ゴールデンウイーク 前日
俺、讃岐 八彦はお気に入りの通勤用ママチャリにまたがり、夜の町を爆走していた。特にどこか目的地があった訳ではない。
強いて言うならば、このモヤモヤした気持ちを振り払いたかった。
明日からゴールデンウイーク。四連休だ。せっかくの長期連休だか、全然嬉しくない。
理由としてはあまり言いたくない話だが、俺には普段から頻繁に遊んだり、話をしたりする人がいない。はっきり言えば友達がいないのだ。
なので長期の休みは暇を持て余してしまう。まぁ、休みじゃなくても暇なのだけれど。
こんなのはいつもの事だからいいのだけど、(やっぱりよくはない)今回一番のモヤモヤの原因はこれだ。
俺には幼なじみが一人いる。バカでチビの同じ高校に通う同級生の女の子なのだが、暇な時はよく家に押しかけたり、押しかけられたりしている。
俺はめったに遊びの誘いを持ちかけたりしないのだが、長期連休をひとりで寂しく、何もなく過ごすのはやっぱり勿体無い。なので一大決心。
幼なじみの天野 衣にゴールデンウイーク一緒に遊ぼうぜ、っと声かけたのだ。
まぁ、そんな一大決心は簡単に打ち砕かれたのだが。
「ごめーん。ゴールデンウイーク他の子と遊ぶ約束とか家族と一緒に旅行に行ったりする予定があるだよぉ~」
背が低く、幼い顔立ちで肩にかかるくらいの髪をツイテールにしている学生服姿の衣。片目を閉じてウィンクをし、ぺろっと舌を出して両手を胸の前で合わせてごめんねのポーズ。
くっ、不覚にもこいつを可愛いと思ってしまった。まぁ、見た目はいい方だからな。おつむの方は残念だが。
まぁ、用事があるならしょうがないか。
俺が遊ぶの諦めて口を開こうとしたとき、それよりも先に衣が口を開き、言った。
このセリフ……。このセリフが問題だった。このセリフのせいで俺はモヤモヤに支配され、病んだ気を紛らわすために町内自転車大爆走を行うハメになったのだ。
「本当は私以外に友達がまったくいないやっちゃんと遊んであげたいんたけどね」
グサッ!
何かが心に突き刺さった気がした。
「でも、やっちゃんも高校二年生になったんだから友達の一人くらい新しく作りなよぉ。さすがにヤバいよ? そんなんじゃあ、一生一人ぼっちの孤独人生になっちゃうよ」
グサッ、グサッ!
さらに何かが突き刺さった気がした。
「この分だと彼女なんて絶対出来ないよね。でも大丈夫。そのときは長年のよしみとして、ちゃんと面倒みてあげるからさ。もう、やっちゃんはいつまで経ってもお子ちゃまだね」
グサッ、グサッ、グサッ、グサッ……!
滅多刺しだ。もう我慢できない。俺は叫んだ。
「やめろーっ! 言い過ぎだろ! お前、俺が友達いなくて一人ぼっちのこと気にしてるの知ってるだろ!」
そう。俺は気にしていた。凄く気にしていた。気にし過ぎて胃潰瘍になり、入院したこともあるほどだ。あの時は確か二週間くらい休んだが、誰もお見舞いに来てくれなかった……。
俺の目には涙が浮かんでいた。まさか高校生にもなって泣かされてしまった。しかも女子に。幼なじみに。
衣も俺の顔を見て、やっと自分が言い過ぎことに気づいたみたいだか、時すでに遅し。
衣が何か言いかけたが、無視して俺は猛ダッシュ。自分の家まで駆けて行った。学校の帰り道、差ほど家まで距離はない。
ちなみに衣の家は俺の家の隣にある。なので、家に逃げ帰ったところであまり意味がない。そんなことは十分承知している。
俺は家に帰った後、庭に止めてある愛車の通勤用ママチャリにまたがった。そして、全力てペダルをこぎ、玄関を飛び出した。
気持ちを落ち着けるため、愛車を走らせながら大きな声で叫んだ。
「ちっきしょーーーっっ!!」
顔を白く塗った着物姿の某男性お笑い芸人風に甲高い声で叫んだ。っていうか、どちらかといえば悔しいですっ!
そんな感じで二時間ばかり町内を爆走し、今現在に至るわけだ。
以上モヤモヤの原因話終わり。
ハァ、ハァ……。別に興奮しているわけじゃない。ただ単に疲れたのだ。
もう辺りが薄暗い。衣と学校を出たのが四時半くらいだから、帰り道の時間を含めれば、今7時くらいだろうか。
縦横無尽に運転していたら、いつの間にか自宅裏にある山に来てしまっていた。
もっと遠くまで行ったつもりだったけど、距離にして一キロもないくらいだ。
裏山の入口付近に愛車を止め、息を切らしながら草原の上に大の字で倒れ込んだ。
まだ呼吸が整わない。全力でこぎすぎたか? それとも大声で叫びまくっていたからかな。
とりあえず、しばらくここで休んでいこう。
正直、家はすぐそこなのだが優しく撫でるように吹いている風があまりにも心地いいので。
草原に寝転って夜の月を眺めた。どうやら今日は満月のようだ。なんだか心地よさで急にまぶたが重くなってきた。その重さに耐えられず、俺は目を閉じ、そのまま眠りについてしまった。