7 ならば、余の事を好きになればいい
「ごめん。結婚辞めよう」
「なぜだ?」
「私が女神じゃないから。魔王を部屋から出すために召喚されただけなの。ねっ、シリウス」
お願い。シリウス、助けて。
そんな願いがこの魔界で叶うはずもなく、シリウスの言葉によって沈められた。
「あら、女神補欠にでもしておけばいいじゃないの」
私はやっぱり、補欠なのか。
まぁ、女神仮とか言われてもいやだけどさ。
「ねぇ、そんな簡単に決めていいの?女神はたった一人だけなんでしょ?私と違って代わりなんていない存在なんだよ」
「そうね、女神はたった一人よ。でも、美咲もたった一人だけの存在だわ。誰かの代わりなんていないって事、美咲だって知っているでしょ?」
「そうだけど……」
「たしかに異例の事よ。魔界始まって以来、女神以外の人が魔王様の妃になった事なんてないもの」
「だったら――」
「だったら何?女神ってだけで、でかい面したただ綺麗なだけの女神。悪いけど、そんなお飾りは邪魔になるからいらない。私達が必要なのは、私たちを認めてくれる存在なの。美咲とは会って間もないけど、私たちを同等に扱ってくれた」
でも、今日あったあまり知らない人と結婚なんて覚悟はない。
ただ帰りたいから結婚するって言っただけだもん。
「魔王、私の事好きじゃないでしょ?」
「余と美咲は今さっき知り合ったばかりだぞ?」
「だよね」
世間では、ひとめぼれとかもあると思う。
でも私たちの間にはない。それはわかる。
「私は結婚するなら、ちゃんとお互い好きどうしでしたいの」
「たしかに、そなたの言う事は一理ある」
「でしょ?」
「――それならば、余の事を好きになればいいではないか」
え?
ふいに顎に手をかけられ、上向きにされたかと思ったら唇に何か触れた。
それがキスだとわかるのに、そう時間はかからなかった。
「~~~っ」
「おお。赤くなった。美咲はキス初めてなのか?」
「ち、違う!!急にするから!!」
「そうか。なら、次からは事前申告しよう」
鼻歌でも歌いそうなテンションで言うの辞めてよ。
なんか調子が狂っちゃうじゃんか。
「美咲が余の事を知らないように、余も美咲の事を知らない。だから、お互い知って愛し合い結婚しよう」
「そんなの好きになるかわからないじゃんか」
どんだけ魔王は自分に自信があるのよ。
「そうだ。好きになるかもしれないし、ならないかもしれない。だがまず、お互いを知らなければどちらにも転がらないという事だ」
たしかに正論だけど……
じっと魔王の顔を見る。
いたって真面目で、冗談で言っているわけじゃなさそうだ。
「……わかった」
「そうか。よし、今日から美咲は我が婚約者だ」
えぇっ!?これって婚約した事になるの!?違うよね!?
その後の彼らの暴走は酷かった。
婚約じゃないって言ってるのに婚約パーティーは開くし、『魔王様婚約。相手は女神補欠の美咲様。魔界には珍しい個性的な顔立ち』なんて失礼な号外新聞は発行するし。