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第六話.ウヴァーリ族

 一日目は何事もなく、平和に過ぎ去った。夜はオルテなんかが眠れない様子で騒いでいたが、セイラの歌で全員眠らせることで、苦労なく休むことができた。


 そして、二日目、今は子供たちとともに農作業中だ。孤児院の維持は補助金や寄付だけで賄えるものではなく、このように農作業をしたり、町の商店街と契約して裁縫などの仕事を回してもらったりしているのだ。


「ほらくそガキども。さっさと畑を耕しなさい!」

 と、子供嫌いだったらしいレイが子供たちをビシバシ指導している。


「ちょっとレイちゃん、もっと優しくしてよー」


「っていっても無駄だってあの人子供嫌いだからさ」

 ぶつくさ言いながらくうとセイラは子供たちとともに畑を耕している。


「あのおねえちゃん怖いよー」


「ごめんね。大丈夫だよ。ちゃんとやってれば怒られないから」

 よしよしとくうちゃんは隣にいた小さな男の子のことをなだめている。すっかり打ち解けたようだ。


「さて……」


 ジェードはそんな様子を一瞥すると、教会の方へと向かっていく。


 彼女たちが抱えている問題。この依頼の本質を見抜かなければならない。


 孤児院の中に入ると、聖堂では十字架に向かってセレスさんが何か祈りをささげているようだった。扉の開く音にも気づかないほどに熱心に。


「……主よ。私の愚かな選択をお許しください」


「……?」

 何かに懺悔しているようだ。


 ジェードは静かに瞳を閉じる。


 気配を追う。この孤児院に取り巻く環境を読む。


『商人スキル』

 危険や金のにおいを察知することができる能力。


「この……孤児院」


 ジェードはセレスに気づかれないように奥の扉へと入る。子供たちの居住空間となっているそこ。料理を作った調理室などもあるエリアだ。


 その先。院長室か?

 本や聖具が並べられた部屋。おそらくは院長室だろう。その、本棚。


「これは……」

 不自然に一つだけ埃のない本棚を触れる。


「やっぱり、この本棚。動く……」

 横に向かって引くと、本棚は動くようになっていたのである。隠し扉。


 これは何も不思議なことではない。国連や多くの国家が推奨する宗教はエルピス教だ。彼女ら教会が支持する聖教はいわゆる異教の一つ。教会の施設にはいわゆる異教徒を庇護するために隠し部屋があることは珍しい話じゃない。


 その中に入る。


 地下へと続く階段だった。薄暗いじめじめとした階段。一体どこまで続くのか。やがて一階からの光が届かなくなったほど奥深く、地下から光が見える。



「光源?」


 いやそれだけではない。人の気配も。


 かさりと足に何かが触れる。


「?」

 ぬいぐるみだった。小さな子供が好むようなぬいぐるみ。


 いや、それだけじゃない。本やおもちゃなどが散乱している。



「だれ?」

 透き通るような声だった。


「……こどもか」

 10歳くらいの女の子。無造作に伸ばされた赤髪を揺らす。特徴は……。


「きみは……?」

 その頭には耳が生え、体は毛皮でおおわれていた。


「見て、しまいましたか」

 後ろからの声で思わずジェードは飛びのき、構える。


「あ、せんせー」


 女の子は安心したように現れた存在に声をかける。


 胸を揺らしながら現れる女性。孤児院の主、セレスである。



「これがこの孤児院の闇、ですね」


 女の子……レッドタイガーの獣人、ウヴァーリ族。


「生き残りがいたのか」


 この世界には、人間や魔物以外に亜人と呼ばれる種族の人々が存在している。


 かつて、人魔大戦以前の話だが、もともと人間たちと敵対し闘ってきた過去がある。繁殖力が人間より低かったため亜人種側は劣勢となり土地を奪われることも多かった。


 そんな中彼女たちウヴァーリ族は元々、人間に『愛玩物』として乱獲された過去がある。そのためか、人魔大戦前後にほとんど全滅したと聞いている。


 そんな迫害の歴史もあり、亜人種たちは人魔大戦時、多くは魔王側について戦ったのだ。

 とくに亜人とひとくくりにしても翼人やエルフといった様々な種族がいて、全体としては大勢力だが一つ一つは少数民族に近かった。もともとはそれらが協力して人間に立ち向かうことはなかったが、魔王と言う圧倒的指揮者のおかげで亜人は種族の壁を越えて人間と協力して闘うことを可能にしたのだ。


 しかし、周知のように人魔大戦は人間側の勝利に終わった。


 人魔大戦以降、亜人種のすべては国連が管理し、現在では死の大地と呼ばれる『マウトゥ・フェネア』にすべての亜人種が押し込まれているのだ。

 したがって、国連が管理していない亜人は現在人身売買によって破格の値段で取引されている。それも、絶滅したと考えられているウヴァーリ族ならば、その価値は、数億や数十億では聞かない金額で買いたいと考える富豪も多いだろう。



「偶然なんです……森に山菜を取りに行った際、オルテが見つけてきて」

 あの女の子か……。


「子供たちはみんな優しい子たちです。この子は姿かたちが違うけれどそれでも差別なく仲良くしてくれる」


 と、嬉しそうに微笑む。


「おまえ……そいつのことどうするつもりだ?」

 入り口である。


 いつの間に現れたのだろう。殺気を漂わせてオルテがジェードを睨みつけていた。


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