第二話.コマーシャル
「お客様、起きてください」
「む? あ、れ?」
目を覚ましたダイオは不思議そうに自らの腹に手を当てる。
「俺、さっき」
「いえ。急に気を失ったものだから心配しました。あ、それで引っ越しですがすでに完了しています。ありがとうございました」
「ん。あ、ああ」
腑におちなそうにしながらもダイオは社を後にする。
「助かったー」
そんな後姿を確認して、ジェードはため息をつく
「人間、脆弱。手加減、大事」
ふよふよと頭の髪の毛のような触手を浮かせながらそう言う半透明な女性は、テラヒールスライムのナーちゃん。回復魔法を使う魔物の中でも最上位級の存在だ。
人間では世界に数人しか使い手がいないという蘇生魔法も使用できるのだ。
……『蘇生』魔法も使用できるのだ。
「ごめんなさい」
「失敗はだれにでもあります。くうちゃんは悪くありません。むしろ悪いのは」
と、けも耳メイドはじとっとジェードを睨みつける。世界樹社長秘書も務める、かつて魔王時代は四大魔帝の一人と言われたケルベロス、こと、ラピスさんだ。
「社長です」
「ええ!? おれかよ」
「けしかけたのは社長ではありませんか」
「だって冒険者ってさ、素行が悪いっていうかさ。前だって護衛にって借りていったのに、途中で殺して代金踏み倒そうとしたことあったろ? もちろん、返り討ちだけど。だから、最初に実力わからせた方がいいかと思って」
そう。人間たちが親しみやすいように、との目的で、現在ジェードが使役する魔物たちは人間に近い姿恰好をしている。それも女の子や子供の姿をさせている者が大半だ。そんなわけで、腕っぷしに自身のある荒くれ者たちにはどうやら舐められてしまうようなのだ。
ジェードも歳は19歳。魔王とのハーフと言うこともあり人間より成長が遅いようで、見た目は14、5歳ほどだ。そんなのも拍車がかかっているのだろう。
用心棒に、戦闘に特化した姿の魔物を使役したほうがいいかもしれない。しかしそれでは『魔物は友達! いつでもどこでも、みんなの味方♪』という社風と矛盾してしまうし。むむむ。
『こわくないよっ! 魔物は友達! みんな、にこにこ、人間の仲間さ! 小さな体で力持ち♪ 危険な仕事も朝飯前! 世界のどこでもひとっとび! みんな大好き、魔物の子。みんなの味方さ~☆
お客様のご要望に応え、様々な魔物を派遣いたします! 親切安心、モンスター派遣会社『世界樹』。王都アルヘナ本店、セントラル門を出て西へ徒歩10分。みんな、何でも相談しに来てね!』
と、アルヘナ中央電光板でコマーシャルを流しているし。
ちなみに電子映写機とは、画面に映像を表示させるもので、戦争中に開発された通信アイテムだ。現在では平和利用され、町の中央の映写機で、お店のコマーシャルを流せるのだ。一日合計20分の映写で、400,000ゴールド。まったく世知辛い世の中だ。
しかし電光板のレンタルでこの値段だ。全国放送でテレビコマーシャルなど打てばその十倍や百倍は値段がかかってきてしまうだろう。
当然のことだが、ここ百年、この世界の科学力は飛躍的に向上した。戦争の引き金となった理由でもあるのだが、勇者の存在が大きい。魔王討伐のための勇者召喚を目的に行われたそれだったが、副次的な効果をもたらした。この世界よりはるかに進んだ文明を持つ『地球』と言う異世界の存在が認知されたためである。その技術力を独占しようとしてはじまったのが第一次世界大戦だ。今となっては勇者召喚の儀は失われ比べようもないが、この世界の文明は地球と比べても大差ないだろう。少なくても勇者召喚が行われた当時の地球に会った技術のほとんどはこの世界に輸入されている。
とそんなことを考えていると、こんこんっと扉がノックされたのである。
「はい、どうぞ!」
ジェードがそう言うと、ゴブリンのくうちゃんがトテトテと走って行って扉を開く。
扉の先に立っていたのは黒いローブに身を包む女性だった。というか修道服に身を包む女性だった。
顔も隠れているのであまり見えないが、おそらくは美人。
と言うか美人だ、これは確実に。しかも胸がやばい。修道服の上からでもわかるほどに圧倒的に大きい。GかHはあるか?
いや……。
「……!!」
ジェードは女性の胸を『視』る。
108のHカップだっ!