3-2 歩兵槍-Pike-
大きな戦になれば、馬は大活躍する。
移動手段としての馬、攻撃道具としての軍馬は、戦には欠かせないものだ。
ただ馬といえども苦手なものがある。重装歩兵の持つ歩兵槍がそうだ。
「この物語、面白いね~」
マールがファンに笑顔で言う。
「なんて本?」
ファンがぱたぱたはたきをかけながらマールに聞く。
「ニホンのセンゴクジダイって本」
「ああ、それかぁ。槍兵が歩兵槍でヤリブスマとかいうファランクス形密集隊形を
組んでいるところをタケダの騎馬隊が蹴散らすところとか興奮するよね~?」
え?そこなの?なんかツボが違う・・・
「騎馬隊の隊長、ヤマガタマサカゲが馬上で長巻-Long Hilted Sword-を操って
歩兵槍の柄を切り落として難を逃れるところとか、もう、くぅぅぅって感じ!」
手に握りこぶしを作って熱く語るファン。
「衛士槍と歩兵槍で材質を異ならせているのはどうして?」
最近、とみに武器屋が板についてきているマール。
「ああ、それは衛士は城の守備隊でしょう?衛士は城を守る役割だからどんな敵
でも倒せるように硬い鋼で敵を突くために出来てる。歩兵は戦場で
刃を突きたてて騎馬隊から身を守ったり、敵の歩兵と小競り合いをして
どうしても犠牲が出るから、安価な鉄で作るのよ」
「そうなんだ~」
「歩兵槍は柄の端っこに金具をつけて足に固定するタイプもあるよ?
そうすれば騎馬騎士が踏み潰そうと思っても歩兵槍が固定されて
蹴散らされにくいからね」
「そっかぁ・・」
「そういえばこの間の仕入れで歩兵槍をやけに仕入れてきたわね・・
何かあてがあるの?」
「うーん・・・そろそろだと思うんだけど・・・」
と言うや否や1人の騎士がノックと共に店に入ってくる。
「いらっしゃいませ。アリュール様」
満面の笑みを浮かべるマール。
「うむ。物は見せてもらった。なかなかの代物だな」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「あるだけもらおうか」
「はい!」
そう言って歩兵槍を裏の倉庫に取りに向かう。
ファンはイマイチ要領を得ない。
「あの・・アリュール様。どうして新しい歩兵槍を注文に?
歩兵槍ならお城に腐るほどあると思うのですが・・・」
「なんだ、お主、知らないのか?この間マールが衛士槍を城に置いて行った
ときに歩兵槍を詳しく調べて、これよりも軽い素材で出来ると抜かし
おったからの。どんな物かと1つ見本をもらったら確かに軽い。
歩兵槍は軽いものが戦では重宝するからの」
なるほど・・・あいつめ。店の主人に黙ってそんな営業までしてるとは。
「まずは20本ですが・・よろしいですか?」
マールが箱を重そうに抱えて戻ってくる。
「構わぬ。礼を言わねばならないな」
「いえいえ。これからもご贔屓に~」
ファンはその光景をじっと眺める。いつかこの子・・いやこの若者が
冒険者として自分の元を旅立ってしまうことに言いようの無い寂しさを
感じながら。