ファンとマール
メルファスト皇帝暦8年。王都ノスカ。
1人の少年が冒険者になろうと故郷を旅立ち、王都に来た。
この大陸には蛮族や怪物の巣食う恐ろしい土地もあるという。
好奇心旺盛なこの少年は冒険者になって、名を上げ、
いつしか自分の武器屋を持ちたいと思っていた。
今日はその祝うべき初日なのだ。
「わぁ~すごいなぁ~」
王都は絢爛豪華で何もかも自分の村とは違っていた。
「まずは・・・武器屋さんからだよね・・」
まだ幼い顔立ちは青年というには若すぎる。
少年は逸る気持ちを抑えながら、武器屋を探した。
王都の北西の一画にはさまざまな武器屋が3,4軒あるらしい。
その方向に向かってみる。
武器屋は軒を連ねて3軒あった。
3軒とも見て回る。しかしどの店でも値段の高さに閉口してしまった。
「若造だと思って足元見てるんだろうなぁ・・」
しょんぼりしながら店を出る。
自分の手持ちにそう余裕があるわけではない。
無駄遣いは出来ないから、どの店も見るだけで終わっていた。
「あれ?なんだろう?このお店・・・」
少し落ち込みながら、古めかしい薄汚れた店を見る。
扉には「ファン=ファーレンのお店」と書かれていた。
武器や鎧、盾などの意匠が施してある。
「武器屋・・・さん?」
どの店でも値段の高さは目が飛び出る勢いだった。
ここもそうかも知れない。
けれども勢い込んでやってきた王都だ。
これでダメならもう少しお金を貯めて出直してくるしかない。
黒髪の少年マール=アークスカイはそっと扉を開いてみた。
ギギギ・・
古めかしい音を立てて開く扉。
「ごめんください~」
マールは中は武器屋の中に入った。
先ほどの武器屋とは段違いの暗さと不気味さ。至るところに埃とクモの巣が見受けられる。
「ごめんください~」
何度も来店の挨拶をする。誰も出てこない。
「お留守なのかな・・・」
店を空にして留守、というのはいかにも無用心だ。
「しょうがない・・帰ろう・・」
失意のうちに振り返るマール。そのときだった。
「あ!あ!まってまって!!まってえええ!」
どこかからか声が聞こえる。
「ああああああ、まってえええええええ」
女性の声。どこからだろう?
2,3分たっただろうか。奥からすごい勢いで若い女性が飛んでくる。
「お待たせしましたああああああああ」
女性は走ってきた勢いかだろうか、ぜいぜい言って息を切らしている。
「何をご用命でしょうかああああ?」
「ぶ、武器を・・」
「はいいいいいいい」
自分よりいくつか年上なのだろう。自分よりも少し背の高い青い髪の女性が
陳列された埃だらけの武器の中をチェックし始める。
「ここは・・・武器屋さん・・・ですよね?」
マールが女性に尋ねる。武器屋にしては武器の扱いがやけに粗雑すぎた。
「そうですよ~久しぶりのお客さんでうれしいです><」
久しぶり・・そりゃそうかも・・内心思うマール。
近くまで寄らなかったら武器屋とさえ気づかないほどの店だ。
「お客さんは冒険者さん?」
女性がマールに尋ねる。冒険者と騎士、剣士、衛士では使う武器が少し
異なってくるからだ。
「その予定なんですが・・・」
マールがか細い声で返答する。武器がなくては冒険もできない。
「・・・って」
女性が武器の吟味をやめ、マールをしげしげと眺める。
自分より幼い端正のとれた顔立ちだが衣服はどこかの村の布着。
「・・・・お客さん~初心者さん?」
女性が顔をしかめてマールを見つめる。
「はい。武器を買って冒険に出ようと・・・」
マールは正直に答える。夢にまで見た冒険だ。そしていつか自分の店を
持つという願いがある。
「名前は?」
「マール=アークスカイ・・です」
「マール。悪いこと言わないからやめときなさい」
女性は辛辣にマールに言う。
「ど、どうしてですか?僕、こう見えても剣技なら・・・」
「いや。剣技以前に、あなた冒険者としての心得がなってないわ」
「心得・・・?」
「うん、そう。だって何の準備もしてないでしょ?武器もそうだけど
防具も冒険用の道具も持ってないんじゃない?」
「あ、それは後で買おうと・・」
「順番が逆なのよ、マール。道具や防具を揃えてから武器を買うのが普通なの。
武器は落とすことや壊れることもあるけど、命は1つしかないじゃない?
このまま冒険なんか行ったらそのまま神様の元に行ってしまうわよ?」
「・・・そうかぁ・・・」
「そういう心得も分かっていない人に武器を売るわけにはいかないかな」
「解りました・・またお金を貯めて出直してきます・・」
ショックを受けて放心状態になるマール。
売ってあげたいのはやまやまだが、このままではこの少年は怪物の餌食になるだけだろう。
見れば自分好みの可愛い少年である。
「あ、ちょ、まって!」
マールを呼び止める。
「・・・はい」
しょんぼりした表情のマールが俯き加減で振り向く。
(やだ、可愛いじゃない)
ちょっと胸がきゅんとしてしまった。
「ね、行くあてはあるの?どこかで働いてお金作るつもり?」
「いえ、まだ何も決めてなくて・・・」
結構無謀な少年だった。
「あ、ならさ、わたしのところで働かない?」
「・・・え?」
「見てのとおりさ、まだ武器の整理もしてないんだ。この店は父さんの店だったんだけど
ついこの間死んじまって・・で、わたしが後を継いだんだけど、埃まみれで武器の整理も
出来てなくってさ。人手が欲しかったんだ」
「・・・・」
「いや、無理にとは言わないけど、王都につてがないなら住み込みで給料も出すから手伝って
欲しいな~なんて思ってさ」
「あ、はい。・・・でも僕なんかでいいんですか?」
「あ、いいっていいって。これも何かの縁だし、そもそもお客なんか当分来てないし。
とりあえず武器の整理をしていかなくっちゃって思ってて男手欲しかったしね」
笑顔で言う。
「わたしの名前はファン=ファーレン。ファンって呼んでね」
「ありがとうございます・・ファン」
目をキラキラさせてファンを見るマール。その瞳の輝きにまた胸がきゅんとしてしまう。
(やだ、可愛い・・ホント)
「とりあえず、奥の部屋・・・あ、わたしはここに住んでるんだけど、いろいろ案内するね!
明日からびしばし働いてもらうから!」
「はい!がんばります!」
マールとファンは奥の部屋に消えていく。
奇妙な2人の武器屋稼業が始まった。
新構想(というか、前日、夢見た内容で、下調べして書きました。)
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