第五話.レベルとスキル
ジェードはこうあって実は元冒険者である。
魔王の血を引きながら意外かもしれないが、実は……勇者のパーティにいたこともある。もちろん異世界からの召喚者からではないが。
現世界において勇者とは神の庇護を受けし者のことを言う。そして現代で勇者と言えば唯一絶対、ある人物を指す。
風神イエリア! 世界最強の冒険者として名高い。冒険者ギルド協会『第三世界』協会長である。
「まずこの世界にはレベルとスキルが存在する。レベルとはその人物の能力値に影響を与えるんだ」
この世界では基本的に、基礎能力×レベル補正によって現在の能力が決定する。
例えばレベル1の時、100メートルを20秒で走る人間がいたとしよう。
これがレベル50になるとおよそ10秒。レベル100になるとおよそ6.6秒、レベル150でおよそ5秒で走れるようになるのだ。
レベル補正は各人間の個体差によって前後するが、基本的には、50レベルでおよそ2倍。100レベルでおよそ3倍と、50レベルごとに倍になる。
またその人間がついている職業によって補正にさらに補正がかかる。職業補正は、たとえば戦士職は、体力や力が伸びやすく魔力や魔耐性が伸び悩むと言ったようなふうな現象だ。戦士職で言えば、レベルが50上がれば倍のさらに1.5倍ほどになるのだ。
ちなみにこのステータスは基本的に一般的には数値化されていない。握力や筋力を二次的に測る装置によっておおよそ算定している数値である。
「ふーん。じゃあ、早く職業に就いたほうがいいってこと?」
「いやそういうわけでもない。たしかに力を上げたいとかっていう明確な目的があれば早めに戦士なんかの職業についてしまうのがいいだろう。だけど逆にマイナスの補正がかかるステータスもある。そうするといつか大人になった時に魔法使いになりたいって思った時、取り返しがつかなくなる」
「どういうこと?」
「たとえばレベル1から50までの間、戦士職だったとする。そうすると力は高く上がるが、魔力は上がらない。その後魔法使いに転職して、レベル100になっても、レベル50からレベル100の50レベル分しか魔力が上がらないってこと。魔力も力も、レベル100の無補正者よりも低くなってしまうんだ」
だから自分の道を決めるまでは職業につかず、無職であった方がいい。
もちろん、職業の中には、選ばれた人間だけが付ける上位職がある。たとえば、勇者はその中でも『神級職』と呼ばれ、そのすべてのステータスの補正がおよそ倍になるという。
さらに選ばれた人間は複数の職業に同時につくこともできる。
例えば戦士でありながら魔法使いでもあったりする。力も上がり、同時に魔力も上がると言ったようにである。これはどういった人間がそうなれるのかは決まっていない。
言ったように、ジェードは『神級職』の一つ『魔王』職についている。勇者と同じくほとんどのステータスに二倍近い補正を受けるのだ。さらに『商人』職を兼任している。
「そして職業に就くとほかにも利点があるのが、スキルだ。スキルにはレベルが上がるごとに覚えることができるベーシックスキルと、各職業についている者だけが覚えられる職業スキルの二つがあるんだ。そしてスキルにはもう一つ種類がある」
それが、固有スキル『神の恩恵』である。
この世界の冒険者たちは、レベル100を超えることを目指す。
それは、100レベルを超えた冒険者が『固有スキル(カリスマ)』を得るからだ。この固有スキルを得た者がいわゆる一流と言われる。固有スキルは能力者ごとに異なっているのだ。
そしてこのカリスマはレベルと言う概念すらも超越する。前述のようにレベルが高いほうが身体能力は高まる。が、カリスマはその絶対の法則を覆しうるのだ。
強力なカリスマ持ちのレベル100と、そうではないレベル300の冒険者なら、あるいは前者も勝利しうるというわけである。
「どうやったら強力な『能力』を得られるんだ?」
と、珍しく真剣な面差しでオルテは言った。
「どうやったら!」
「……明確な基準はないよ。ただ人生の中で最も本人が重大と捉えているものが能力として発現することが多いと言われている。強い思いを持った人間の方が、より強いカリスマを宿す可能性が高まるんだ」
とはいえ、カリスマはその人数が少なく、他のスキルとは違い、科学的考察が不十分である。今言ったジェードの説も一つの仮説でしかない。
「おれはみんなを守れるような力が、欲しい」
ぐっとこぶしを握りしめてオルテは言った。その拳にわずかに光が宿ったのをジェードは見逃さなかった。
視える! それは圧倒的、才能の片鱗!
高度な商人スキルは商品価値を現在の者だけでなく未来まで見据えてそれを把握する。
彼女は、おそらく近い将来、カリスマを得る。それも……相当、強力な。予感があった。
世界最高ランク、単独で国家に相当する戦力を持つと言われる『世界最高能力者』クラスの逸材になろうとっ!
そうしてスキルとレベルの授業を終えると、今度はセレスさんが算数の授業を始める。ジェードはレイとともに、みんなが授業を受けている間、食事の準備をすることにする。くうとセイラは算数の授業も一緒に受けさせているのだ。
ちなみに孤児院の子供たちの数は15人。これだけの食事を用意すると言うだけでもかなりの手間だ。
ちなみにレイはウサギの耳のバイトで給仕をやっていることもあり、ある程度料理も可能なのだ。
食事は基本的に孤児院で育てている畑でとれる野菜や、形が悪く商品にならないということで商人からもらえる食材、国からの寄付金で購入したものなどが主だ。
というわけでレイはウサギの耳直伝、カレーライスを作る。
「うまいもんだな」
「まあ、バイトしてますしね。それよりどう思いますか?」
「ん? なにが?」
「この依頼です。子供たちの様子も……」
「ああ」
ジェードはレイの言葉にうなずく。
「明らかに緊張している様子だった」
その通りである。襲い掛かってきたのはオルテだけだったが、子供たちの多くがおびえていた。彼らは、日常的に何かにおびえて暮らしているのだ。
もちろん彼らは孤児だ。生まれつきそうだったのかもしれないし何らかの原因があってそうなった者もいるだろう。何かにおびえているのもわからないじゃないが、そうじゃなくて、何か……。
もっと緊急性を要する……。
そして依頼人セレスのあの様子。
三日と言う期間限定。
「おそらくこの三日間の間に、何かが起こるだろうな」
戦闘を有するような、何か。