1◆余分な頭
夏休みが終わり
新学期に入って間もない朝。
学校までの道を
トボトボ歩いている
高校生がいた。
めんどくせぇな…。
どうせガッコ行ったって
俺の話理解できる奴なんて
誰もいねぇし
ツマンネェ奴らに囲まれて
ツマンネェ授業聞く毎日が
また続くのかよ…。
うっぜぇな…。
案の定、教室へ入ると
楽しそうに笑い合う
同級生の群れ。
その中を、誰とも
挨拶を交わすことなく
窓際の列、自分の机まで
突っ切って歩く。
カタン…。
独り、席に座り
頬杖をつきながら
窓の外を眺める。
みんな、何ヘラヘラ
笑ってんだ?
こんなくだらねぇとこ
嬉しそうに通って、
バカみてぇ奴ら…。
しばらくして
朝のホームルームの後、
授業が始まる。
長い休みが明けて
まだ間もないせいか
生徒達はみな
授業の内容に
頭を切り替えるのに
時間がかかっているようだ。
自分も、いつにもまして
なんとなくぼーっと
前を眺めていると
あれ…。
俺の前に座ってるのって、
3人だったよな。
なんか、見えてる頭の数が
多いような…?
前に座っている生徒達の
背中ごし、
列の一番前あたり。
少し高い位置に
ひとつ多い頭が
一部だけ見えている。
・・・・・?
だが、そう気付いた瞬間
教師の
「お前ら、休みボケ
してないで集中しろ!
来年は受験生なんだぞ!」
という、喝をいれる大声に
ハッと気を取られ
次の瞬間には
ひとつ多かった頭は
消えていた。
ちっ…。
卒業まで、まだ1年半も
あんのかよ。
進学とかゼッテー
する気ねぇけど
就職なんか、
もっとうぜぇしな…。
それきり、
彼の思考はまた
彼の世界に戻り
先ほどの変な出来事は
もう思い出さなかった。
が、翌日。
再びなんとなく
前を眺めていると
昨日より少し
近い席のあたりに、
また余分な頭が見える。
…ったく誰だよ
自分の机、離れて来てる奴。
何遊んでんだよ…
そう思って
教室内を見渡してみるが
どうも、空席らしきものは
見当たらない。
あれ…?
じゃあ、あの頭は誰だ?
今までは、教室内の誰かが
前の奴にくだらない話でも
しに来ているんだろうと
あまり関心がなかったが
空席が無いことに
疑問が湧き
体をずらして、前のほうの
席をのぞいて見た。
・・・・・・・・・!?
なんと、そこに居たのは
黒く長い髪を
頭の周囲すべてに垂らし
覆われた顔が見えない、
不気味な女。
その女が、まるで机から
生えているかのように
上半身だけを机の上に
現して
その席に座っている奴、
息がかかるくらい
すぐ目の前にいる
生徒の顔を
顔を覆う髪の隙間から
ギロリとのぞかせた目で
じっと見つめている!
『…っあ゛ぁあああー!』
ガタガタッ!
驚いて、
声にならない声をあげ
思わず立ち上がる。
が、
「あ?どうしたー、急に。
夢でも見たかー?」
呑気な声をかけてきた
教師に、またも一瞬
気を取られ
視線を戻すと、もう女は
跡形もなく消えていた。
んだよ!今のは!
ドコ行ったんだよ!?
だが、あとに残ったのは
何が起きたかわからず
不思議そうに見る、
周りの生徒達の視線のみ。
あの不気味な女に
見つめられていたはずの
当の生徒でさえ、
不思議そうに振り返って
自分を見ている。
んだよ…。
俺にしか見えてなかった
っていうのか?
教室の隅から聞こえる
女子生徒達の
クスクスという笑い声に、
頭の中はまだ
動揺しているものの
『…すいません。
何でもナイす』
と平静を装い、着席する。
ちっ…。
何で俺が笑われてんだよ!
何だったんだよ、今の…。
その後も
ビクビクと怯えながら
ずっと前の席を
注意して見ていたが
その日は、もう何も
起きなかった。
だが、また翌日
今度は、前から3番目、
自分のすぐ前の席の
生徒の机に
あの不気味な女が現れた時
…もう、
その場には一瞬たりとも
居ることが出来なかった。
『うぁあああああ!』
教室から逃げ出し
どこをどう走ったか
やっとのことで
自宅まで逃げ帰る。
頭から毛布をかぶり
自分のベッドの上で
震えながら
頭からは、どうしても
あの女の視線が消えない。
…くっそ。何だってんだよ!
あのキモいヤツ、
なんで机なんかから
生えてくんだ!
毎日ひとつずつ
下がって来てんなら
明日は
俺の机の番じゃねぇか。
冗談じゃねっつの
ゼッテーもう行かねぇよ!
行けるかよ!あんなトコ!
その日は恐怖で
朝まで寝付けず、
オンラインゲームなどで
見知らぬ誰かと会話を続け
怖さを紛らわし、
朝になると
「風邪を引いた」と
家族にウソをつき
学校を休んだ。
が、仕事を持つ両親や
大学に通う姉が
次々に出ていってしまい、
家に独りきりで残るのは
恐怖だったので
仕方なく
外に出ることにした。
近所の公園には
明るい陽射しの中、
楽しそうに話す
若い主婦達や
連れられて来ている
子供達の歓声、
散歩がてら休んでいる
高齢者などで
にぎわっていたので
とりあえず
自分も中に入り、
コンクリート製のベンチに
腰を下ろす。
特にすることも
なかったので
スマホを開いて
ネットを見たり
保存してある画像や動画を
眺めたりしていた。
俺、こんなとこで
何してんだろ?
でもあのガッコには
もうゼッテー行けねぇし
誰かに話したって
どうせ、誰も
信じねぇだろぅし…
そう思いながら
画面に映している
可愛らしいアイドルの
画像を眺めていたが
…あれ
これ、動画じゃねぇよな。
なんで、後ろの影とか
動いてんだ?
よく見てみると
なんと、画像に映る
水着姿の女性の後ろ側から
あの不気味な女が
顔を半分だけ出し、
青白く光る目で、こちらを
じっと見つめている!
「ぎゃああああああああ!!」
驚いてスマホを投げ、
ベンチからずり落ちて
ひっくり返る!
…そして
仰向けになった
自分の腹のあたりから
じゅく、じゅく、と
あの女が「生えて」きて
ニヤリと笑う。
「…ここに、決めた…」
†††