行間.ウサギの耳
「なあ、ウサギの耳に入った新人、かわいいよなー」
「しかも獣人みたいだしな」
「ばかいえ、ただの魔物だろ? 獣人がここにいるわけないんだ。それに赤毛って言ったら、ウヴァーリ族だぜ。とっくに全滅した種族じゃないか」
そんな店から出てきた男たちの言葉を聞いて少年は微笑む。
扉を開けるとカランコロンと鐘の音が鳴る。
「い、いらっしゃいませ。ご主人様! あ、お、オーナー」
「大人気みたいじゃないか」
「あうう。恥ずかしいです」
と、トテトテと店の奥へと言ってしまう。
ウサギの耳新人ウエイトレス、イグニス・エルカ。おとなしく薄幸な様子はお客様の守りたいという感情をプッシュし、どんな時でも丁寧な給仕も相まって、今や人気NO.1なのだ。
「最初に見たとき絶対思ったんだよ。才能があるって!」
「あ、あのオーナー。ありがとうございます」
店の奥からメニューを持ってきたイグニスはジェードにそれを渡しながらお辞儀する。
「人材の適性を把握するのは商人として当然のスキルだからな。それより、コーヒーを一杯」
「はい!」
楽しそうににっこりとほほ笑んだ。
ジェードはそれを見て、安心したようにうなずくのだった。