5-2 ソードブレイカー-Sword Breaker-
人間の雌の臭いが巣のある洞窟の奥から臭ってくる。
コボルドは異変に気づいてお互いに奇声を発する。
自分の巣のある洞窟の奥から明らかに人間の雌と
わかる臭いが漂ってくるのである。
冒険者だろうか?しかし1匹・・・?
今日の狩りは不作だった。人間の雌肉は十分過ぎるほどの
ご馳走だ。臭いからして人間は1匹に違いない。
コボルドは歓喜の声をあげる。
1匹ならば問題ない。何人かいればやられてしまうかも
しれないが、1匹ならば、こちらは十分過ぎるほど仲間がいる。
ギャギャッギギギ
仲間の1匹が再び歓喜の声をあげる。
仲間も人間が1匹だということを確信したのだろう。
ゆっくり追い詰めていくように、獲物を逃さないように・・
洞窟の奥にある自分の巣に歩を進める。
手にある小剣は錆びついているが、人間の雌1匹を仕留める
には十分な武器だ。
夜目を凝らす。人間はまだ見えない。
仲間は逃さないように自然と隊列を組んでいる。
アリ1匹逃さない。
―そのときだった。
ギャアギャアギギギャッ
仲間の1人が奇声をあげた。
そんなに喜ばなくてもいいだろうのに。
狩りはまだこれからだ。気が早すぎるだろう。
そう先頭のコボルドが思ったとき。
その声は歓喜の声ではなく悲鳴だったのだ。
入り口を入ってしばらく進んだ地点で一番後ろにいた仲間が
襲われている。
見れば、ギザギザの刀を持った2刀流の男が仲間を後ろから
襲っているではないか。
仲間がいたのか!?
仲間があっという間に1匹、また1匹と倒されていく。
男が狭い洞窟部分で仲間に次々と剣を振るっているのだ。
ギザギザの剣で仲間の小剣を受け止め、もう片方の長剣で
次々と仲間の命を奪っていく。奥にいる人間の雌に気を
取られていたぶん、仲間は対応し切れなかったようだ。
あっという間に4,5匹の仲間が打ち倒されてしまう。
頭の中から人間の雌のことなどすっかり抜け落ちてしまった
コボルド。
敵意をむき出しに仲間の命を奪った黒尽くめの男を
見る。あのギザギザの剣で受け止めて、時には錆びた小剣を
折ったりしているのだろう。
あのギザギザの刃を持つ剣-Sword Breaker-・・もちろん
コボルドたちは名さえ知らないだろうが・・をなんとかすれば
仲間はまだ10匹はいる。1対10なら勝てるだろう。
コボルドは密集して男に対峙しようとする。態勢を立て直して
男を数で押し込もうと考えていた。
すっかり存在を忘れ去られていたファンがコボルドの集団の
異変に気づく。見ればコボルドたちはこちらに意識がないようだ。
「チャンス・・・!」
手に短剣を握りしめて、ファンは入り口まで走りきれるか
考えていた。コボルドたちの集団の中を走り抜けるのか
それとも後ろから奇襲して何匹かに斬りつけるのか。
決断が迫られていた。