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かごめ かごめ

籠のなかの鳥は

いつ いつ出会う

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面 だーあれ


 村の子どもたちが無邪気に歌う、そのわらべ歌を聴きながら、松子はふぅっと溜め息を吐きました。それは冬の冷たい風にさらされながらの畑仕事に疲れたせいでもあり、もう何日も家へ戻らない夫のことを連想したせいでもあります。

 松子の夫、亀吉は数日前に山へ入ったきり、闇夜に滑り落ちてしまったかの如くつるりと姿を消してしまいました。日に日に寒さを増す山中は、うっすらと雪が積もっている箇所もあるほどです。もはや無事でいる可能性は低く、下手をすれば探しに行った者たちの命も危ないということで、村人たちは亀吉の捜索から早々に手を引いてしまいました。

「すまないね、松子ちゃん」

 口々に謝る村人たちに、松子は笑って答えました。

「良いのよ。みんなまで居なくなったら大変だもの。あの人なら、そのうちふらっと帰って来るわ」

 夫を探し出したい気持ちは山々ですが、ただでさえ人口の少ない小さな村でのことです。いたずらに人々の身を危険に晒すようなことを頼めるはずもありません。そんな状況でしたので、夫の生還を祈りながら平素通りの生活を送ること以外、松子に出来ることは何もありませんでした。

「さて、そろそろ行かなくちゃ……急がないと日が暮れてしまう」

 呟きながら、松子は収穫したばかりの野菜を籠に入れるとそれを背負い、町へ向かって歩き出しました。亀吉が消えても、松子の生活は続きます。生計を立てるためには、それまでふたりで分担していた仕事も松子がひとりでこなさなくてはなりません。

「かごめ、かごめ、籠のなかの鳥は、いつ、いつ出会う……」

 耳に残る子どもたちの歌声をなぞりながら、松子は町へ野菜を売りに行くのです。


 空に星々が輝き始める頃、家路を急ぐ松子は物悲しい鳴き声を聞きました。辺りを見回すと、田んぼのなかで苦しげにもがく影が見えます。遠目に見ても辛そうなその姿に、何事かと近付いてよく見てみると、声の主は罠にかかった一羽の鶴でした。

「……どんくさい鶴ねぇ」

 拍子抜けした松子には目もくれず、鶴は狂ったように羽をバタつかせ、叫ぶように鳴いています。暴れれば暴れるほど痛い目をみるのは自分だというのに、完全に混乱しているようでした。

「まったく、しょうがないわね。ほら!暴れるんじゃないの!」

 叱咤しながら罠を解いてやると、鶴は嬉しそうに山のほうへ飛んでいきました。鶴を見送りながら、亀吉は今頃あの山の中でどうしているのだろうと考えて、松子はたまらない気持ちになりました。

 辺りには刺すように冷たい夜気が満ち、今宵は村にも雪が降りそうです。


 その晩のことです。松子がひとりで夕食を取っていると、表の戸を叩く者がありました。

「もしかして……亀吉が帰って来たんじゃ……!」

 期待に胸を弾ませながら勢いよく戸を開けた松子でしたが、外は雪が舞っているばかりで、何処にも人の姿はありません。

「……空耳だったのかしら」

 亀吉の身を案ずるあまり、びゅうびゅうと吹きすさぶ風の音と、戸を叩く音を聞き違えたのかも知れない。そう思い、戻ろうとすると、今度は戸が閉まりません。何が引っかかっているのだろうと足下に目をやって、松子の胸は再び大きく跳ねました。なんとそこには見知らぬ青年が倒れていたのです。

「ちょっとあなた!どうしたのよ、大丈夫?」

 慌てて青年を助け起こすと、彼は今にも消えそうな声で答えました。

「夜分に申し訳ありません。人を探している途中なのですが何処を探しても見当たらず、そのうちに日が暮れ、雪が降りだし、やっとの事でここまで参りました。ご迷惑でしょうが、どうか一晩、泊めて頂けませんでしょうか……」

「わかった、わかったから!早くうちに入りなさい!」

 急いで青年を招き入れると、松子はすぐに湯を沸かし、食事を与え、寝床を用意してやりました。よほど疲れていたのでしょう。青年はそのままぐっすりと眠り込んでしまいました。

「一体どこから来たのかしら。こんな弱っちそうな子が人探しだなんて」

 青年は、行き倒れるくらい長い旅をしてきたとはとても思えないほど華奢で色が白く、松子より一回りほど年下のように見えます。女子だと言われても信じられるような整った寝顔を見て、松子は何故だか少しだけ、亀吉に後ろめたいような気持ちになりました。

 

 翌朝、目覚めた青年はすっかり元気を取り戻したようで、松子に何度も頭を下げ、丁寧に礼を言いました。 

「本当にお世話になりました。おかげで旅を続けられます」

「それは良いけれど、当てはあるの?」

 その問いに、ぐっと言葉に詰まった青年を見て、松子は苦笑しました。当ても無く再び雪野原へ出て行こうとしていたようです。

「なにか手がかりでも見つかるまで、ここにいらっしゃいな。この辺りに居るのは確かなんでしょう?また行き倒れたら元も子も無いわ」

「それはそうですが……会ったばかりの貴女にそこまでご厄介になるわけには……」

「言っておくけどタダじゃないわよ?うちにいる間は仕事を手伝ってもらいたいの。住み込みで働いてもらうんだから、厄介者とは違うわ。見ての通り、今うちには私ひとりだし、人手があるとこっちも助かるの」

「そういうことでしたら……どうぞよろしくお願いします」  

 こうして青年は、松子の家の居候になりました。

 そうは言ったものの、松子とて亀吉の居ない間、見知らぬ男を住まわせることに、躊躇いが無かったわけではありません。しかし亀吉の身と同じくらい、青年の身も案じられて仕方が無かったのでした。

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