3 結界はいとも簡単に
「――って事は、これは本当に夢じゃないって事?」
「残念ながら」
シリウスの返事に、頭を抱えた。
なんで予言に私が出てくんのよ……
今回の騒動は私が解決出来るらしい。
でもそれはあくまでシリウスの予言の中の話だ。
私はその予言のせいで、召喚されたてしまった。
普通、異世界召喚なら妃候補や女神とかの逆ハー溺愛コースってあるはずだよね?
それが一切なくて、魔王を部屋から連れてこいって話だけかよ。
「大学とかバイトとかもあるんですよ」
出来れば事前連絡入れてほしい。さすがにいきなり召喚は困る。
こっちにはこっちの生活あるんだし。
私はこの間大学の入学式を迎えたばかりだ。
一人暮らしをしながら大学に通っている。
家からの仕送りは一切なく、自分でバイト代を生活費に充てていた。
そのため、一日でも休むとキツイ。
「安心して。魔王様なら、貴方をすぐに元の世界に返す事が出来るわ。だから魔王様の元に行って、私たちの元に引きずり出して来て欲しいの」
「引きずり出してって…。魔王っていうから男ですよね?力じゃ勝てないでしょ」
「あら、大丈夫よ。私の予言は外れないもの。それじゃあ、お願いね。ここから先は、私達は先に勧めないの」
「は?」
足を止めるシリウスに首を傾げた。
だって、目の前には何の障害もない長広い廊下だったのだから。
「強力な結界がはってあるんですよ」
隣にいたグレイルが手を伸ばす。
「結界?」
「ええ。この結界はただ容姿の整っている者を通さないだけの結界なんで、美咲様なら結界は意味がないはずです。魔王様の部屋までは、このルルが案内いたしますのでついて行って下さい」
そう言ったグレイルを殴りたかったが、ぐっと堪えた。
これも帰るためだ。
早く帰りたい。
「ところで、ルルって?」
「はいっ。ぼくです!!」
「ん?」
声のした足元に目を向けると、トカゲが二本足で立っていた。
いや違う。トカゲじゃない。
これは――
「ドラゴン……?」
「はいっ。そうです。ルルはどらごんでしゅ」
そこに居たのは羽の生えたトカゲじゃなく、小さいドラゴンだった。
ちゃんと話せないには、まだ幼いからだろうか?
私はそっとルルを抱っこした。
「ルルっていうの?」
「はいっ。みちゃきさま」
うわ~。これすっげぇ可愛い。
手のひらサイズのルルは、宝石のような青い目でこっちを見ている。
マグカップの方が大きいかも。
「ルルはまだ幼く、人型にはなれないんです。そのため、この結界を潜る事ができるんですよ」
「そうなんだ。じゃあさっそく行こうか、ルル」
私はシリウスとグレイルに手を振り、別れを告げると足を進めた。
悲しい事に、やっぱり私にはこの結界は意味がなかったようだ。