2-2 戦斧-GreatAxe-
今日の仕入れは結構遅くなってしまった。
王都へ向かう道を急ぐ。しかしすっかり夜になってしまった。
「マール、心配してるだろうなぁ・・・」
ふとあの可愛い顔を思い浮かべる。
「心配で心配でいたたまれないッって顔になってたらいいなぁ・・・」
ふと邪推する。こらこら、とにかく急がねば。
そのときだった。
前方に夜目の光る集団。こんな夜にこちらのたいまつで夜目が光るのは
だいたいロクな集団ではない。
慌てて道を変えようとする。夜目の集団は12個、つまり6人か6匹なのだが、
明らかにこちらに着いてくる。
「オオカミとかじゃないよね・・あの夜目の高さ・・・コボルドかしら」
コボルドは小さな小鬼である。臆病で雑魚に近い。
しかしこちらは1人でしかも夜である。夜目の利くコボルド6匹ではいかにも分が悪い。
「逃げるが勝ち・・なんだけど」
だんだん小鬼の集団との距離が縮まる。駆け足の息も少し切れてきてしまった。
「まずい・・・一旦戦うしかないかも」
手には見本でもらった大きい戦斧。ファンがいくら武器を知ってるからと言って、
戦斧を振り回して撃退できるかどうかは難しいかもしれない。
「いちかばちか・・」
ファンはいきなり立ち止まって、懐から油つぼのビンを取り出す。
小鬼は少し距離を取ってこちらを窺っているようだ。
油つぼのビンを戦斧の刃にたらす。それからたいまつの火をつけた。
斧の刃が火で燃える。そのまま気合の声を上げてコボルドの集団につっこんでいった。
いきなり奇声を上げられて燃える斧が振り回された小鬼。
クモの子を散らすようにてんでばらばらに逃げていく。
「ふぅ・・・やれやれ・・・」
ファンはいちかばちかの賭けに買ったことに安堵する。
「・・・でもこの斧、買い取りになっちゃうよねぇ・・・さすがに」
少し落ち込む。でもいっか。命には替えられない。
そのまま王都に入り、自分の店に向かう。
「ただいま~・・・・あぁ?!」
店の扉を開けると、なんと、マールが隣の武器屋の娘を店に引っ張りこんで談笑してるでは
ないか!!
「わたしというものがありながら~~~!!!!!」
命からがら切り抜けてきたというのに、マールはわたしの心配もせずに女を引っ張り込んでた
のである。
「ちょ、ちょ、ちょっとまって!」
「なによ?!」
「ファンがコボルドらしい怪物に襲われてるからって知らせに来てくれたんだ。それで
慌てて王都守備隊に知らせに行って・・で、今帰って来たところなんだけど・・・」
そういえば、帰り道の途中で3人の王都守備隊に話しかけられたような・・・
「で、待ってる間に戦斧について調べてたんだよ」
「・・・・」
「すごいねぇ、戦斧。安いし、長いから距離をとりやすいし、敵の武器も払って長槍みたい
に突くことも出来るし。欠点は、体力の無い人が扱いづらいことと盾がもてなくなること
かなぁ?」
「・・・・」
「そう言えばさっき、なんて言って入ってきたの?」
「・・・・・」
「顔真っ赤だけど・・大丈夫?」
「・・・・・」