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ヨルムンガルドの夢  作者: 花の人
第0章 日常
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変わらないと信じていた日々 前半

この画面を開いてくれたそこのあなたに感謝を。

 ――ん......



 不意に目を覚ます。



「ふぁ......ん?」



 目覚めた空間は、いつもとなんら変わらない自分の部屋。

 しかし、ほんの些細な事だが、目を覚ました彼にとっては大きな変化。それは――



「やったー! この冬場に目覚まし無しで起きられるなんて! 今日は嵐の予感がするぞ!」



 まさか嵐どころか異世界に迷い込む事になるなんて、この時の彼は全く想像していなかったことだろう。

 その時――



 ――ピピピッピピピッ



 遅くも鳴り始めたソレ(**)に向かって、彼、風間春人(かざまはると)は不敵な微笑みを見せて言った。



「フフッどうやら、遂に貴様も敗北の苦汁を舐めることとなったようだな、ME・ZA・MA・SHI・君?」



 いちいち区切って言うので妙にウザイ。もし目覚ましに意識があったのなら、間違いなく『お前うぜ――!!』と言うだろう。実際はただピピピッという電子音を聞かせる事しか出来ないが。



 春人は尚も鳴り続けている目覚ましのボタンを上から叩き、黙らせる。

 するとなぜかさらにテンションが上がってきたようで、朝からベッドの上で仁王立ちになり「フハハハハ!」と笑う姿を見れば、誰もがちょっとヤバい人だと思うだろう。



 実際、彼にとっては目覚まし無しで起きられるというのは凄い事だったのだ。何しろ、今世紀初めての事(つまり初めて)の事だったのだから。



「春人~朝から何してるの~! ご飯出来てるから、早く食べなさい!」



 春人が騒ぐ中、一階から彼の母の声がかかる。若干ゆったりとした声は、今のテンションアゲアゲの春人には届かない……という訳でも無く、春人は素直に下に降りる事にした。春人は母には頭が上がらないのである。どうしてなのかは忘れてしまったけれど。



「は~い、母さん」



 春人の母、風間妙子かざまたえこは、常にどこかのほほんとした空気を纏っている人であり、それでいて年もまだ30に踏み込んで間もない茶髪の美人という事もあって、ご近所での人気はいつもトップだ(と聞いた)。

 しかも、父、風間隆介かざまりゅうすけが3年前から失踪している事もあって、たくさんの男性に狙われているそうだ。



 と言っても、妙子自身は、『きっとあの人の事だからひょっこり帰ってくるわよ~』などと呑気な事を言っているので、実際攻めこまれた事は無い……らしい。全く信用出来ないが。頼むから突然春人の家に男の人がやって来ないで欲しいものである。彼はあのバカ親父に会ったら、必ず殴ってやるつもりなのだから。



 ともかく、そんな事もあって、春人はなんとなく母、妙子に弱い。のほほんとした感じで、『いつの間にか説教が終わっていた!? あれ!?』なんて事は数知れずだ。そんな母で大丈夫かって? 大丈夫だ、問題無い。



 まためんどくさい『のほほん説教』(春人が命名した)をされる前に、さっさと着替えて朝ご飯を食べて行こうと思い、ハンガーに掛けてある制服を取り、ササッと着替える。



 そして鏡で自分の姿を一瞥する。

 ぼんやりとした目、ちょっと寝癖がついてボサボサっとしている母親譲りの茶髪は目元に掛かるまで伸びていた。

 何とも頼りない自分の姿に苦笑いし、今度髪切ろうと決意する。


 ◇ ◇ ◇


「ごちそーさまー」



 春人は食べ終わった朝食の食器をそそくさと片付けると、通学用の鞄を肩から掛けて、玄関へと向かった。

 妙子は、春人より先に食べ始めていたのに、なぜかまだ3割くらい朝食が残っていた。恐るべし、のほほんパワー。



 玄関には靴が僅か三足しか置かれておらず、少し寂しさを感じる。父が帰って来たらもう少しは華やかなものになるのだろうか……



 ——そんな事期待しても仕方ないよな。俺が連れ戻すんだ、父さんを。



 春人は首を振り、自分の中に芽生えた期待を殺す。帰って来るかな、ではない。連れ戻すのだ。



「行ってきまーす」



 玄関で最近変えたばかりの通学用の靴を履いた春人は、最後に壁に吊るしてあったカレンダーを一瞥し、定番のセリフを口にして扉を閉めた。奥から『ふぁ~い』という気の抜けた返事が聞こえたが、いつもの事なので、特に気にしなかった。



 ......もしこれが最後に交わすかもしれない言葉だと分かっていたら、もっとマシな事を話していたのだろうか。

 もう、今となっては気にしても仕方の無い事ではあるが。



 《12月27日》それが運命の日付だった。


 ◇ ◇ ◇


 しかし、いつ見ても立派な学校だ、と思う。

 校舎は真珠のような白き輝きを放っているし、校庭は二つの学校が同時に体育祭やってもまだ余裕が有るんじゃないか? という広さだし、体育館がどちらもピカピカなのが何故か二つあるし、さらに校内にはゴミ一つ落ちてないと来ている。完璧すぎて、なんだか自分はすごいみすぼらしく見えるのでは無いか? と何度も思った。



 改めてつい校門の前で自分の学校に見とれていると、突然後ろから声が掛かる。



「よッハル、どーしたんだ? こんなとこに突っ立って?」



 彼の名前は西野五郎にしのごろう

 五郎は、何故か男らしさを求めて野球部に所属している。(因みに春人は部活に入っていない。理由はなんとなくだ。母も特別怒りはしない為、帰宅部で通している)そのため、今日は朝練があると思っていたのだが......



「あぁ、コゴローか。朝練どうした?」



「コゴローゆうなっつの……......朝練どころか、今日は部活自体無いんだと。なんかよくわかんねーけど」



 突然部活が無くなるなんて随分不自然だなーと思ったが、やっぱり自分には関係無いので、どーでもいいかーと考えるあたり、春人には欠けてるのかもしれない。頭のネジが。



 ともかく、彼の名前は間違いなく西野五郎なのだが、ある特筆すべき彼の特徴によって、クラス内、というか、学級内に、コゴローというあだ名が浸透している。その特徴とは――



「――お前やっぱ小さいな」



「うっせー」



 そう、彼は、異常に身長が小さいのだ。それはもう異常に。



「コゴロー身長どれくらいだっけ?」



「......138」



「......(ププッ)」



 頑張って堪えたと思うのだが......顔に出てたかもしれない。コゴローが凄い顔で春人を見上げている。しかもそれが坊主頭でさらに面白い。



「お前......! これでも1センチ伸びたんだぞ!!」



「......(も、もう無理......限界)」



 必死に背伸びして春人を見上げているコゴローを見て、もう限界を悟る春人。



「ブハハハッ! お前、前身長測ったのいつだよ! ハハハッ! 大体1年前ぐらいじゃん! ハハハハ!」



 その小さな坊主頭に手を置き、それを支えにしながら大きく笑う春人。



 コゴローはその言葉と春人の行動に怒ったのか、それとも恥ずかしかったのか……プイッと顔を背けると、ズカズカと校門を抜けていった。顔が真っ赤に染まっていたのは気のせいでは無いだろう。



「――ふぅ…………笑いすぎてお腹壊したかも」



 そんな事をひとり呟きながら、春人も校門を抜けていった。

ここまで読んでくれたそこのあなたに感謝を。

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