目覚めた朝に
この画面を開いてくれたそこのあなたに感謝を。
――ん......
「――は――おき――」
「――おい――はや――ろ――」
――声......? そうだ、オレは確か、あの時倒れたんだっけ......?
「――オイ! 早く起きろ!!」
その一言で、未だに微睡みの半ばにいた意識が覚醒する。
「はっ!?」
「あ......は、春人......さん......わた、私......」
なんとも不思議な光景だった。目覚めたばかりの春人の視界は、円になるように、8人の少年少女の顔によって埋め尽くされてしまっていたのだ。若干一名は、泣いてしまっているが。
「ただいま、千恵」
「はるっ......うっ......ぐずっ......おか、えりっ......」
千恵はそういうと、うぇ~んと泣き出しながら、春人に抱きついてしまった。
春人も、自分が眠っている間に一番頑張ったのは、彼女である事がなんとなく分かっていたため、優しく背中をさすってやる。
「あ~! ずるいです! 私もお兄ちゃんにナデナデして欲しいです!」
――は?
一瞬、その場が凍りついて、その声の主を皆で見つめる。
まるで人形のような綺麗な長い金髪を、黒いリボンでツインテールにまとめた、青色の瞳の女の子は、どう見ても、まだ10歳に届いていないような、幼女だった。
「申し遅れました! 私、上咲珠里亜といいます! 気軽にジュリーって呼んで下さい!」
外人さんとのハーフかな? など色々考えを巡らせるが、今一番聞かなければならない事はそれじゃない。
「それで......どうしてオレが、《お兄ちゃん》なのかな、ジュリーちゃん?」
「嫌ですか?」
「いや、別に嫌という訳では無いんだけど......」
あざとい。実にあざとい。春人もずっと寝転がって話を聞くのもどうかと思って、上半身を持ち上げていたのだが(もちろん千恵は抱きついたままで)、その上目遣いと潤んだ瞳は、青春を謳歌している青少年のハートにはズッキュンだ。この子、危険すぎる。
「あぅ......分かりました。もう《お兄ちゃん》って呼びません......」
――クッ! オレの愛情ゲージがどんどん増やされ行くっ! だ、ダメだ。この子には敵う気がしない!
「......いいよ、《お兄ちゃん》で。その代わり、どうしてオレがお兄ちゃんなのか、聞かせてもらえないかな?」
「そ......それは......ひとめ」
ここで今まで何のアクションも起こさずに、ただ春人の胸の中で泣いていた千恵が、ピクンッと体を震わせたかと思うと、『こっち来なさい』とか言ってジュリーを連れて何処かへ行ってしまった。
「何だったんだ......?」
「それは~た~ぶん~あ~なた~には~い~っしょ~り~かいで~きませ~んよ~?」
扉をバンッ! と音を立てて行ってしまった二人を見て、唖然としていた春人に、声を掛けてきたのは、あの時の弓使いの天然少女だった。
「そうか......君は......名前、なんて言うんだ?」
別に大して理解したい話でも無かったので、今はこの天然少女の名前を聞く。
「わたしは~ひ~め~おか~こ~はる(翻訳、姫岡小春)~といいま~す~」
「お、オレは風間春人だ。よろしく......」
こうやって上から身を屈めて貰って自己紹介をしてもらっているので、健全な男子なら、嫌でも女性のある部位に目が行ってしまう。しかも、この小春って子、ヤバい、サイズが。千恵が富士山だとすると、こっちはエベレストだ。そこには悪魔が巣食っていた......さらに、この体制、もう、ちょっと......ね......
――ッ!?
何となくコゴローに非難の目線を送ってみたが、帰ってきたコゴローの目線から読み取れた言葉は、『俺、鼻血出す覚悟なら、もうとっくに出来てるぜ。ドヤ』という意味の分からないものだった。
「こらこら、五郎さん、そんな『俺、鼻血出す覚悟なら、もうとっくに出来てるぜ。ドヤ』みたいな顔しても、駄目ですよ。あ、申し遅れました。私、善積友樹と申します。善も――」
そう言っていきなりコゴローの気持ちを正確に言い当てたこの少年は、コゴロー程では無いにしろ小さい背で、丸眼鏡を掛けていた。かなり聡明そうな少年だ。小さい背がネックだが……
「あー、もういいから。友樹、ここにこれ以上いるのは目に毒だ。早く行こうぜ」
――どっちもいきなり下で呼びあってるって......オレの見てない間に何があった!?
春人が二人に対する疑心暗鬼を募ったところで、コゴローが無理矢理引っ張って部屋から出ていってしまった。
「全く......胸の大きさなんて......ねぇ、力斗様? 私のサイズの方がお好みですわよね? ね?」
「お前はいきなり何を言ってるんだ……オイ、お前。オレは大井力斗だ。んで、この(胸が)ちみっこいのは、俺の幼馴染みの、城之内玲花だ。ま......お前があんな事になったのは、俺にも責任があった。スマン」
そう言ってきちんと自己紹介してきたのは、言わずもがな、あの白髪の少年である。
「聞こえてましたわよ!? 今、さりげなく胸がちみっこって言いましたわね!? む! ね! が!」
さっきからワーワーギャーギャー喚いているこの少女が、城之内玲花か。顔はそれなりだし、黒髪を頭の左右で纏めているツインの縦ロールの髪型は、顔の良さと相まって、それなりにモテそうな感じだった。
しかし、彼女には決定的に足りていない物がある。そう、そのまない――
「――ちょっと!? 春人さん、でしたっけ? あなた、今私の「断崖絶壁」を見てって、力斗様!? 流石に断崖絶壁は酷いと思いますわ!?」
――あぁ、こいつら、仲いいな。うん、出てってもらおう。うるさい。
正直ウザかったので、目線でその旨を力斗に伝える。
最初は『アァ!?』って感じで睨み返されたが、何となく分かってくれたらしく、『行くぞ、まな板』とか言いながら部屋から出ていった。何故かついでに小春も。
――全く、騒がしい奴らだったぜ。さて、やっと一人に......
「チッチッチッ! この私の存在に気が付かないとは、貴様の索敵能力はまだまだなようだなッ!」
そう言いながら、今までずっと壁にもたれて目を瞑っていたため、てっきり寝ているのかと思っていた少年がトウッ! といった感じで普通に歩いてくる。いや、最初はちゃんとオレの顔を覗き込んでいたんだよ? でも、オレが起きたのを確認した途端壁にもたれて目を瞑っていたんですよ。
「私の名は滝島駆。だが!! それは私の真名ではない!! 我が真名は、どんな獲物でもかならず仕留める兵士......閃光の狩人!!」
突然意味不明奇異不可解な事を言い出した、この......何? ブリッツイエーガーさんは、全身をなるべく黒いマントで覆っており、顔も灰色のマフラーのせいでほとんど見えない。オマケに髪も黒髪なので、全身真っ黒。もう狩人じゃなくて暗殺者名乗った方がいいと思う。
とりあえず、この手の奴は相手してると面倒なので、春人はさっさと寝る事にした。まだなんか体だるいし。
「なッ......! 貴様、我が真名を聞いても動じないというのか!?」
無視無視。
「えぇい! 何故だ!? 何故動じん!? まさか、貴様禁断魔法を習得しているというのか!?」
そろそろ正直本当にウザイので、ちょっと叫んでみて、出ていかないか検討する事にする。
「なぁ! マジでちょっとうるさいんだけど!! ちょっと出てってくれないかな!?」
「――!? ご、ごめん......」
思ったよりもコイツ精神弱かった。
――でもまぁ、もうあいつも部屋から出てった事だし、ゆっくり寝るか......
そういえば、この部屋ってだれの部屋なんだろう? と不思議に思ったが、なんだかいい匂いがするので、その事を思考する暇もなく、少年の意識は微睡みの中に落ちていった。
主人公直ぐ寝るな……
ここまで読んでくれたそこのあなたに感謝を。