開
8日までに上げようとしたらぎりぎりアウトでした!悔しいです!
……すみません。
夏休みに入って4日。結局俺は朝妻との約束通り、学校の校門前に立っていた。朝妻からは付き合ってほしいところがあるとだけしか伝えられていないから、何をするのか、どこに行くのかさえもわからない。松野の話を聞いて断ろうか悩んだが、第一、朝妻の携帯番号も家の番号もないから断りようがなかった。
蝉の泣き声の中、待っていると向こうから朝妻がやって来る。
「お、おはよう」
一瞬、声がどもってしまった。朝妻の格好は白いワンピースに黒いスパッツ? みたいなものを履いていた。考えてみると朝妻の私服姿を見るのは初めてだ。前にコンビニに来たときも制服だったし。……何かデートみたいだと思ったのはここだけの秘密だ。
「おはよう。じゃあ行こう」
そんな俺にはお構い無しに歩いていく朝妻。別に悲しかねぇよ。朝妻と俺はただの友達だし……友達でいいんだよな?
「どうかした?」
「……あ、いや! 何でもない!」
俺は数メートル先を歩く朝妻を追いかけた。
「朝妻。どこに行くんだ?」
「知り合いの家」
「知り合いって誰だよ?」
「行けばわかる」
「……そりゃそうだろうけど」
歩き始めて30分。俺の住んでいる地区とは反対方向に進んでいるため、見たことのない町並みがあった。
住宅街を抜けると一面畑が広がった場所に出る。その中に真っ直ぐ続く道がある。俺は何も言わずその道を進む朝妻に続いて歩いた。別に本当は何か話したかったけど、特に話のネタもなく沈黙が続いてしまったため、話しかけるチャンスがなくなったわけじゃないぞ!!
不意に道の先に林が現れた。徐々に近付いていくと、それはただの林だけではなく、一軒の屋敷が佇んでいる。それは昔ながらの日本の家屋でしっかりとした塀に囲まれていた。
その屋敷の前に差し掛かると、朝妻の足が止まった。
「まさか、ここ?」
「ここ」
朝妻はそれだけ言うと大きな門を開けて入っていってしまう。ちょっと勝手に入っていいのか? インターホン押してからとか……。
「早く」
「あ、はい」
玄関を抜けると長い廊下に出る。
「知り合いの人は?」
「まだいない」
「待たなくていいのか?」
「そういうの気にしない人だから大丈夫」
朝妻といくつかの部屋を通りすぎ、連れてこられたのは四方を障子で囲まれた部屋だ。天井からは照明の紐がぶら下がっており、床は畳一面。それ以外には何もない簡素な部屋。だけどそこに踏み込んだ瞬間、背中を冷気が走るような感じが一瞬だけした。
「朝妻?」
気付くと朝妻は入ってきた障子を開けて廊下に出ている。呼び掛けても返事が返ってこない。
「佐倉君」
「な、何?」
やっと声を発したと思った瞬間、朝妻と目があった。いつも通りの無表情のはずなのに嫌な予感というかざわざわと胸騒ぎがする。
「私からこの障子を開けるまで、絶対に自分から障子を開けて部屋の外に出ないで」
「な、何で……?」
「大丈夫、ちゃんと後で出してあげるから」
「お、おい!?」
朝妻は俺の言葉を待たず障子をピシャリと閉めてしまう。急いで追いかけようと障子に手をかけてた。
「っ――――――――!?」
しかし障子に触れた瞬間、反射的に手を離してしまう。もちろんさっき朝妻に障子を開けるなと忠告をされたってことも頭の片隅にあったからかもしれない。だけどそれ以上に障子に触れたとき身体中からビッ――!!というような警報がなったからだ。触るな、と本能が騒いでいる。
どうしたらいいんだよ……。ひとまず出るのを諦めた俺は辺りを見渡して途方に暮れる。後でってどんだけ後なんだ? この部屋には本当に何もない。
そこでふと携帯を持っていたことを思い出した。時間も確認できるし、暇潰しにゲームでもやろうと思いポケットから取り出す。
「え」
思わず携帯の画面を凝視してしまう。だって携帯の日時が表示される部分だけバグっている。123456789と目まぐるしくまるでループのように変わる数字。
それをそのまま見ていたら気が狂いそうで、俺は携帯をしまった。
朝妻は何が目的なんだよ……。一般人の俺でもこの部屋が異常なのがわかる。さっきから首がチリチリというような違和感がある。まるで誰かが俺の首を絞め殺そうと狙っているような……そんな視線が向けられているような気がしてならない。
なんとなく、障子の近くにいたくなくて部屋の中央で体育座りをした。
それから30分……いや、10分。正確な時間はわからないがそれくらいたった頃。
「佐倉君?」
「っ! 朝妻!?」
「もう出てきてもいいよ」
朝妻が戻ってきた。どうやら全部終わったらしい。結局朝妻が何をしたかったのかよくわからなかったが、とにかくこの部屋から出たかった。
俺は障子の方へ向かい手を伸ばした。が、無意識に手が止まってしまう。
「……どうしたの?」
不思議そうな朝妻の声が聴こえる。
簡単なことだ。ただ障子を開けて外に出るだけ……。たったそれだけのことだ……。
けどわかった。今障子の向こうにいるのは朝妻じゃない。
「俺からは開けちゃいけないって朝妻が言ったんだろ」
そう言って俺は障子からまた距離をとる。瞬間、チッと大きな舌打ちが向こうからした。
開けなくてよかったと一安心したときだった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
「っ――!?」
触れていないのに障子がガタガタと揺れ出す。それだけで俺のSAN値がごっそり持っていかれた。頭の血がサアァと引いていくのが感じられる。頭が真っ白になって呼吸も乱れる。……今なら貧血で倒れられる自信があるかも。
俺はまた部屋の中央に依って自分の手を握る。俺の身体も恐怖に呑み込まれていて押さえてないと気が狂って、部屋を飛び出してしまいそうだったからだ。
「はっ、はっ、はっ――っ!」
次の瞬間。今まで入ってきた方の障子しか揺れていなかったのに、全ての障子が揺れ始める。そして単調に上下に揺れていた障子が力強く叩かれ始めた。
ダァンッ!! ダァンッ!!
単調に上下に揺れていた障子が力強く叩かれる。四方八方から音に攻められ、いつ破られるかという恐怖に上手く息を吸えない。現状に脳がついていけない。
『ユ゛……ル…サァナ…………………イ゛』
そして俺は意識を手放した。