なんか気付いたら異世界にいました
では、この画面を開いてくれたそこのあなたに感謝を。
目を覚ますとそこは異世界でした。あれ?
「「どうして俺(私)は異世界にいるんだ(の)――!!!!」」
――待て待て待て、おかしいだろ、なんで路地裏で倒れてたら異世界にいるんだ!? 絶対何かが間違ってるだろ!? しかもなんか知らない人達いっぱい居るし!?
周りを見れば、ここはどうやら城塞都市のような場所である事が分かった。所々に立ち並ぶ大きな石造の建物の奥に巨大な壁が見える。
まるで進○の巨人みたいだ。
さて、彼らがここを異世界だと判断した理由は山程ある。
まず、空が無い。
は? と思うのも仕方無い。正確には、空に天井がある、と言った方が正しいだろうか。上を見上げれば、見渡す限りの蒼穹が広がって......はいた。
では何故、空が無いと判断するに至ったのか、それは――
――太陽が......無い
太陽が無いのだ。何処にも。なのに、蒼穹の空が広がっている。最初は皆気づいていなかったが、一人が何故か持っていた双眼鏡で空をよく見てみると、そこには天井があり、メチャクチャ大きい電球が確認出来たというのだ。
しかし、それだけではここが異世界と判断するにはまだ足りない。
一々説明していくと面倒なので、ここは、ここが異世界だと判断する決定的理由となった事例を話そう。
『周りにスライムがいました。目の前に武器がありました。さてどうする?』
周りを見渡せば、青色のゼリーみたいな化け物が居るではないか。しかも段々近寄ってきてるし!
「嫌っ! 嫌――!!」
これでようやくここが異世界だと判断するに至った春人だが、先程も言った通り、ここには春人達、春人、コゴロー、千恵の他に総勢6名の少年少女達がいた。
「な、なんなんだよ!! ここはどこなんだよ!!」
「誰か大人はいないの!?」
皆それぞれ混乱しているようで、マトモな行動をとれていない。喚いたり、泣き崩れたり、ただ呆然としている者がほとんどだ。
「おいおいおい、どうなってんだハル!?」
「は、春人さん、私......」
どうやら、それはコゴローと千恵も同じなようで、他の皆程では無いにしろかなり混乱しているようだ。
周りを見た感じ、冷静に判断出来ているのは春人と、双眼鏡を使っていた男の子と――
「――オイ、お前。お前はどうやら、他のバカ共よりは冷静なようだな。ちょっと手伝え」
急に話かけてきたのは、真っ白に染まった髪を逆立て、目付きは鋭い、いかにも柄の悪そうな、しかしそれでもどこか肝の据わっていそうな少年だった。
「やっぱり、殺るしかないか?」
「はぁ? お前やっぱバカなのか? この状況でそれ以外あるかよ」
見れば、この少年はもう戦う気が満々なのか、最初目の前に置かれていた武器、少年の場合大きなハルバードを肩に担いで持っている。因みに、春人の前には小さなただの9ミリ拳銃が置かれていた。
「お前、重く無いのか? ソレ」
「アァ? コレか? ま、現実じゃあとても振り回せないが、異世界じゃ、問題無いようだぜ?」
そう言って周りの人に当てないように注意しながら、大きなハルバードをブンブンと振り回す。どうやら、口は汚いが、気配りは出来るらしい。
「でもなぁ......オレのは見ての通り、拳銃だぜ? 弾も見当たらないし......」
「そんなの気合いでどうにかしろよ、気合いで」
気合いで拳銃の弾がどうにかなる訳ねーだろ!? という突っ込みを声には出さないように入れる。まだ彼とは初対面なのだ。そういう反感を買うような言動は避けるべきだ。
「気合いでって......ったく......」
一応もしかするとこの異世界補正で、『拳銃の弾数は無限だよ!』ってなってる可能性も無い訳では無い......かもしれないので、拳銃を手に取ってみる。いや無いと思うが。
――あれ、この手触り......もしかして......あの時のアレなのだろうか。
「全く......運命ってのは理不尽な奴だぜ......」
「あ? なんか言ったか?」
「いや、なんでも」
もしこれが、あの銃なら、多分大丈夫だろう、という確信が春人にはあった。
「っていうか今気付いたんだけど、左腿になんか弾あったし」
何故最初から勝手に装備されているんだ? とか、そういう事を突っ込んではいけない。むしろ弾を用意してくれていた誰かに感謝するべきなのだ。
「そうか、そりゃ良かった。んじゃ、俺は東の方の敵殺って来るから、お前は西な」
「あいよ」
敵......スライムのような化け物は、春人達を囲むように10体。その奥に何人もの人々の姿が確認出来る(因みにほとんどの者が色彩豊かな髪の色をしており、日本人とはかけ離れた容姿だった)が、全員怯えたように縮こまっている。
しかし、スライムはそのような人々を意に介した素振りも無く、非常にゆっくりとしたペースでこちらに向かっている。ナメクジのほうがまだマシなくらいなスピードだ。いや、流石に大袈裟過ぎるか。亀さんスピード位......といった所だ。
しかし、それでも自分の知らない化け物という物は本能的なものに恐怖を与えるものだ。
――へっ......なんだよ、オレ? 怖がってんのか? 大丈夫、大丈夫だ。オレはやるって決めたんだろうが......もう何も、失わない為に......!
「行くぞッ!」
春人は敵をしっかりと確認すると、短く鋭い声と共に駆け出した。
では、ここまで読んでくれたそこのあなたに感謝を。