初女装
何事もなく無事に帰宅し、即行布団に潜りこむ。ふかふかの布団に包まれるこの瞬間は、天に昇る様な気持ちよさだ。
明日の女装に不安を抱えつつ、万全の体制を整えるために瞼を閉じ、眠る準備に取り掛かる。しかし、不安からか中々睡魔が襲ってこない。ここは一先ずコーヒーを飲んで落ち着こう。
階段を降りると、何やらリビングから光が漏れ、話し声が聞こえる。きっと両親が世間話をしているのだろう。
気にせずドアに手をかけた時、両親が話している内容が耳に届く。その話の内容は決して雰囲気から察すると、良いものでは無さそうだ。きっと今後の学校生活や、日頃の引きこもり具合について話しているのだろう。でも、それならもう慣れっこだ。慣れっこなのに何故足が動かない?今まで以上に酷い事を言われているのではないか?そう思っているからなのか?
そっとドアに耳をあてる。
「あの子本当に大丈夫かしら・・・・またあの出来事が起こるんじゃないかと思うと怖いのよ」
「俺達が信じなくてどうするんだ。しかし、また奏汰が傷つくとなると、俺はもう見てられない。流石に俺の口からは言えないが・・・・・」
「嫌よ。私は言わないわ。さらにあの子が傷つく事になっちゃうじゃない。でも、これ以上傷つかないためにも言うべきなのかしら」
「・・・・・・・・・・」
記憶の奥に仕舞い込んだ物がまた蘇りそうになり、必死に押し留める。
駄目だ。無理矢理寝よう。これ以上起きていると、どうにかなってしまいそうだ。
次の日
少し寝不足のまま授業を受けるが、どうしてもうとうとしてしまう。握るペンがうとうとするたびに、ノートを汚くしていく。
それでも頑張ってノートに問題を解いている最中、後ろに座る危険人物篠山さんが、俺の座る椅子を下からこつこつ蹴り始める。イライラを抑えながら問題を解くが、蹴る威力が徐々に強くなっていく。そろそろ怒っていい頃だろうか?
ゆっくり振り向き注意をしようと顔を上げると、篠山さんは満面の笑みで手紙を差し出す。これは受け取った方がいいのか?
「今見た方がいいの?」
「・・・・・・」コクリ
無言で頷くがこの満面の笑み。絶対何かある。
恐る恐る四つ折りされた手紙を開く。
「え・・・・・」
待ち合わせ場所のショッピングセンターの前で、慣れない恰好に慣れないメイクでもじもじしていると、目の前にリムジンが停車する。やっぱり金持ちは登場のしかたが違うな~とか思いつつも、自分の今の恰好は相手が喜んでくれる程可愛いのかが気になる。それより、俺は先輩に釣り合うのだろうか?
「男のくせに何考えてるんだ俺は・・・・」
ドアが開き、堂々たる姿で現れる先輩は学校の先輩とは全然違った。男からしたら完全に嫉妬するレベルだ。
「あ、あのっ先輩!」
「ん?どうし・・・・・・・ゴファッ」
「どうですかね?初めてのメイクと女装なので、不安なんですが・・・・・・・聞いてますか?先輩?」
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
先輩が壊れた!!