女豹のポーズなう
目印の向日葵の絵画に向けて出発する事にしたが、今立っている玄関の頭上にある特大シャンデリアが目に留まった。半径一メートルはあるであろう。
細かな所まで模様が彫られて、宝石が埋め込まれている。さぞかし高価な物だろう。
「琴岸。絶対壊すなよ。もし壊したら俺らの家が瞬間的に更地になるぞ。気を付けろよ」
「おい止めろよ。フリになっちまうだろ」
恐る恐る一歩一歩確実に歩く。目的地にたどり着くまでは緊張の糸を切ってはいけない。
直線に歩くだけなのに、この緊張とストレス。さすが庶民には分からない世界にいるだけはある。
等間隔に並ぶ絵画は全て美しく魅了される物で、所々立ち止まって眺めてしまう。高舘は絵の良さが分からないのか首を傾げている。人によって感性は違うが、この良さを感じ取れないのは、筋金入りの馬鹿であろう。
「あ、この壺超高そう!絵とか興味ねぇけど、壺なら興味でそうだわ」
向日葵の絵画が見えてきた頃、廊下の曲がり角の前に超高そうな綺麗な壺が飾ってあるのだが、フラグになるから近づかないでほしい。確実にアニメや漫画だと割ってしまう展開が訪れる。
「すっげぇ~。一家に一個欲しいよな~こんな壺~」
離れろ!離れてくれ!!
「ま、いいか。しくじって割る前に早く部屋に行っちまうか」
胸を撫で下ろし、安堵の溜息を漏らす。よし、フラグ回収にはならなくて一安心だ。
「この曲がり角だよな?よ~しどんな部屋か拝見させてもらおっとっとっとぉぉぉぉいいいいい!!」
何故か廊下に捨てられていたバナナの皮に足を滑らせ、すってんころりんあら大変。腰が壺に直撃して割れてしまったではありませんか。口をあんぐり開けて体が硬直してしまう俺をよそに、半泣きになりながら逃走する高舘。俺を守るって言った奴だれだよ!!
どうするんだよコレ。確実に俺が犯人になって破産するやつじゃないかよ。
「凄い音が聞こえたんですけど、どうし・・・・・ま・・・・・・・・」
「せ、せせ先輩違うんです。俺じゃないんです。高舘が!高舘が!」
片手に明日着るであろう服を抱えた先輩が、ワナワナと怒りを煮えたぎらせながら俺の肩に手を置く。
「弁償してもらいますよ?わかってますよね?」
気が遠くなって行く。きっとうん百万するんだろうな・・・
「え?こんな事で弁償なしにしてくれるんですか?」
「あぁ」
今俺はメイドの服を着て台の上で女豹のポーズ中だ。恥ずかしいが家を潰されるよりはマシと考えた結果こうなってしまった。