5 私、結婚します
へ~。やっぱ広い。
何畳ぐらいかな?二十五メートルプールは、らくらく入るだろう。
机と無数の本棚。それからソファに、サイドテーブルと十人以上は寝れるぐらいの大きいベット。
一度でいいから、ああいうベットで眠ってみたいな~。
私は魔王の隣りのソファに座りながら、そんな室内を見回していた。
「そんなにこの部屋が珍しいか?」
「うん。ここ広いもん。私の部屋なんて、六畳だよ」
しかも他にも部屋あるし。
左右の壁には扉がついている。
どうやら他の部屋にも続いているようだ。
「そなた、名はなんと申す?」
「田中美咲」
「ほう。美咲か」
ほんとにこれが魔王?
なんていうか、穏やかオーラ全開なんですけど。
紅茶をいれてくれた上に、お菓子まである。
まるで縁側でまったりとお茶している気分になってきた。
「要件だけ言うけど、魔王」
「なんだ?」
「早くこの部屋から出て、執務に戻って。そして、さっさと私を元の世界に戻して」
「外は嫌だ」
急に魔王のテンションが急降下した。
一体、女神様とやらに何をされたの?
「ねぇ。女神様になにされたかわかんないけど、みんな外で貴方の事待ってるんだよ。あの人達はたしかに顔が良いけど、女神とは違う」
「……わかっておる」
「わかってないよ。あの人達の事信じられないの?今まで、あなたと一緒に働いて来たんでしょ。それに、貴方はこの魔界で一番偉い人なんだから、ちゃんと仕事しなきゃ。民だって部下だって困ってるよ。税金払ってるんだし」
魔界に税金なんてあるかわかんないけど。
「……。」
魔王は何も言わす、ただ俯いてしまった。
「余が怖いのはあやつらではない。あの女が戻ってくるかもしれないのが怖いのだ。だから、わざわざここに近づけないように結界を張った」
「えっ。でも、魔界と人間界の扉は閉じたって聞いたよ?だったら――」
「おぬしはわかっておらん。あやつの恐ろしさを」
ちょっと~、女神さん。ほんと貴方何をしたんですか?
魔王は青ざめ、ガタガタと震え始めた。
「余は絶対に嫌だ。顔も見たくない。あの女の存在を記憶から消し去ってしまいたい」
ほんと何したの?女神さん。
「そのようなやつと結婚するなんて余は絶対に嫌だ」
「別に結婚しろなんて言ってないでしょ」
「しなければならないのだ。魔界で魔王は女神との婚姻以外認めておらん」
「なら、他の人と結婚したら?私みたいに、異世界から呼べるんでしょ?私の世界そんな悪女めったにいないから、次召喚した子なら大丈夫じゃないかな?」
「……。」
魔王は急に黙り始めた。
やっぱ無理か~。
女神として召喚したんだもんね。
「ごめん。やっぱそんな都合よくいかないよね。女神は一人だけだし」
「……いや。それは良いアイディアだ。美咲、そなたが余と結婚すれば良いのだ!!」
魔王は憑き物が落ちたような顔でこっちを見ている。
さっきと違い、表情が明るい。
「はいっ!?なんでそうなるのよ。第一、私は女神として召喚されたわけじゃないってば。あなたをここから出すために召喚されたの」
「問題ない。女神補欠という事にでもしておこう。魔界は一婦制。余がそなたと結婚すれば、あの女と結婚しなくてもよい」
なんか妥協した感が見えてしょうがない。
というか、そもそもそんな簡単に決めていいの?
「そなたが余と結婚してくれるのなら、余が外へ出よう。そして、そなたを元の世界へと戻そう。どうする?戻りたくないのか?」
「結婚すれば戻してくれるの?」
「あぁ」
仮にこっちで結婚したとしても、私の世界では未婚。
それに戻ってしまえば、私とは全然関係なくなる。
ということは――
「わかった。結婚する。だから、外に出て。そして、私を元の世界に返して」