第三話.聖教徒セレス
108のHカップッ!!
「あ、の。世界樹、ってここ、ですよね」
これは何もジェードが変態だからカップ数が分かったわけではない。
スキルと言うこの世界特有の特殊能力によるものだ。
この世界に入ったようにレベルと言う概念が存在する。この世界の人間はレベルが上がるごとに特殊な能力『スキル』を得ることができるのだ。
スキルには基本スキルと職業スキルが存在している。基本スキルはレベルが上がるごとにすべての人間が得ることのできる力であり、職業スキルは職業ごとの熟練度によって得ることのできる能力だ。
ちなみに魔物をカスタマイズしたり従えたりするのもこの職業スキル。魔王職によるものだ。
社長をやっていることからもわかるとおり、ジェードは魔王職だけではなく、商人職も兼業している。そんなわけで一通り鑑定スキルも使用できるというわけだ。
そしてそれらにのらない才能、特定の人間が有する『固有スキル』という特殊なスキルも存在している。
「あ、あの……」
「そう。ここが世界樹」
何も答えない社長の代わりに、髪の毛の触手を揺らしながらナーちゃんがうなずく。
と、自由に動き回る触手はペタペタとシスターさんのおっぱいに這っていく。ナーちゃんの触手は基本的にナーちゃんの意思で動くのだが、やわらかいものが大好きな特性があるため、無意識にやわらかいものに近づいてしまうのだ。
「ふひっ!」
と悲鳴を上げてシスターさんはうずくまる。
死かも触手は服の中に侵入し、さらにスカートをたくし上げて……。
実にうらやましい。じゃなくて……。
「ナーちゃん。ダンジョンに戻ってなさい」
このままではいろいろとまずい。セクハラで訴えられかねないからな。
近代ではロタネブ王国は訴訟大国などとも呼ばれる。そう言う意味では引っ越しのいざこざもなかなかにまずかった。蘇生魔法を使わなければならないほど重症だったから記憶も飛んだが、下手に覚えていたらそれこそ慰謝料請求されてもおかしくなかったかもしれない。
やれやれである。
「それで、すみません。依頼ですよね」
うずくまってがたがたと震えるシスターさんにジェードは声をかける
「あうう。本当だったんだ」
「えっと、何がですか?」
「魔物派遣って比喩じゃなくて」
そんなシスターさんの言葉を聞いて、ジェードはハアとため息をつく。
たしかに魔王が死んでからこの世界の人間は魔物と相対する機会も少なくなっている。
そのため、魔物派遣を冗談だと思ったり、冷やかし目的で訪れる人もいるのだ。
魔物を出演させたCMも流しているのに。
どうやらCMに出ている魔物は精巧な作り物ではないかと勘繰る人間もいるらしい。
確かに近年の映像技術は上がっていて、昨年公開されて大人気となった『ディメンション・ウォーズ』なんかは、目の前で現実に行われているかのような迫力があったのだ!
そのCG技術を使えば確かに世界樹のCMも簡単に作れるだろうが、それにしたって小企業にそんな金はない。
「で、えっと、あなたは依頼に来たんですか?」
怪訝そうに悠斗が尋ねると慌てた様子でシスターはうなずく。
「はい。私はヘリオス教会に所属する聖教徒のセレスです」
ヘリオス教会は聖教の中でも少数派に属する。王都アルヘナに存在する小さな教会だったはずだ。
「教会では、皆様のお布施によって孤児院を経営しているのですが、人手が足らず……ぜひ人材派遣をお願いしたいと思いまして」
ロタネブ王国では、昨年、貴族院の議長であるコルツァ・ダイアの国庫横領から端を発し、一部の貴族主導の内乱が勃発した。幸い数か月で事態は鎮圧、コルツァ派の貴族は全員投獄され幕締めとなったが、この内乱の影響で親を失った子供たちが多くいるのだ。そんなわけで人手が足りないという依頼が発生するのはわからないじゃない。
しかし……。
「世界樹に、ですか?」
ジェードは訝しがるようにシスターを見る。
「世界樹は人材派遣会社じゃない。モンスター派遣会社だ」
とはいえ町のなんでも屋さん。急な子守の類の依頼を受けることもある。
しかし孤児院からの依頼と言うのは初めてのケース。
孤児が多く発生したことは政府も重く受け止めており、現在孤児院の経営には多額の補助金が出るし、職員の人材育成は国家規模で大きく行っている。
わざわざ一時的に世界樹に頼むような案件ではないように思える。と言うかそもそも普通の派遣会社でいいのでは?
「むろん長期の人材募集はかけております。しかし急な人手不足で。新しい職員が見つかるまでの間、という依頼なのです。み、三日で構いません」
そう言う。しかし、何かを隠しているようにシスターは視線を切る。
「……わかりました」
おそらく彼女が普通の人員に依頼できない『理由』を抱えているのだろう。しかし世界樹はモンスター派遣会社。どんな依頼も断らない。
「孤児院での臨時職員引き受けます」
というわけで、今回派遣するモンスターは三人。
頭にはウサギ耳をぴょこぴょこと揺らし、肉球つきの手で髪の毛を整えているグラマーなバニーガール衣装の少女。デビルラビットのレイちゃんだ。
その威光放つレッドアイは相手を夢見の中にいざなう効果がある。子供たちを寝かしつけるのに最適な能力なのだ。
プラスして幻想的な歌で人を支配する魔物セイレーンこと、セイラちゃん。きゃぴきゃぴしたカラフルな服装に身をまとう、年頃の女の子と言った見た目だ。鋭くとがった耳がなければ人間と大差ないだろう。
さらに見た目と年齢の近さから遊び相手になるだろうと、ゴブリンのくうちゃんもつれていく。
この陣営ならどんな依頼でもこなせるだろう。
「あ、あの……」
それに対しておずおずとセレスは声を上げる。
「実は最近、教会近くは治安が悪くなっており……」
そう言ったのである。
「ふう」
ジェードは静かにため息をつく。
なぜ彼女がモンスター派遣会社に赴いたのか。そして彼女の対応。その煮え切らない態度。
おそらく彼女の孤児院は何らかの問題を抱えているのだ。だからこそ世界樹に来た。
「安心してください。彼女たちはA級の冒険者たちよりも強い。それに……僕も行きます」
ジェードはにっこりとほほ笑んで、そう言ったのだ。