表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
工・商業科の女子に立場は無い!  作者: ヤマトの山羊
3/30

たった1人の親友

 何で俺の靴下が篠山さんの口の中に!?今日会ったばかりの女みたいな男の靴下を、クラスの目を気にせず噛み続けるその根性はどこから湧き出てるんだ!?

 「篠山さん。返してくれますかね?」

 「・・・・・・・・やだ。代わりに私の靴下を履いて。てか履き続けて」

 え、履き続けて?

 恐る恐る自分の足元を覗くと、ピンク色のハートマークがプリントされた靴下を履いていた。

 もはや手品じゃねぇか。


 これ以上言うと何かやられそうなので、黙って先生の話を聞くことにしたのであった。



 終わりのチャイムが鳴り、下校の準備を進めていると、同じクラスの男が小声で話しかけてきた。

 「すいません。工業科の高舘たかたちって人が、琴岸を呼べって言ってるんですが。知り合いですか?」

 高舘とは一体誰だろう。何か聞いたことある気がする。

 喉の奥に小骨がささった様な違和感を感じながら廊下に出ると、一際身長の高い若干茶髪のチャラ男が、壁にもたれ掛って片足を揺らしている。目つきも鋭く眉毛も薄い。

 「あっ」

 話しかける前に向こう側が気付き、ゆっくり歩み寄って来る。超怖いんですけど。登校初日からパシリコースっすか?

 緊張と恐怖で体を震わせていると、高舘は片手を伸ばして俺の肩に手を置く。殴られない様に顔に手を覆うと、それを阻止しようと腕を掴まれる。何がしたいんだ?殴るならすぐ殴ってくれ!

 「お前やっぱり変わって無いのな」

 あれ?この声昔に聞いたことある様な・・・でも昔だから声も低くなってるし、気のせいの可能性も・・・

 もう一度ちゃんと顔を見てみると、紛れもなく昔の面影を残したままの・・・・・・

 「親友の顔も忘れたのか?こーすけだよ。高舘たかたち 康介こうすけ。10年も経ったのに変わって無いな。ハハハッ女らしくなったな~。怯えてる顔が相変わらずキャワイイナァァァ!!!」

 久しぶりの再会でテンションが狂ってるが、紛れもなく唯一の話し相手の高舘だ。10年前に突然引っ越しして目の前から消えちゃった高舘だ。誰が何を言おうが高舘だ。

 「ひ・・・・・久しぶり!!!」

 生き別れた母親に会った気分だ。たった一人の親友に会え、感極まって抱き付いてしまったがどうでもいい。涙で顔がぐしゃぐしゃになった俺の姿を見た高舘は、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 心がぽわぽわして気持ちよくなった俺は、高舘に身を預ける事にした。しかし違和感が体に触れる。それは何か、硬い棒状の何かだ。あれ?何だこれ。

 そっと指でなぞる様に触ってみると、さっきまで優しい笑みを浮かべていた高舘が「おふぅっ!」と体を仰け反らせる。

 「高舘・・・・・もしかして・・・・」

 「ん?いや、ライターだよ。スパイ○ーマンのライターだよ。うん」

 そっかならいいや。高舘が俺をいやらしい目で見てる訳ないもんね!でも、タバコ何て体に悪すぎる。止めさせなければいけないな。だって親友なんだもん!

 「ライター出して!」

 「ばっ///無理に決まってるだろ。俺はた・・タバ・・タタバコが無かったら禁断症状で体中ブツブツになるんだよ!だから嫌だ」

 「ダメ!もし体を壊したらどうするんだよ!ホラ、僕の手の平に出して!」

 「て・・手の平に?おま・・・・・・・・・んふっ。いいぃや駄目だ!!」

 「往生際の悪いやつめ。観念しろ!」

 手を伸ばしそのライターを握る。

 「おふあぁ!!!!!!」

 白目にしながら高舘は地面に倒れこむ。

 俺は触った状態の手のまま固まる。

 信じたくはないが明らかに触った感触がライターでは無かった。この感触、この大きさ、今の反応。うん。親友は俺の事を下心ありで見てたって事になる。その事実は俺の心に壮絶なダメージが与えられることになる。

 悲しさと怒りに震えていると、高舘は小さな声で囁く。

 「ごめん。あまりにも可愛くなってたから。でも、俺は琴岸の事を親友だと・・・」

 「高舘のバカッ!知らない!」

 今の騒ぎで集まってきた野次馬どもにぶつかりながら、まだ知らない校舎の廊下を走り抜ける。

 

 親友だと思ってたのに・・・・・




 「琴岸・・・・うぅぅ・・・」

 あまりにも可愛くなった姿を見て、親友の俺はあろうことかドキドキしてしまった。

 親友失格。ただただその言葉が頭に突き刺さる。

 感動の再会がこんな形で失敗するとは・・・・


 「残念だったね」

 地面にうずくまる俺の頭上から冷めた声が響く。

 「私が力になろう。生憎私もあの子を好いていてね。今だけ力を貸そうじゃないか」

 声の主を確認するために顔を上げると、今度は背後から同じ声の主が現れる。

 「私の名前は篠山 詩緒。よろしくね」

 握手をしようとする手には、何の仕掛けもないハンカチが乗っている。

 「こう見えてもマジックが得意なんだ」

 そう言うと彼女はハンカチを握りしめ、数秒経つとそこには靴下が一足手のひらに乗っている。

 「いいでしょ?これ、私の宝物なんだ~」

 にこやかに靴下を頬張る彼女は、正直魅力的だった。


 これが俺と彼女のファーストコンタクト。後の琴岸ファンクラブの会長と副会長を務める訳だが、これはまだ先の話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ