純情な乙女(腐女子)
「こ、琴岸!?」
意外と厚い胸板にすっぽりと収まるほど、俺の体は細く小さい。そう実感する事0.5秒、今俺が置かれている状況を即座に理解し高舘から離れる。
「ごめん!大丈夫?」
「いや、俺は大丈夫だけど・・・・琴岸はどこか痛めてないか?」
「大丈夫・・・・・・・・ありがと」
「おぅ。こちらこそ」
なんともたまらん空気になり、もじもじするお互いに我慢の限界が来たのか、腐女子二人組が赤面しながら間に割って入って来た。
「す、すすストーーップ!良い雰囲気禁止!こ、ここはそう言う場所じゃありません!!」
もしかしてもしかすると、この二人は腐女子とか言いながら調子をこいて下ネタを放り込むけど、実際にそう言う雰囲気に遭遇すると乙女心が出ちゃって顔がポッとしちゃう感じですか!?これは萌えポイントだぞぉ~。琴岸的にポイント高いです。
「むふふ・・・・・・・・拙者何かに目覚めそうですぞぉ」
おいこのキモ豚、恍惚な表情を浮かべながら俺と高舘を交互に見んな。っと言うか高舘こういう時って満更じゃ無いって事は、あっち側の人間って事なのか!?
「そ~と決まったらBL本を買占めに参るでござるか!!美雪殿!御一行していただけますか!?」ギュッ
「あぅ・・・」
な、なんだよ今日は!!今日はそんな感じの日なのか!?
「あ、すまないでござる。お手を汚してしまって申し訳ないでござる」
伏し目がちに謝る豚に腐女子の美雪さんは顔を赤くして固まっている。初々しすぎてこっちまで恥ずかしくなって来ちゃうよ。
片方の腐女子Bも顔を赤くして固まっているが、どこか浮かない顔をしている。そしてどこか悲しみやら怒りを感じさせるオーラを放っている。その正体は誰でも解るであろう。嫉妬と羨ましさから来ているものだと。
「・・・・れて」
肩を震わせながら何かを呟いている。
「は・・・・・て」
ゆっくりと顔を上げた腐女子Bの目には涙が浮かんでいる。これはヤバい、ヒステリックになる予兆だ。
「二人とも離れて!!ずるいよ美雪!!翼も何手を握ってるのよ!!」
あ、こいつ翼って言うんだ。意外です。って今はそんな事を思ってる場合じゃない!この一触即発の険悪な空気をどうにかしないと。
高舘に目を送って助けを求めるが生憎高舘はポンコツだ。目の前の出来事に困惑し、脳内キャパオーバーで目を点にして気絶している。
つまり今の状況を打破するには俺の頑張り一つって事か!?
よし、心してかかれ琴岸!
一歩踏み出し三人の輪に入ろうとした時だった。翼先輩が手を伸ばし腐女子Bの手を握ったのだ。
「由香殿すまなかったでござる。由香殿も一緒にBL本を買いに行こうであります!」
この悪気のない純粋無垢な笑顔。翼・・・・中々やりおる!
「うん・・・・・・・・一緒に行く」
「じゃあ、琴岸殿と高舘殿は留守番しててくれますかね?これから買い出しに行ってまいりますので」
「分かりました」
ん?高舘?
「美雪~どの本買おっか♪」
「迷っちゃうけど~やっぱり学園舞踏団シリーズかな~?」
「じゃあ拙者はそれを買ってみる事にするでござる!!」
キャッキャウフフフッ
呆然とする俺をよそに、三人は廊下の奥へとイチャつきながら消えて行き、高舘は朗らかな顔でそれを見送っていた。