第十一話.契約
「あ、あの」
おずおずとオルテがジェードに声をかける。
「オルテくん」
心配するようにイグニスがオルテの手を引く。
「大丈夫だよ。もう、怪我は治ったみたい」
と、オルテはぐるぐると腕を回し、大丈夫だと示す。クリュプタの能力を利用したためだ。敵の能力を自由に自身に付加し利用する。あの能力磨けば相当のものになるだろう。
「ありがとう。孤児院を守ってくれて」
「ああ。だけど約束は守ってもらうよ」
「わかってる。12になったら働きに行くよ。あんたのところで働けば、きっとおれはこの孤児院を守れるほど強くなるだろうからな」
その言葉にジェードはうなずく。そして室内を一周する。
「みんな無事か」
「あ、ありがとうございます。子供たちにけがは、ないです」
おびえたように声を震わせながらもセレスはそう言う。
「あーもう。つかれちったー」
仲間たちにもけがはない、か。
完全勝利、というところだ。
「ではセレスさん、これで依頼は完了と言うことでよいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「では12万ゴールドいただいて差額の488万円は後程、オルテくんに請求するということで」
「う、は、はい」
「それと……孤児院の天井が壊れてしまいましたが」
「え? あああああ」
「修復業務、ご依頼いたしますか?」
営業スマイルで、にっこりジェードは微笑んだのである。
「それと、イグニスちゃんですが、うちに預けませんか?」
「え?」
「彼女がここにいることは深淵の獅子団も掴んでいる。おそらく守りきれないでしょう。うちなら魔物もたくさんいるし、彼女の姿があっても違和感がない」
「……た、たしかに、そうですね」
セレスさんもうなずく。
「ダメーーー」
だが、子供たちがイグニスに抱きついてそれを否定する。
「イグニスちゃんを連れて行っちゃ……」
「やめろっ!」
だが子供たちをオルテが止める。
「今の俺たちじゃ、イグニスを守れないんだ」
「オルテくん……」
「社長さん。イグニスのことは頼む……。イグニス。待ってろ。強くなって。お前を守れるくらい強くなって迎えに行くから」
そう言ってオルテは微笑む。
「うんっ!」
イグニスは嬉しそうにうなずいたのである。
というわけでジェードたちは孤児院を後にする。
「しかしお兄ちゃんはやっぱり人が悪いですねー」
城に戻るとくうちゃんはそう言った。
「人じゃないけどね」
アハハと優亜は微笑む。
「あ、あの。助けていただいて」
「うん」
手をつなぐイグニスの言葉に対してジェードはうなずく。
「まったくみんな完全に俺のこといい人と思ってたよな。そんなわけないのに。おれは魔王だぜ?」
「え?」
「社長。その子を手に入れるためにわざとやってたでしょ」
セイラもそう言って笑う。
「あの程度のカリスマ能力者なら苦戦しないですぐ倒せたでしょ」
「まあね。だけどある程度危険な目にあってもらわないとさ、イグニスを預けろっての受け入れてもらえなかったと思うよ」
「まったく……さすがですね、社長は」
「え?」
「500万ゴールドどころじゃない。君の付加価値だ」
「あ、の」
「わからないかい? 君を手に入れればそれ以上の価値があると思ってそうしたんだ」
そう言ってジェードは電話を掛ける。
「もしもし。ああ、紹介したい子がいるんだ」
「わたしを売る気、ですか?」
「当然だ……俺は世界樹社長。そして、魔王だ」
そう言ってにやりと笑う。当然利益にならない問題ごとをしょい込むつもりはないのだ。
イグニスの表情が、深く絶望に染まっていく。