そう。たとえば盗賊団ににらまれていたとする。その討伐任務だとすればその十倍程度の金額がかかることは確実。


 商人スキルで彼女の支払い能力を把握したが、およそ20万がゴールドが限界のはず。


「いったい、何ににらまれている?」



「……『深淵の獅子団』に」

 震える声で、セレスはそう落とす。


「バカな。『オプスキュリテ』じゃないか……!!」


『オプスキュリテ』とは世界32の国家のうち、29が加盟する『国家団体連合』が指定する、一国家の判断で手を出してはいけない団体に博される位。そのあまりの勢力から、争うには国家間戦争に匹敵する被害をもたらすとされているのである。


「……先日、『深淵の獅子団』が孤児院に現れたんです。この孤児院がイグニスを、ウヴァーリ族の生き残りを保護していることを掴んででしょう……。彼らは、孤児院に、ある要求を突き付けてきました。それは明日18時までにイグニスを引き渡すこと。それができないなら、この孤児院の子供を、全員殺す、と」


「だから俺たちに依頼した。だけど、ダメだな」


 その言葉でビクッとセレスは体をゆする。


「護衛ならあの値段じゃ受けれないし、『深淵の獅子団』が相手となれば……」


 値段ではなく、『受けられない』。オプスキュリテとの戦いは、国家一つを敵に回すことと同意だ。その難易度は値段に相当できない。


 相手が本当に深淵の獅子団なら、な……。


「当然いくらつまれても受けられない。それが普通の選択。だけど、条件次第では、この孤児院の護衛、受けてもいい」


「ほ、本当ですか?」


「ああ、ただし今のままの料金じゃ当然受けられない」

「し、しかし孤児院には……」


 それもわかっている。商人は相手の支払い能力以上の金額を要求したりしない。その限界を見極めて交渉するのだ。


「500万ゴールド」


「っ!」


 その言葉でセレスは驚愕に表情を変える。払えるわけがない額だったからだ。


 孤児院のすべてを売り払ったとしても無理な金額。


「そ、それ……は」


「この! 結局、金かよ! くそやろう!」

 オルテもこの孤児院の支払い限界をわかっているのだろうか、大声でジェードを罵倒した。


「ぶっ殺してやる! この守銭奴がっ!」


「当然だろ……」


 世界樹は営利企業だ。善意で人助けなど行わない。当然、行いたいという気持ちはある。それでも、無償で働くのはその信念にも反する。


「だから」

 殴りかかってくる、オルテの手を掴んで、それを告げる。


「500万ゴールド。君が払え」


「おれが!?」


「そうすればみんなを救える」


 そうジェードが言うとセレスが何かを言おうと口を開く。しかしジェードが静かににらむと、セレスは何も言わず押し黙る。


「きみ今、歳は?」


「11歳だけど」


 この国では成人として認められるのは15歳からだが、就職自体は12歳から可能だ。


「あと一年か。12歳なったらうちで働いてもらう」


 彼は冒険者として素質がある。一流の商人は現状の価値だけではなく、将来性まで正確に把握しなければならない。もちろん優亜の経営スキルも二流三流のそれではない。


「おれはお前に賭けると言っているんだ。この孤児院は守ってやる。だから料金はお前が大人になって働いて返すんだ」


 彼を冒険者として教育すれば、並大抵の盗賊団など太刀打ちができないレベルにまで上達するだろう。そうすれば彼は一人でこの孤児院を守ることができるようになる。


「わかった」

「商談成立だな」


 あとはイグニスを狙う盗賊団を撃退するだけでいい。『深淵の獅子団』を騙る、盗賊団を。




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