3-4 騎士槍-Lance-
その日はてんてこまいの1日だった。
1日の始まりはあの歩兵隊隊長アリュールの来訪で始まる。
「ファン、いるか?」
「はいいいいいいいい」
昼寝をしていたマールに悪戯をしていたファンは慌てて奥から飛んで行った。
「騎士槍は・・置いてないか?」
「騎士槍・・・ですか」
「うむ。こたびの御前試合で隣国の者と槍勝負することになったのでな」
「はぁ・・なるほど」
「陛下の目の前で無様な姿を晒すわけにはいかぬ。よって騎士槍を新調しに参った
というわけだ。お主の旦那は何しておる?」
旦那とはマールのことだろう。他から見たらそう見えるのだろうか。
「ま、マールなら昼寝を・・・」
真っ赤になりながらアリュールに言う。だんな・・旦那・・恥ずかしいけどうれしい。
「はぁい・・・あ、アリュール様、こんにちわ」
ぼさぼさになった髪をかきながら奥からやって来るマール。
「何かご用命の品物が・・?」
「おう。騎士槍だ。在庫はあるか?」
「騎士槍ですか・・騎士槍ならオーダーメイドで作るのがいいかもですね」
「ほう?槍は槍で変わらないだろう?」
「けれども騎士槍は馬という不安定な足場の上で、重い騎士槍をバランスよく
保持しなくてはなりません。自分の持ちやすい騎士槍が一番でしょう。
今から時間はございますか?」
「うむ・・時間なら多少ある。お主の言うとおりにしてみよう」
マールとアリュールが馬に跨ってどこかに駆けていく。
ファンはなんとなくぽつんととり残されている。
しかし、あいつめ・・・なんとなく不機嫌になったファンだった。
・・後日、アリュールは圧倒的な大差で騎士槍勝負を勝つ。
もちろんアリュール自身の技量もあっただろうが、大金をかけた騎士槍は
いつもの騎士槍の重さでなく、本当に手元で動かしやすい。
「あやつめ・・・」
アリュールは感心する。今まで武器にバランスがあるなどと考えたこともない。
それをいとも簡単に思いついたあの若者は大した武器商人である。
「礼を言わねばの・・」
アリュールはファンの店に向かう。いつの間にか店の常連になっていた。