ゼロの研究
「あ……」
綺麗だ、と思った。
廃虚の影にひっそりと咲いていた。
もう咲かないとゼロも言っていたのに。
珍しい物を見たから瓦礫の山を全速力で駆け戻った。早くゼロに教えなくちゃいけない。
きっとゼロは驚くだろう。
もう少し…
もう少しで研究所だ……
「ゼロ!花!花だよ!!」
「え!?」
小さいロケットの大部分を占める実験室。
陰気なムードに合わない輝く金の髪のゼロは、小さくて役に立たなさそうな丸眼鏡を鼻頭に乗せたままこっちを見た。
「花!ゼロ、花だよ!」
何やら動き回る機材にどつかれながらもゼロはうろん気な顔を崩さない。
ややあって堅苦しく口を開いた。
「この土地はあと百年は植物が生えないはずだ……」
「でっ…でも……!」
「サクィア」
見たんだもん。
そう言おうとしたが、やめた。ゼロは研究絡みになると自分の様な素人の意見は雑音と一緒だから。
ゼロは、不機嫌そうに耳をいじるながら詰まれたノートの山から無造作に一冊のノートを引き抜いた。
タイトルは"地球 NO.52"。ゼロが地球に来てまとめた物だった。
「地球。100年前の核戦争で地上の物は全て崩壊した。」
眼鏡越しに灰色の瞳は形容し難い程雑な文字を追う。
「放射線の濃度は地球基準で言うと、生物の存在できない程濃い。特定の植物以外は以降100年は生えない」
ぱたむ。
軽い音をたてて閉じたノートを崩れきった山に放るとゼロは言った。
「サクィア、ありえない」
まるで自分の考えは100%間違ってない、とでも言いたげな言葉にむっとした。
確かにゼロは頭の良い研究者だ。
だけど花を見た。
それも事実なんだよ、とゼロに大声で言ってやりたい気分だ。
この話はおしまい。
そう言ってゼロは、研究所の高く積まれた本の隙間を慣れた風に通り抜けて
扉の向こうに消えてしまった。
瓦礫の向こうに白い花を見た。
けれどそれはその日の夢の中での話で、
あの花はもう一度見に行った時には消えていた。
確かに見た、白い花。
荒廃した地球に咲いた一輪の花は幻覚だったのだろうか。
もし、本当にもしも、風すら吹かないこの地に花が咲いていたのだとしたら
僕たちは人間という生き物に会えるかな。
ゼロ、君はもし会ったら何を聞く?
何故原子爆弾を使ったのか、聞くのかい?
それとも、何故自分がここに来たのか聞くの?
そんな事を考えながら僕は空を見上げた。
そこには青く綺麗な地球の空があって、薄く雲が膜をはっている。
いつか
いつか僕たちの世界もこうなるよね。
ねぇ、ゼロ?
ふと蘇ったのは僕の造られたゼロの故郷。
その淀んだ空気の向こうの育ち過ぎた科学が見えた。
「こっちの方がよっぽど空気が綺麗だよ」
一つ深呼吸して、ゼロの宇宙船へ走った。
地球はどうなっちゃうのかなぁ、と思いました。核爆弾が競争みたいに造られ、実験されている今。先の戦争を体験していない私には文などでしか情報は得られませんが、幼い頃から平和教育をうける私にとっては絶対に体験したくないものです。