表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

番外編 それぞれの恋愛のかたち。

「美咲。待つのだ!!」

その美声を無視して、私は足を速め館内を歩く。

左右は色鮮やかな魚とやたらデカイ魚が入った水槽、それから熱帯植物がディスプレイされている。

見たくてしょうがなかった展示物なのに、今では素通り状態。

せっかく入場料払ったのに。


……魔王がだけど。


「美咲」

いくら呼ばれても後ろを振り返る気はない。

私の気分を害したのは、全部追いかけて来るあの男――魔王のせいだからだ。

さすがにあのいつもの格好だと浮くので、人間界用に服を着用している。


「一体何をそんなに怒っておるんだ?」

「誰のせいだと思ってんのよ!!」

初めての人間界デート。

定番かな?って思ったんだけど、私達は水族館に来ていた。

すぐそこの広場でドラマの撮影をやっているせいか、館内に人の姿はあまりなくまばらだ。

これはラッキーだった。

だって人目をあまり気にする事なく、二人だけの時間を楽しむ事が出来るんだもの。


魔王は他の人から見れば容姿が整っている上に、髪長いし身長高いしで目立つ。私がちょっとトイレとかに行って離れると、すぐに女の子に逆ナンとかされてる。

一緒に居れば、その容姿が半減するぐらいデリカシーがない事がわかるのに。


「誰のせいなのだ?美咲、安心するが良い。美咲の気分を害したものは余が――」

「魔王のせいだってば!!」

足を止め魔王を怒鳴る。

すると、魔王は目を大きく瞬きした。

「余のせいなのか?」

魔王は目を大きく瞬きしている。

こいつ、やっぱり気付かなかったのか……


本当に途中までは良い感じだった。

それが狂ってしまったのは、あの愛嬌がある顔の生き物――ウーパールーパーを見た瞬間。


魔王、なんて言ったと思う?

あいつ、「美咲がおる」って言ったのよ!?

婚約者をウーパールーパー呼ばわりするなんて。

どんだけデリカシーなければ気が済むんだ。

ペンギンコーナーに居たバカップルなんて、「あのペンギン、お前みたいに可愛いな」って言ってたのに!!

私はウーパールーパーかよ。

せめて似てたと思っても黙っておけっうの。


「――桜音は本当に水族館が好きなんだな」

「うん。大好き」

「そうか、俺も好きだ」

いらつきの中、聞こえてきたのは近くに居たカップルの声。

水族館という事もあってか、家族連れやカップルが圧倒的に多い。

何気なく聞こえてきたその声に足を止め視線を向けると、そこに居たのは長身のモデル系のイケメンと女の子だった。

二人ともサンゴ礁をモチーフにしたディスプレイがある水槽の前にいる。

その水槽には小さい熱帯の小魚が自由気ままに泳いでいた。


彼氏はイケメンだけど、彼女普通っぽいかも。

あ~、でもふわふわした感じで女の子って感じがするな。


「なんでこんなに可愛いんだろうな」

イケメン君は、彼女を見つめ呟く。

でもその甘い視線に気づかず、女の子は魚にくぎづけだ。

「ん~、なんでだろうね。やっぱり小さいから?暖かいところの魚ってカラフルで綺麗だよね。海は、何か好きな魚いる?」

いや、あの会話噛みあってないって。

たぶん、彼氏さんはあなたの事が可愛いって言ったと思うよ?

今だって魚じゃなくてあなたのほうばっか顔を緩ませて見つめているし。


「……いいな」

思わずぽつりと出た。

だってそうじゃん。

周りから見ても愛されてるってわかるぐらい愛されてさ。

まぁ、本人は気付いてない可能性あるけど。


それに比べて私と魔王なんて――


「美咲っ!!」

「何よ」

「まさか余と言うものがありながら、あのような男に現を抜かしたというではあるまいな!?」

魔王はさっきのイケメン君を指差す。

人を指差すなっうの。


「だったら何?」

売り言葉に買い言葉。

そんな事思ってるわけない。

まぁ、ちょっと羨ましいけどさ。


「美咲は余のものだ」

「――っ」

いきなり抱きよせられたかと思うと、唇を塞がれてしまった。

それは呼吸を忘れるぐらい突然の出来事。


「え、あ、え、え」

どうやら見られてしまったらしい。

本来なら一番戸惑うのは私のはずなのに、あの女の子の方が戸惑ってしまっているらしく、裏返った意味のない声が聞こえて来る。

さすがにここだとマズイ。

そう思ってすぐに引き離すが、また再び唇を塞がれてしまう。

独占欲なんてあるんだ。ウーパールーパーと一緒にしたくせに――


「か、海っ!!」

「ん?どうした?俺達もキスしょうか?」

「……え。そうじゃないってばっ!!私達お邪魔虫なの!!」

いや、邪魔なのは公共の場でキスしてる私達なので……

二つの足音が遠のいて行くので、あの二人はこの場を立ち去ってしまったのだろう。

どうしよう、せっかくのデート中だったのに悪い事しちゃったよ……ごめんね。


「美咲。余を捨てないでくれ」

やっと唇が離れたかと思うと、魔王の口からはそんな言葉が漏れた。

なんでそんな方向に話いくのかな?誰も別れるなんて言ってないじゃん。


「もし美咲が他の男に現を抜かしたら、余はその男を消す」

何を大げさなと言いたいが、前回のルルの件があるから本当にしそうだ。

だったらなんでそうやってウーパールーパー発言とかするんだろう?


「私じゃなくて、ウーパールーパーとキスすればいいじゃん」

「美咲は何を言っておるのだ?余は美咲とキスしただろ」

ああ、あれか。魔王の中ではもう、ウーパールーパー=私か。

私、あんな顔なのかなぁ。

もう、だんだんわけがわからなくなってきたよ。

今度学校で友達に聞いてみようかな~?

私、ウーパールーパーに似てる?って。


「……もういいや。ルルにお土産買って行きたいし遊覧船にも乗りたいし、とにかく先進もう?」

私はいろいろあきらめて、魔王の手を握った。

執務室にこもっているからか、体質なのか魔王の手は色白だ。


「機嫌は治ったのか?」

「うん。まぁ、これも修行かなんかだって考える事にしたから」

何の修行かわかんないけど。

もしかして、私悟りの世界入ってる?


この分だときっと魔王と式を上げる時は、今より心広くなってるかもしれない。

……たぶん。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ