決着
先輩の上達の早さは凄いとしか言い様が無かった。もしかしたら、レースゲームの素質があるのかもしれない。今度来た時は、頭文字Bか湾岸グッドモーニングでも極めて先輩に勝負を持ち込むか。
かれこれ30分マルオカートをしているが、今の所3勝2敗でギリギリ勝っている。最初の2勝は勝てたのだが、先輩はコツを掴んだのか、ドリフトで内側から抜いていく。まるで何百回もやりこんだかの様なエグイ角度からの攻め。到底自分はマネできない。
しかし、このままだと引き分けになってしまう。それだけは避けたい。
己のプライドを賭けた最終対決が今か今かと待ちわびている中、たまに感じる後ろからの視線に身震いをする。何かずっと見られてる気がするのは気のせいなのか?
「おっと!よそ見は駄目だぜぇ、琴岸さんよぉ!!!」
気が付くとレースはスタートしていた。スタートダッシュを逃し、先輩との距離が離れていく。ただでさえ上達しているのに、このままだと確実に負けてしまう。
ここは少しズルいが、小癪な手を使わせてもらおう。
「先輩...すいません!!」
「ん?何だ、っておぃ!?今のは一体何だ?いつの間に俺の前に来てやがるぅ!」
あまりの驚きと興奮で口調が変わってきているが、そんなのに今構っていられない。ショートカットをバッチリきめたからには、このまま一位を独走して先輩に勝ってやる!
「クソ!この俺がもう負けるなんざ許されない!父さんに顔向けできない!」
興奮と苛立ちで頭に血が上り、先輩の顔が真っ赤に染まっていく。そんなに勝ち負けに拘る人だとは思いもよらなかった。きっとエリートの宿命だろう。
「負けてたまるか...畜生がぁぁぁぁぁああああああ!!」
「先輩!声が大きいですって....ぅお!?」
最後のアイテムボックスで驚異のアイテムを手に入れた先輩は、俺目掛けてアイテムを乱射し始める。ぶつかると今まで取ってきたコインが失われ、その場でぐるぐる回転してしまう。それを避けるために今まで残していたバナナを盾にゴールまで急ぐ。
「当たれ!当たれよぉ!何で....何でだよぉぉおおお!!」
無情にも先輩は、あまりにもアイテムを俺に当てることに必死でカーブを失敗し、壁に突っ掛かってしまった。
少し可哀想だが勝負は勝負。俺にもプライドがあるため手は抜かない。
ゴールの文字が画面に映し出され、勝敗はあっさりついた。項垂れる先輩の顔を覗き見ると、半泣きになっている。
「大丈夫ですか?」
ポケットからハンカチを取り出し先輩の目元を拭う。
「すまないな琴岸。あまりにも熱中し過ぎてみっともない姿を晒してしまった。本当にすまなかった」
深々と頭を下げる先輩の頭を優しく撫で、一件落着となった。
その頃私達は頭を撫でる琴岸の姿を見て和んでいた。
(可愛いよ琴岸...ハァハァ....)
(私も撫で撫でして欲しい...ハァ...ハァ...)
「ママ~あのひとたち何かへん~」
「こらっ!見ちゃいけません!」
今、私達には誰の声も届かない。